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スイーツな王様  作者: 月帆
本編
1/114

スイーツを作る前に

水色の侍女服に身を包んだ少女というにはやや成熟味を感じさせる女がにっこりと微笑んだ。


「ねぇ、マリア。私行ってくるから。またお願いね。」

そういって豪奢と呼ぶには質素だが仕立てのいい淡い桜色をしたドレスを侍女に渡した。

「姫様、またですか。」

マリアと呼ばれた侍女は諦めたようにうなづく。

「マリア、あなたしかいないの。もしものときはお願いね。といっても誰も来ないでしょうけど。」

この部屋の主、ロザリアは両手を顔の前で合わせマリアを拝む。

「そうですけれども・・・お気をつけて。」

ロザリアと年の変わらないマリアは仕方がないといった様子でうなづいた。

これが彼女たちの日常。


少しのイタズラとおだやかな日常。


ただし、彼女たちのいる場所を除けば…


なぜならば、彼女たちのいるこの場所は後宮。

…ロザリアは大国エミリアにおける王、唯一の後宮に侍る存在だった。

そして、王妃は未だ存在しない。

本来ならば、ロザリアの存在を疎ましく思うもの、取り入ろうとするもので騒がしいはずだったがロザリアの存在は忘れられた側室、寵愛も受けず王の顔すらまともに見たことのない白い婚姻であり、この国の貴族ではなく小国の王女という立場も手伝って静かなものだった。


「まったく側室なんて、いい迷惑よね。」

ロザリアは後宮の自室から厨房までの道程を呟きながら足早に通り過ぎる。


そもそもロザリアがこの国に…この後宮に、側室として呼ばれた理由は政略の一言に尽きるものだった。

ロザリアが側室として呼ばれる前、大国エミリア王リュミエールと敵対する国マスキン王国王女が和睦という形で政略結婚する予定だったところまで話は遡る。

和睦のための政略結婚に対して、反対意見はでなかった。

しかし、側室もおらず敵対するマスキン王国の王女のみが正妃として扱われることに対して危険視する声があがる。つまり後宮の裏向きの王宮のパワーバランスが傾くと…そのパワーバランスをとるために側室があがることとなった。

大国エミリアの側室は本来ならば自国のそれなりの貴族の姫が選ばれるはずだったが、マスキン王国の手前自国の貴族の姫は選びにくい、という王の意向により近隣諸国の姫を探すこととなる。

その結果、小国ではあるが歴史の深いロザリアの国が選ばれることになった。

「ホント、この国とは大違い。」

ふと足を止め中庭を見渡す。

中庭には色とりどりの美しい花が、貴婦人たちの目を楽しませていた。

美しい花に囲まれた中庭を見ながら、ロザリアは祖国のことを思い出した。

歴史は深いが、産業は毛織物の加工やハーブなどの輸出業で成り立つような目立った産業もない国の姫がロザリアだった。

ロザリア自身王位継承権を持つ姫だが、祖国では護衛もつけず城内をあるきまわっていた。城内の庭にも、いざというときのためとして目を楽しませるというより、腹を満足させるといった植物が植えられていた。

「見た目はきれいでも、食べられなきゃね。」

そっと美しい花を覗き込みながらロザリアはつぶやく。

そして、この美しい花が好きだった従姉を思い出した。

もともと、この国の王との側室の話が持ち上がったとき、選ばれたのは従姉だった。

『ロザリア、お願い。私…好きな人がいるの。』

従姉の公爵家令嬢の言葉を思い出す。

この言葉にロザリアは従姉が可哀想になった。

もともとロザリアは王族として政略結婚は当然だと思っており、大国エミリアが相手であれば利にかなっていると考え、自分が代わりにこの国へと行くと父王に直談判してしまった。

最初は渋っていた父王も、最終的には命の危険もないだろうし、王妃もすぐできることだし…3年ほど我慢して過ごせば子供が生まれないことを理由に祖国に帰れるようになるだろうと許してくれた。


3年間の我慢だと思ってやってきた大国エミリア。

とんでもないことが待っていた。


大国エミリアに着いてロザリアは知ることになる。

まず、王の顔を見るよりも先に知ったのは王妃になるはずだったマスキン王国の姫との婚姻は予定ではなく噂だけのもので、まったく現実性を伴っていなかったということを。

それならば、ロザリア必要となかったはずだが一度エミリアの地を踏んでしまったからには側室になるのをやめますとも言い出せず、側室の一人も置かない王に周りが事情はどうであれ自ら望んだ側室だという名目の下…側室になってしまった。

ロザリアが王と出会ったのは一度だけ。

エミリアについた日、謁見の間で『よくいらっしゃった。』と一言だけの挨拶があった。

それ以来、王とは顔を合わせていない。

どうやら、マスキン王国との軋轢解消や国内問題などに忙殺される王の頭の中からロザリアの存在は削除されてしまった。

そして次第に、側室に期待をしていた王侯貴族たちもロザリアの存在を紙面上の側室と位置づけ忘れていった。


―それから2年の月日が流れ、もうすぐ3年目になろうとしていた。

16歳だったロザリアも19歳を迎えようとしていた。


誤字脱字修正しました。ご指摘いただいた文章修正いたしました。

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