お忍びのスイーツ
ロザリアが月の離宮に迎えられてから一ヶ月が経とうとしていた。
あからさまな嫌がらせやたちの悪い贈り物もロザリアの手元までくることはなくなった。
そのかわりに貴族や貴婦人たちの夜会、茶会の招待状が束となって届くようになっていた。
この日も山のように積まれた、招待状をロザリアは面白くなさそうに一枚一枚読んでいた。
「いつまでも、離宮にこもっていることはない。ちょっとは外に行ったらどうだ。」
リュミエールがロザリアの元に来るなり、ロザリアの手から招待状を面白くなさそうに取り上げ言う。
リュミエールが執務の合間、時間ができてはたちよる姿も日常となってきていた。
「別に、前も後宮から出てませんでしたし。今は離宮というだけで十分な広さをいただいております。それより陛下は執務に戻られては?」
ロザリアが優雅に…面倒くさそうな態度で答える。
「宰相と同じことをいうな。面白くない。それより、本当に閉じこもっていないで出てこないか。」
「なにか?問題が?」
最近、執拗にリュミエールが外へ誘おうとする。
「庭を歩かないか」
「庭ですか?離宮の庭は散歩していますけれど。」
まるで閉じこもっているのを心配するリュミエールの姿にロザリアは怪訝そうな表情を向ける。
そして、心の中で付け加える。
マリアとよく庭は散策しています…と。
さすが大国の王宮、離宮だけあって庭も素晴らしかった。
四季おりおりの花々、木々。
国元では自然と触れ合っていたロザリアにとって散策をあきらめることは罰を与えられることに等しいことだった。
「俺が案内してやろう。」
「え?」
思わぬ言葉に戸惑いを隠せない。
「見世物はごめんです。」
前回の出来事を思い出しながらロザリアが言った。
「でも、外に行くのもたまにはいいかもしれませんね。これでも行こうかしら?」
そう言ってロザリアは招待状の中からバミュー侯爵家の開く夜会を選んだ。
「軽い 貴族の集まりですから、陛下は参加出来ませんね。」
ロザリアが意地悪く言った。
その反応にリュミエールは気分を害したのか素っ気なく部屋を出て行く。
「たまには思い通りにならないことも覚えないとね。」
ロザリアは気分を害したこともなく立ち上がる。
「ま、休憩は私も終わりかな。マリア。」
侍女の名前を呼ぶ。
「はい、姫様。」
「例の件は調べてくれた?」
「ええ、姫様。マスキンとの国境で起きている争いですが、軍事会議の記録と戦歴の結果は照らし合わせております。」
そういって数枚の書類を差し出す。
マスキンとの戦歴と戦の中央会議に出席した者の名前が書いてあった。
「今のところ会議に参加したものでマスキンと関係していると予想される人物は見当たりません。」
真剣にロザリアはマリアの持ってきた書類に目を通す。
「こういうことは、あまり好きじゃないのにね。」
ロザリアが読み終えてため息をついた。
「好きじゃないのと得意じゃないは同義語ではありませんわ。」
マリアが目を輝かせる。
「これって公開されていない書類でしょうに…マリアだって悪い子じゃない。」
ロザリアは書類をマリアに手渡した。
「少し、出かけて見たいわ。」
ロザリアはにっこり微笑んだ。
「でかけるわ。マリアお願いね。」
いつもであれば止めるはずのマリアもしっかりとうなづいた。
「騎士さまたちの目をごまかせますかね。」
マリアが少し心配そうに言うと、ロザリアはにっこりと笑った。
いつものように騎士達はロザリアの部屋の前で護衛している。
マリアは数冊の本をもちロザリアの部屋の扉を叩き、騎士が扉を開ける。
「少し本を読みたいの…陛下は今日は来られるかしら?」
ロザリアはマリアを招き入れながら部屋の中から声をかける。
「今日は視察にいかれたようですが、わかりません。」
マリアが答えた。
「そう、昨日読み終わった本、図書室に返してきてくれる?」
「かしこまりました。」
マリアはロザリアの部屋へ入り直ぐに何冊かの本を抱えて出てくる。
本を数冊落とさないように抱えながら、騎士たちの前を会釈し通り過ぎた。
「大成功。」
数日前から頻繁に図書室から本の貸し出しをマリアに行わせ、顔が見えないように本で隠し月の離宮抜け出したロザリアは小さくつぶやいた。