欲しかったのはスイーツレシピ
「それでは、私達も失礼します。」
宰相と女官長は席を立つ。
最後のフォンダショコラ……としつこく唸っていたロザリアが身を起こした。
「それ、片付けていただけます。」
そういって、ロザリアはリュミエールの持ってきた貴族の詳細について書かれた冊子を指差す。
「夜会の時困られるかもしれませんよ。」
宰相は当然リュミエールが作ったのではなく、宰相の部下が作った資料の必要性を説明しようとする。
ロザリアは片手をあげた。
「宰相様、アディ領主の第三子、騎士団に入団後エミュー伯爵に気に入られて…知略をかわれて…策略と言った方がいいのかしら、文官に、陛下の教育係を経て宰相へ。
趣味はチェス。お子様お生まれになったようですね。おめでとうございます。」
昨日生まれた宰相の子供の話題を出した。
「耳がよいですね。」
女官長が言った。
「マリアの得意技です。宰相にお菓子を渡すようになってから高位の貴族の方以外のお話も覚えるように致しました。」
ロザリアがつまらなさそうに言った。
言葉には宰相が高位の爵位を持たないことを匂わせて…
「がっかりしましたか?」
「いいえ、爵位を高くすればするだけ動きにくいこともあるでしょうし。」
「その割に貴族の話は良くご存知のようだ。」
「マリアがよくおしえてくれます。」
興味がない話題だが、マリアが毎日飽きずに話せば嫌でも覚える。
「何故?そんなことを。」
宰相がマリアの方を向く。
「何故?」
「ええ、どうして貴族や私のことを調べたのですか?」
「……姫様がお菓子を作っていることがあばかれた際に、なにか弱みを握っておければと思いました。」
素直にマリアが答えた。
「見つかりましたか?」
宰相が問う。
「…奥様に弱い事ぐらいですね。女官長も宰相も…直系王家の方は情報が硬くて、対したことは分かりませんでした。」
ロザリアがマリアの代わりに答えた。
「けれど主だった貴族の当主様の領地、名産物、家族構成ぐらいでしたら私でなくともマリアですら知っていますわ。」
宰相がマリアを見る。
「二年、暇でございますし…簡単な噂話…侍女の話でよければ、姫様はご存知でございます。」
そう、暇つぶしにマリアのふりをして侍女の姿になりぶらぶらしていたのはこのロザリアなのだから。
「おいたもほどほどにですわね。」
にっこりとロザリアは微笑んだ。
「小さな国は技術と情報がなければ貧乏国になってしまいますから。」
マリアが補足する。
「贈り物は食べ物は魚の餌に…他は売ってお金に…マリアお願いするわ。夜会は…そうね、昨日から急にリュミエール様がいらして
緊張してしまって体調がすぐれないのそうお伝えしていただけるかしら、宰相。」
王だけでなく王国の要の宰相とも懇意にする側室だとほのめかす行動をロザリアは匂わせた。
本当に頭がいい。
「かしこまりました。では私たちはこれで…。」
宰相は女官長と共に頭を下げた。
「ああ、言い忘れていました。私の弱点は陛下ですよ。」
宰相が去り際振り返り言った。
扉が閉まるのを待ってロザリアは背伸びをする。
結局宰相たちは貴族たちの情報がまとめられた冊子を置いて行った。
「あー、もう。困った人たち。こんなものよりスイーツレシピが欲しかったよね、マリア。」
マリアは一番困った人が目の前にいると思った。
誤字脱字修正しました。