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スイーツな王様  作者: 月帆
本編
75/114

久しぶりのお菓子作り

リュミエールが傷を受けてから数日、月の離宮には穏やかな空気が流れていた。


「ベタ惚れでございますね。」

そこには、数日恒例となった朝の贈り物に手を叩くマリアの姿があった。

月の離宮のサロンに届いた、抱えきれないほどおおきな白い花を、マリアは手際よく花瓶に差し替えていく。

すでに部屋の中には、赤・黄・紫…いろとりどりの花が所狭しと飾ってある。

「ご自分で採ったお花ですって。ロマンチックですわね。」

『おほほほっ』と声が聞こえそうな調子でマリアが、古くなった花を抜き取り、近くにいた騎士に手渡していく。

「食べれるものがいいわ。」

花に囲まれたテーブルに肘を付きながら、冷たくロザリアが言い放つ。

「お礼にお菓子でも?」

「お礼じゃないけれど……まあ、いいかもしれないわね。そうね、ティラミスでも作ろうかしら。」

マリアは笑った。

「よろしいんじゃございませんか。」

「どうしようかな、材料。手に入るかしら。」

思い悩みため息を吐きながら、自信なくロザリアはつぶやいた。

マリアもため息をつく。

寵妃として月の離宮まで与えられ、寵妃としての実態はどうであれ王の心まで奪っておきながらおかしなことを心配するとマリアは苦笑する。

寵妃ならば、どんな美しい宝石でさえ欲しいといえば手んいれることができる立場にいるというのに…。

周りを警護する騎士たちも同じ気落ちだったのだろう、視線が合うと思わず苦笑した。


「姫様は、わがままをおっしゃるところが違いますね。警護を抜け出される方がよほど大きなわがままだと思いますが。」

珍しく騎士も言葉を発した。

「だって、ああしないと私以外が危険じゃない。」

不敬と処罰されても仕方がない言葉を言った騎士に、ロザリアは申し訳なさそうな顔で生真面目に答える。

マリアは再び、認識の違いにため息が出るのを止められなかった。

女官長にお菓子作りの伺いをたてると、騒ぎが続いているというのにあっさりと許可が下りた。

ロザリアは嬉々として身だしなみを整え、通いなれた離れの厨房に護衛の騎士とともに歩いていった。


「いやあ、まさか姫様だったとは。驚きじゃ。」

ティラミスの材料を持ってきたのは料理長だった。

マリアの姿を借りてお菓子を作っていたことを咎める風でもなく、豪快な笑いとともに材料を渡してくれる。

「ごめんなさい。騙してしまって。」

ロザリアが申し訳なさそうに、素直に誤った。

「いい、いい。誰にだって知られたくないことはある。かくいうワシだって……。」

今までの経験から、話が長くなりそうだったため、ロザリアは話を遮ることにした。

「いいの。言わなくても。」

「そうか、きっと穣ちゃん、いやロザリアにはお見通しなんだな。」

茶目っ気たっぷりに料理長が片目をつぶる。

「本当に亡くなった妻にそっくりだ。」

本当に話が長くなりそうだった。

「で、材料は。」

「そうそう。ロザリアの顔を見たくなって思わずわしが持ってきてしまったんだが、最高級品を持ってきたぞ。」

そういって料理長はたくさんの食材を見せてくれた。

料理長の部下が後ろで咳払いをする。

「ああ、わかっておる。そろそろわしも帰らなきゃならん。」

「ありがとうございます。」

ロザリアは頭を下げた。

「いや、あいつを頼む。」

そいうって料理長は頭を下げる。

「別に、作りたかっただけだから。」

少し居心地の悪さを感じたロザリアは顔を背けながら答えた。


料理長は大人の笑みを浮かべて去っていった。


残ったのは護衛の騎士とロザリア。

「さ、楽しいお菓子作りの時間だわ。」

嬉しそうな声が響いた。


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