黒い森の残り味
当然の事のようにリュミエールとマシ、女官長は月の離宮にやってきた。
リュミエールの腕に巻かれた汚れた包帯を、マシは新しい包帯に取り替えていく。
「陛下。」
ロザリアは、マシが器用に包帯を取り替えていく姿を見ながらリュミエールに声をかけた。
「申し訳ありません。私をかばって…」
ロザリアの言葉をリュミエールが遮った。
「好きでやったことだ…それよりマシ、あの女は。」
「死にました。」
冷たい声でマシがエリザの死を報告する。
「だろうな。」
リュミエールは大して興味もわかない様子で返答する。
「毒の原因は?」
「今調べております。」
マシが淡々と報告していく。
「ロザリア様が襲われたことを公にしなかったことがエリザの侵入を許した原因ではないでしょうか。」
女官長も話しに加わる。
「公にしなかったから、入り込めた…か。警備が甘すぎるな。」
リュミエールが冷たく言った。
「申し訳ございません。」
女官長が頭を下げる。
「いい訳より、原因を…あの女の黒幕を見つけろ。」
リュミエールが話していると、部屋の扉が荒々しく開かれる。
「こんな危険な場所に姉上を置いてはいけません。」
顔を幾分高潮させながら王子が言った。
「先ほどは助かりました。」
リュミエールが立ち上がり王子に手を差し出す。
王子はリュミエールの手を払いのけた。
「宴はどうしたの?」
ロザリアが王子の姿に思わず尋ねる。
「抜けてきました。」
怒りを隠そうともしない様子で王子が答える。
「こんな茶番に姉をつき合わせるつもりはない。」
そう言ってロザリアの腕つかんだ。
「国につれて帰ります。」
王子が断固とした口調で言い切る。
「おもしろいわね。」
王子の強い口調を留めたのは、王子とともにやってきた従姉のメマリーだった。
王子とは違い、ゆっくりと優雅な歩調で部屋に入ってくる。
「もともと、この国に来たのは、貴方の王位継承権繰り上がりの儀式にロザリアを招くためだものね。」
メマリーは大きな羽の付いた扇を広げる。
「少し早く帰ることになっても、いいんじゃないかしら。ね。」
そう言ってメマリーはロザリアに同意を求めた。
「無理よ。」
ロザリアは自分でも頭が冷えていくのが分かった。
「姉上。」
王子はロザリアの反応を予期していなかったのか、驚いた声をだす。
「貴方、私…それにお姉様。王位継承権を持つものが3人も、それも連なって帰れるわけがないでしょう。誰かに襲ってくださいといっているみたいじゃない。」
そう小国とはいえ、王位継承権を持つ3人が一緒に他国から移動する…ありえない。
何かをたくらむ人間の標的になりに行くようなものだ。
大体、王位継承権が繰り上がろうとしている、この時期に王子が他国へ出ること自体がおかしい。
ロザリアがメマリーに視線を合わせた。
「さすがロザリア、よく気が付いたわ。」
メマリーが形のいい唇を大きく弧を描かせる。
「見習いなさい。」
メマリーが王子に向かって冷たい声を出す。
王子がロザリアの腕を放した。
「真っ直ぐなのは悪くはないけれど…まだまだね。」
おかしそうにメマリーが笑う。
「わざわざ私が…殿下がいらしたのは、ただのわがままだけれど…ここに来たのには意味があるわ。」
メマリーが優雅に部屋の中心に置かれたソファーに一人腰掛けた。
「少し、熱いわ。」
そう言って胸の開いたドレスを扇で扇ぐ。
「お茶にしましょう。」
黒い笑顔をメマリーは見せた。




