舞踏会のスイーツはボーロ・レイ
「お似合いですね。」
王に話しかけたい、取り入ろうと息巻いている貴族たちの中からさりげなく宰相が現れる。
「私の愛しい姫だからな。」
そういってリュミエールはロザリアの耳もとに口を寄せる。
ロザリアを知らない人物がみれば、ロザリアが恥ずかしがりうつむいたのだと誤解しただろう。
頬を赤く染めたのは怒りのため、うつむいたのはリュミエールと宰相を睨みつけそうになるのをやめるためだったのだが。
「これを。」
パン生地に色鮮やかなドライフルーツが散りばめられたケーキを宰相はロザリアにみせる。
「ボーロ・レイか。昔よく食べたな。」
宰相にリュミエールが言った。
リュミエールの言葉も聞こえないほど、ロザリアは初めて見るお菓子を食い入るように見つめる。
「切り分けましょう。」
そういうと近くにいた侍女にケーキを切るように言った。
綺麗に小分けされたケーキをそれぞれ手渡される。
ロザリアはゆっくりと口にケーキを運んだ。
イースト菌、独特の味わいと、甘いドライフルーツの甘酸っぱさが口に広がる。
口の中に広がる甘い味、そして歯に当たる何か?
「あったか。見せてみろ。」
ハンカチを差し出されるが、ロザリアは冷たい目を向ける。
「陛下、ご婦人に失礼ですよ。」
宰相がたしなめた。
「中に豆が入っているのですか?」
宰相にロザリアは問いかける。
「よく分かりましたね。」
宰相が優しく微笑んだ。
「ボーロ・レイに入っている豆を食べた人は次にこのお菓子を準備する役なのです…このお菓子の別名は王様のお菓子と言うんですよ。」
宰相がロザリアに説明する。
「作りたいか。」
心の中を見越したようにリュミエールが周りに聞こえないようにいう。
ロザリアは無視する。
「陛下…少し私疲れました。部屋に戻ってもよろしいかしら。」
もう一度しおらしい態度で頼む。
「ロザリアが疲れたようだ。」
そうリュミエールは言いながら宰相にロザリアの手を渡し、身振りでエスコートを代わるように示した。
「月の離宮に連れて行ってやれ、あとで私も行く。」
わざと周りに聞こえるように言う。
「承知いたしました」
宰相は何事もなかったようにリュミエール返事をする。
「つき…のりきゅ」
王族としてマナーを完璧に教え込まれたロザリアが息を呑む。
周りの貴族たちにざわめきも大きくなる。
月の離宮
それが意味するところは王の寵愛の大きさ。
王妃であっても、寵妃でなければ入れない離宮。
もちろん、王妃自身の離宮として使われた時もあるがリュミエールが王となってから、一度も開けられたことのない離宮。
それは後宮とは比べ物にならないほどの王の寵愛の象徴。
「誕生日の贈り物だ。」
悪戯っ子の笑みがあった。
宰相に引っ張られるようにロザリアは舞踏会を後にした。
「どういうことなのですか?」
空気の読めないバミュー侯爵夫人が大きな扇と身体を震わせながらリュミエールに近づいてきた。
「どう…とは?」
リュミエールがロザリアに向ける視線とは比べ物にならない冷たい視線をおくる。
バミュー侯爵夫人が怯み青ざめる。
「私が好きになった人に何か問題でも。」
周りのざわめきが大きくなる。
リュミエールが視線を向けるだけで顔をしたに向ける貴族たちの姿があった。
顔を背けるもの、青ざめるもの、興奮で顔の赤くなるもの貴族の反応をゆっくりとリュミエールは見る。
「私は月の離宮に行く。皆は楽しんで行ってくれ。」
気にした様子もなくリュミエールはホールをあとにした。