最後のフォンダショコラ
翌日ー
日も登り、太陽の輝きがあたりを照らす。
ロザリアが水槽の魚に餌をやっていると、マリアが転げ落ちる勢いで突進してきた。
「姫様、大変です。贈りものに、夜会の招待状が多数、届いております。」
マリアが腕の中からあふれるほどの量の招待状を渡す。
側室としてきた当初は、ご機嫌伺いに数件の夜会の招待やお祝いが届くこともあったがもう途絶えてから一年以上が立つ。
リュミエールがロザリアのもとに二回も訪れたというのはすでに知れ渡っているようだった。
「静かな生活はいつになるかしら。」
ロザリアはため息をついた。
「今日ももてるな。我が姫は。」
マリアの後ろからついてきたのか、腕を組みリュミエールがおもしろそうに笑う。
「また、来られたのですか。」
執務の合間に立ち寄ったのか執務用の軽い服装をしたリュミエールがロザリアの部屋にいた。
後ろには宰相も分厚い冊子を持ち控えている。
「これを渡しておきたくてな。」
分厚い冊子をロザリアに渡す。
ロザリアはパラパラと冊子をめくる。
「いりません。」
ロザリアがうんざりしながら言う。
「次の夜会にくる貴族達だ。名前だけでも覚えておけ。」
リュミエールは気分を害したわけでもなさそうに言った。
「いりません。」
もう一度はっきりとロザリアがいう。
「こんな用件であれば女官長に渡せばいいでしょう。」
ロザリアが言う。
「腹が減った。マリア、昨日の菓子は余っていないのか?」
マリアがロザリアの方法をチラリと見る。
「ありません。」
ロザリアが間髪いれず否定する。
「そういえば女官長が夜会のドレスを準備するため商人を呼んでおりましたね。マリア、あなたなら姫君に似合うものを選べるのではありませんか?」
宰相が侍女を釣った。
マリアは賢く押し黙り隠してあったフォンダショコラを出し給仕に徹する。
ロザリアが恨めしげな目でマリアを見る。
「では、贈り物も夜会の返事も好きにしてよろしいかしら?陛下」
ロザリアが尋ねるとリュミエールは興味なさそうに手を降った。
「夜に訪れたわけでもないのに夜会の招待がこれほどとはな。」
たくさんの招待状をリュミエールはテーブルの上で面白くもなさそうに弄ぶ。
「ああ、姫君の誕生日祝いということでお誘いしやすかったのでしょうね。」
宰相が招待状の多さを説明する。
「いつだ。」
リュミエールが尋ねた。
「昨日でございます。」
遅れて入ってきた女官長が応える。
「昨日?」
「ええ、そのフォンダショコラは…姫様とお誕生日のお祝いをしようと思って作られたものにございます。」
マリアが誕生日すらおぼえていないのかと心の中で罵りながら応える。
「……そうか。うまいな。」
リュミエールは表情も変えることなく優雅に、そう優雅にケーキを食べ尽くした。
「もう、なくなったな。では、あとで……。」
そういうと、ロザリアの部屋を一人あとにする。
「私のケーキ………」
食べられちゃった。
「なんて、王様やろうなの。」
「姫様、お口に出ております。」
マリアがたしなめた。
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