甘酸っぱい飲み物
「このお肉いい香りがしますね。」
豪快に皿の上に盛られた肉をロザリアは頬張り、リュミエールに話しかける。
「ああ、これはトーデツハ地方で採れた植物の葉でくるんで蒸した料理だな。」
リュミエールがロザリアのたわいもない質問に答える。
「どのような植物ですか。」
ロザリアがしっかりと肉の味を確めながら話を続ける。
「また行って教えてやる。」
リュミエールが答える。
ロザリアはリュミエールの言葉を無視し、話題を変えた。
「これは初めての味です。」
そう言いながら、手元においてある赤い飲み物を口にする。
「すっきりしていますね。」
赤い飲み物はほどよい酸味とすっきりとした後味を舌に残す。
「ああ。気に入ったか?」
リュミエールは言葉を無視されたことを気にする風もなく会話を続ける。
たわいもない会話を続けながらも、リュミエールはロザリアの2倍以上の勢いで皿を空にしていく。
「どうした。」
リュミエールの気持ちのいい食べっぷりに見とれていたロザリアの様子をおかしいと思ったのか、リュミエールが問いかけてきた。
『陛下の食べっぷりに見惚れていました。』
とも言えずロザリアは自分の皿に盛られた肉を見る。
「いえ、料理にもお詳しいと思いまして…」
言葉を濁しながら話題をリュミエールにふる。
「ああ、自国のことだ。当然だろう。」
不自然さは感じたはずだと思うが、リュミエールは威張るように言った。
「そうですね。」
ロザリアが同意する。
「冗談だ。」
ロザリアが同意の言葉を言ったとたん、リュミエールが意地悪く笑った。
「まぁ、特産物は知っているさ。だが、自分で作ったこともない料理のことを覚えたのは訳がある。聞きたいか。」
「いいえ。」
いかにも『聞け』というリュミエールの言葉にロザリアは即答した。
「自国の…自分のことを知れといったのは母だ。」
ロザリアの否定の言葉を無視してリュミエールは話し始めた。
「料理は…生きることは食べることだ、と教えてくれたやつがいてな、どう思う。」
ロザリアの反応をうかがう様にリュミエールが続ける。
「当たり前ではないですか?」
ロザリアが話を聞く気のないリュミエールに相槌をうつ。
「ああ、当然の理だ。けれどな、料理なんてもの口に入って消化さえできればいいと思っていた俺にそいつは言ったんだ。」
わざと間をリュミエールは置いた。
「生きるために食べる、食べるために生きる…せっかくだったらおいしい時間を過ごさないと損じゃないですかってな。」
感動した話のようにリュミエールは熱く語っているが、それに反比例してロザリアの頭は冷えていく。
だって、当たり前じゃない…と。
あたりの喧騒を気にすることなくリュミエールは冗談めかしながら続ける。
「当時の俺は結構やんちゃでな、いろんなやつから狙われていたから、食べるものなんて安全であればいいと思っていた。」
確かにとロザリアは納得する。
いつのことか分からないが、王であれ王子であれ、狙われる対象ではあるから。
「それじゃダメだって彼女は怒ったんだ。」
なんとなくロザリアは聞きたくない話になってきたと思った。
リュミエールの口から出た『彼女』の単語、嫌な予感がする。
ロザリアの口の中に残っていた甘酸っぱい味が急に消えていく。
「そんなことで怒る彼女を手に入れたいと思った…と言ったら笑うか?」
「いいえ。」
ロザリアが短く答える。
ここで話を終わらなければ…とロザリアは思うのに、ロザリアの口は自然に動いていた。
「手に入りましたか?」
「もう少しだ。」
嫌な予感は的中するものだとロザリアは思った。
現在も、リュミエールの気持ちは続いている。
そしてロザリア自身、リュミエールに向ける厄介な気持ちも続いている。
「絶対手に入れる。」
リュミエールが力強く言った。
私には……絶対手に入らない。
ロザリアはそう思った。




