スイーツの前に
「いらしていたんですか。」
ロザリアが自分の部屋に戻ると、リュミエールが椅子にもたれかかりながら手紙を読んでいるところだった。
「どこに行っていた?」
毎日ではないものの頻繁に現れるようになったリュミエールにロザリアも慣れてきたのか、それともリュミエールを咎めることも諦めたのか文句も言わずリュミエールと距離をとりながら長椅子に腰をかけた。
「マリア、お茶をいれてくれる。」
そばに付き添うマリアに声をかける。
「わかりました。」
マリアが頭を下げた。
「俺には一言もなしか。」
「申し上げましたわ、陛下。『いらしていたんですか』と。」
しらじらしい空気が当たりを包む。
「では…私の言った言葉は聞こえていたのか?」
口調を変えリュミエールが尋ねた。
「何かおっしゃいまして?」
ロザリアが表情をかえずに言い放った。
「やっぱり面白いな。」
「私は面白くありません。まったく貴方が来てからお菓子も作れないし。」
所狭しと部屋の中に置かれた貴族たちからの贈り物の箱に視線をやる。
「こんなものよりお菓子が作りたいんですけれどね。」
「作ればいいだろう。」
リュミエールがことも何気に言った。
ロザリアは立ち上がり鼻をフンと鳴らし、リュミエールに向かって人差し指を突き出した。
「どの口でそんなことを言えるんですか。」
リュミエールが不思議そうにロザリアを見る。
「この二年も放って置かれた側室が、今更陛下の寵愛を得る。どれだけ人から注目されているかわかりますか。」
一気に声を荒げると、貴族達からの贈り物を指差した。
「こんな状態でお菓子を作れるほど私は神経が太くありません。」
大きな声で言いたいことをいうとロザリアは長椅子に再び座った。
「作りたいのだろう、作ればいいじゃないか。」
リュミエールは同じような言葉を言った。
「これだけ注目されているのにお菓子なんて作れません。外に出たら無駄に貴族に捕まって面倒臭いだけです。」
ロザリアが小さな声で悪態を続けようとしたとき。
「姫様、お茶でございます。」
マリアが絶妙なタイミングで茶器を差し出した。
ロザリアは一気飲みする。
「ああ、そういえば先ほどまでどこに行っていたんだ?」
リュミエールが再び同じ問いを繰り返した。
「そんなに気になるなら女官長にお聞きになればいいのに…今日はお勉強の日ですわ。」
ロザリアが面白くなさそうに答えた。
「お勉強?」
「今まで何もすることもなく時間が余っておりましたので、側室として知識や作法を深めるよう女官長から言いつかっておりましたの。」
ロザリアが慇懃無礼な口調で返答する。
リュミエールが補足を求めるようにマリアを見た。
「姫様は本日王立研究員のキュウイ様から御指南を受けておりました。」
「キュウイ?あの偏屈爺からか。」
「他にも数人の方から御指南受けております。」
「そうか。まだまだ俺の知らないことがあるようだな。」
ロザリアは面白くなさそうに、足を動かし靴を脱いだ。
「全部を知ろうなんて何様ですか。あら、陛下。そのお手紙どなたからですか?」
今気がついたというようにロザリアが態とらしく声をかけた。
「…こんな風に聞かれたら嫌でしょ。」
諭す口調で、勝ち誇ったようにロザリアが言った。
リュミエールは気にした様子もなく立ち上がりロザリアの座る長椅子に手を起き、ロザリアの耳元に口を寄せた。
「思い人からの手紙だよ。」
リュミエールの吐息がロザリアの耳にかかる。
ロザリアは顔が赤くなるのを、遊ばれているのを感じた。
「聞いてません。」
リュミエールは大きな声で笑った。
「聞いただろう。」
そういうと立ち上がり、マリアから茶器を受け取る。
「冗談がすぎます。」
マリアがどちらにいうわけでもなく口にする。
「どこまで聞いている?」
リュミエールがお茶を飲み干しながらマリアに声をかける。
「姫様の事でしたら、どんなことでも。」
マリアが深々と腰をおった。
「何言ってるのよ。マリア、私何も尋ねてないわよね。」
白々しくロザリアの叫ぶ声が部屋に響いた。
リュミエールはおかしそうに笑った後部屋を出て行った。
「まったくなにしにきたのかしら。」
ロザリアが顔を赤くしたままマリアに問いかける。
「さあ、あっ姫様。」
そういってマリアはリュミエールが座っていた椅子を指差した。
そこには赤いりんごが数個置いてあった。
「りんご?まだ収穫期には早いのに。」
ロザリアが不思議そうにりんごを手にとる。りんごの下には小さなカードが置いてあった。
~愛しい姫へ
ロザリアは鼻をならした。
「馬鹿にしてるわね。」
そう言ってマリアにりんごを手渡した。
「お腹すいちゃった。」
ロザリア言うと、ロザリアのお腹が都合よく返事をした。




