誕生日のスイーツは
「姫様、お誕生日おめでとうございます。」
朝日と共にマリアがロザリアの部屋を訪れ、カーテンをあけながらロザリアに挨拶をする。
夜会に参加する貴婦人からすれば、ありえないと言われてもおかしくない早朝にロザリアはいつものように起きた。
「ありがとう。今日はお待ち兼ねのフォンダショコラを食べましょう。」
昨日のことも気にした様子はなく、ロザリアはお菓子の話をする。
美しい髪をとかし質素ではあるが、動きやすいドレスに袖を通した。
「姫様、陛下から贈られたドレスを着ていただくお約束です。」
「もう着替えちゃった。」
ロザリアは軽く舌を出す。
「姫様。」
「まあ、いいじゃない。着飾ったって誰も見ないしね。」
「お約束です。」
マリアは背中に隠していた大小のブラシを出しロザリアににじり寄る。
「私も、姫様程ではありませんが…なかなかやりますのよ。」
ロザリアのわがままに振り回されることの多いマリアだが、ロザリアを壁に追い詰めながらにっこりと笑顔を向けた。
「で、どうして私の部屋にいらしたのですか?」
ぐったりしたが、いつもより着飾り、つやつやと光る肌のロザリアがリュミエールに尋ねる。
テーブルにはきれいにいけられたアザレアと、皿にきれいにもられたフォンダショコラがあった。
「そう拗ねるな。恋しかったのか?」
リュミエールが楽しそうにロザリアに話しかける。
夕闇が辺りを包もうとしていた。
リュミエール進められたわけでもないのに優雅に椅子に腰掛ける。
「今日もうまそうだな。」
テーブルの上に置かれたフォンダショコラを取ろうとリュミエールは手を伸ばす。
「私のです。」
ロザリアは両手でフォンダショコラを囲い込む。
「ケチケチするな。それでも姫か。」
リュミエールはロザリアの手の隙をかいくぐりフォンダショコラを手にとり口にする。
「ああ…。」
「悩ましい声を出すな。食べられるために作ったのだろう。」
リュミエールが悪びれた様子もなく、手にしたフォンダショコラを美味しそうに頬張った。
「作るの大変だったのに……私が、私がゆっくりと食べようとおもっていたのに………。」
ロザリアは恨めしげに言葉を繰り返す。
リュミエールは軽く鼻を鳴らした。
「小さな水槽の中の魚か…珍しいな。」
ロザリアはブツブツ言っているのを無視し、話を変えるようにリュミエールが言った。
そういってテーブルの近くにある水槽を眺める。
「国から出る時に弟から貰ったものです。……ああ、また一口。」
「腹が減ったな。」
リュミエールが側に控えていたマリアに声をかける。
あまり侍女らしい行動を、主にロザリアのおかげでこの国にきてからしていなかったマリアだがロザリアに仕えるだけあってもともと優秀な侍女は軽くうなだれ部屋をあとにする。
「それで…本当になんの御用ですか?」
ロザリアはリュミエールを睨むようにみつめた。
きらめく瞳。
「本当にお菓子を食べにきただけだ。」
笑うようにリュミエールはいう。
けれど賢王とよばれるリュミエールだが冷酷な面も、苛烈な面も持ち合わせているというリュミエールの噂に目の前にいるリュミエールの声をロザリアは信じることはできなかった。
「では、私になにをさせたいのですか。」
もう一度ゆっくりと聞く。
「面白いな。」
そういいリュミエールは近づいた。
「女官長の話では頭も悪くなさそうだ…まぁ、いい。
……そうだな、まずは夜会に出てもらおう。一ヶ月後、貴族、各大使を招いての定例の夜会がある。それに参加してもらう。」
リュミエールの答えは予想もして見なかったものだった。
「夜会?今まで出たことがないのに…今更ですか?」
怪訝そうにロザリアは返す。
「少し思うところがある。王になってから敵か味方か、害なすものであるかないか…ずいぶん分けたつもりだが…色の世界はまだ分けきれてはいない。いい機会だから分けたい。」
その言葉にロザリアはリュミエールの今までの不可解な言動がつながった。
そういえば…新しい王妃もある。
噂の王妃が迎えられれば、それにつられて権力のおこぼれをつかもうとやってくるものたちもいる。
大事な王妃を迎えるために不穏分子を先にいぶりだそうとしているのか……どうでもいい側室を使って。
「わかりました。」
ロザリアはうなづいた。
「それでは私からもお願いが…正妃がいらっしゃった暁には、側室を辞させていただきたいと思います。」
リュミエールはおもしろそうに笑った。
「いいだろう。」
二人の取引成立だった。
誤字脱字修正しました。




