スコーンのお味はいかが?
ロザリアは料理長に材料を伝えると、料理長の部下たちが相変わらずきびきびした動きで材料を揃えてくれた。
「スコーンかい。」
「ええ。」
料理長の問いかけに答える。
小一時間かけスコーンを作っている間、忙しいはずの宰相と料理長は別室で出来上がるのを待っていた。
宰相に何か言われたのか、料理長はぐったりした様子だった。
逆に宰相は嬉しそうな顔をしながら、スコーンを持ち執務室へと帰って行った。
「マリアちゃん、気に入られたみたいでよかったじゃねえか。」
料理長が微妙な顔を向ける。
「でも、あれお菓子食べたいだけじゃないですか?」
思わず本音が出た。
「可愛い我が陛下、よく頑張っていらっしゃるようですね。」
宰相が大袈裟に手を広げリュミエールを褒め称える。
「厄介な案件ばかりだな。」
リュミエールは手を上げ背筋を伸ばす姿勢をとりながら宰相に言った。
「王ですからね。仕方ありません。
執務は及第点を今日のところは差し上げてもいいですが、王としては落第ですね、子をなすことも仕事のうちですよ。」
リュミエールは宰相の言葉を無視し、オスカーが持ってきたスコーンをほおばった。
「これは前のケーキと同じ者が作ったのか。」
「よくお分かりになりましたね。」
「素朴だが、うまいな。俺にあってる。
王宮のデザートは食べられるところは少ないが仰々しい。この菓子は、お前の家にいる料理番ではなさそうだな。」
宰相は「ふふ」っと笑った。
「また持ってきますよ。作れたら連絡がくるはずです。さあ、きりきり働きなさい。」
その笑みはいい飴をてにいれた笑みだった。
「ごめーん、マリア。遅くなっちゃった。」
ロザリアは影武者を頼んでいたマリアに謝る。
そして、従者とは席を同じくしないという慣習をあっさりと破り、二人はおいつものように茶を始めた。
ロザリアはマリアに今日の出来事を話した。
「それは宰相様が姫様を気に入られたのでは?」
「ん。…それだったらわかるんだけど。なんかお菓子のことばっかり。それなのに宰相は出来ても食べなかったし。」
腑におちない点を説明する。
「もしかしたら想い人様に差し上げているのでは。」
あまり興味のない話題にロザリアは気のない返事をするばかりだった。
「ねえ、それより宰相の側にいた侍女知らない?」
「姫様、そんな説明ではわかり兼ねます。」
ロザリアは特徴をかいつまんで話す。
表向きのメイド服を来ていたこと、特徴のなさが特徴になりそうな中年の侍女。
「それでは表の…王宮の外向きの侍女のマッキーニ様かズッキーニ様ですかしらね。」
まったく要領を得ない説明だが、ロザリアのいた場所、時間を考慮しながらマリアは頭に思い浮かんだ名前を伝えた。
「マスキンの方?」
「いいえ、聞いたことはございませんが。」
「そう。お香かな?残り香が微かにキソウだったように思ったんだけれど。
あれはマスキン特有のハーブだから手に入りにくいのよね。使いたいから…と思ってたんだけど、思いすぎて勘違いしちゃったのかもしれないわね。」
「姫様は嗅覚と味覚はすさまじいですものね。薬師になれますわ。」
「薬師かー、国に帰ったらそれもいいよね。」
「調合も侍医にいくつか教えてもらっていますし。」
二人は仲良く、そう遠くない将来暇乞いをして帰るであろう祖国での話に花を咲かせる。
「さ、次は何を作ろうかな?」
ロザリアの楽しそうな声が室内に響いた。
誤字脱字・文章推敲いたしました。