緋色の薔薇とティータイム
たわいもない会話を続けながら案内された庭には、見事な緋色の薔薇が咲き誇っていた。
「見事だろう。」
リュミエールが世話をしているわけでもないのに、誇らしげに言った。
ロザリアは素直にうなづいた。
「紅いですね。」
薔薇には…というより、食べれられない植物にはあまり興味のないロザリアが相槌を打つ。
「陛下。」
甲高い声が聞こえる。
噂のクヤキワ公爵令嬢かと振り返る。
「あら?」
思わず見知った顔にロザリアが小さな声をあげた。
「どうした?」
小さな声でリュミエールが尋ねる。
まさかいたずら返しをした貴族の令嬢と会ったとも言えずロザリアは曖昧に微笑んだ。
「陛下、ご無沙汰しております。」
見知らぬ顔ーと言っても侍女のふりをしていた時に何度か見たことのあるクヤキワ公爵令嬢が優雅に腰を折った。
その後ろで目を合わさないように二人の令嬢が腰を折る。
「知っているとは思うが、月の離宮に住んでいるロザリアだ。」
リュミエールがクヤキワ公爵令嬢にロザリアを紹介する。
「初めまして、エミリア・オディル・クヤキワでございます。こちらはエル侯爵様とルエ子爵様の娘、ルイード様とアニエル様でございます。」
ロザリアは静かに会釈を返した。
心なしかルイードとアニエルの顔が青い。
「私は陛下に幼少の頃より親しくさせて頂いております。」
はっきりとした口調、灰色の鋭い眼差し…嫌がらせをしてきた人物の中には記されていなかった名前。
「せっかく会えたのですもの、私ロザリア様とお話がしたいわ。」
エミリアがリュミエールに頼む。
リュミエールは予想していたのか反対はしなかった。
「どうする?」
リュミエールが何をさせたいのかロザリアは悩みつつ、笑顔を向けながらうなづいた。
「嬉しい。」
「エミリア様…。」
エミリアの後ろで二人の令嬢の声がする。
「あら?まだいらっしゃったの?」
冷たい口調ではないのに、切り捨てるような鋭さを感じさせる口調…ロザリアは頭を下げて帰って行く二人の令嬢の姿を見ながら、コレは格が違うと心を引き締めた。
「たまには、お外でティータイムなんて洒落てますわね。」
エミリアがロザリアの手をとる。
「ええ。」
笑顔でロザリアが応じた。
庭の東屋でティータイムの準備が整えられる。
「お友達はよろしかったのですか?」
ロザリアが尋ねると、エミリアはこぼれるような笑顔を向けた。
「あの方達、私が王妃候補だから近寄ってくる方達なだけで『お友達』ではありませんわ。」
エミリアの率直な物言いにロザリアは軽く目を開く。
「ごめんなさい。今は陛下とロザリア様しかいない、時間を無駄にする気はないの。」
表面上はにこやかな態度を崩さずエミリアが言った。
ロザリアも楽しそうに笑顔を向ける。
「どうやら、この国に麻薬が違法に輸入されているようです、陛下。」
ロザリアは全く関係ない会話に首をかしげたくなる気持ちを抑えて笑顔を振りまく。
「そうか。」
「内情を探っているのが、我が家だということも気がつかれているようです。」
「そうか。」
リュミエールが王の側面を見せる。
そして、エミリアが満面の笑みでロザリアに向き直った。
「私は王妃になるべく育てられました。陛下の隣に立つために。」
そう言って立ち上がる。
「あなたにその覚悟はあって?」
覚悟も何も……王妃なんてごめんに決まっていると思いつつ、困ったようにリュミエールを見た。
「陛下は、国の秘密を口にした私を止めなかった。これはあなたを王妃にと考えてるのではなくって。」
エミリアが強く言い放つ。
「といいましても…王妃を娶られるのは陛下です。」
だから、関係ありませんとロザリアが続けようとする前にリュミエールによって遮られた。
「そうだ。だから、俺はお前を選ばない。」
「陛下。」
エミリアが叫ぶ。
「俺は愛するものを王妃にするつもりだ。」
「お戯れを。」
「お前も早く好きなやつを見つけろよ。」
エミリアは優雅に立ち上がり二人に一礼した。
「あきらめませんわ。陛下。」
捨て台詞でさえ、優雅に言い去るとエミリアは二人の前から立ち去った。




