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クーリングクレジット:cooling credit 第二部  作者: マスター


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6/12

第18話 自分のために冷やす日

第18話は、「0.5CC到達を目前にした日、ユウトが“自分のための冷却”と“誰かのための冷却”の境目をもう一度見直す回」として書きました。

制度や企業との連携が進みつつある中で、「じゃあ、自分の生活そのものはどうする?」という問いが静かに立ち上がる回です。

 月曜日。

 相馬ユウトは、スマホの画面を見てしばらく動かなかった。


『累計Cooling Credit:0.478 CC』


「……あと0.022か」


 0.5CC。

 世界的に見れば、大した数字ではない。

 でも、ユウトにとってはひとつの「区切り」になりそうな数値だった。


 コンビニのシフトは夕方から。

 日中はフリー。

 ただ、体の奥にほんの軽い疲労が溜まっているのを感じる。


 ここ数日は、街路樹。

 河川敷。

 郊外ショッピングセンター。

 制度の看板。

 企業からのコメント依頼。


 外側のことばかり考えていた。


「……今日は、“自分のために”冷やしてもいい日かもしれないな」


 そうぼそっと言って、自分で少し驚いた。


 今までは、「誰かのため」「街のため」という名目があったほうが動きやすかった。

 自分の部屋を冷やすことすら、どこか罪悪感のようなものがあった。


 でも、制度の話や企業の話が少しずつ進み始めた今、「自分自身」を扱わずにいるのは、逆に不自然にも思えてきた。


 ユウトは、エアコンのリモコンを手に取った。


 古い型の安いエアコン。

 冷房ボタンには、ほとんど触れてこなかった。


「これ入れても、CC的にはマイナスなんだよな」


 電力を使い、排熱を出す。

 冷却システム全体から見れば、エアコンの使い方次第で「逆に環境を悪化させる」こともある。


 だが、それでも。


「自分が倒れたら元も子もないって、何度も言われてきたんだよな」


 ニュース。

 自治体のアナウンス。

 プレイヤー同士のチャット。


 「冷やしすぎには注意」と同じくらい、「我慢しすぎも危険」と繰り返される。


 ユウトは、深呼吸をしてからリモコンの電源ボタンを押した。


 エアコンが、ぎこちない音を立てて動き出す。

 数秒後、冷たい風がゆっくりと部屋の空気を押し始めた。


 その瞬間、スマホが短く震えた。


『室内冷却モードを検知しました。

 現在の行動は、個人の安全確保を目的とした冷却とみなされます。

 Cooling Creditへの直接の加算/減算は行われません。』


「……そんな判定あるのかよ」


 ユウトは思わず笑った。


「“生きろ”って言われてるみたいだな」


 個人の安全確保。

 冷却行動としては数値化されないが、「やるべきこと」としてシステム側に認識されている。


 冷気が、少しずつ部屋に行き渡る。


 ユウトは、窓を閉めると同時に《ThermoBalance》の室内モードを開いてみた。


『室内温度:31.2℃ →(予測)28.5℃

 熱ストレス指標:高 → 中』


「外よりはマシだけど、それでも“高”だったのか……」


 自分の体感では「まあ耐えられる」くらいでも、システム的には「やや危険寄り」だったらしい。


 エアコンの風を少しだけ弱め、扇風機を回す。


 冷気の循環。

 足元に溜まりがちな冷たい空気を、全体に回す。


「これも“風を通す”の一種なんだよな」


 ただ、いつものログの中に「自分の部屋」はほとんど出てこなかった。


 街。

 店。

 河川敷。

 駐車場。


 どれも、「外側」の話だ。


「第1部で“自分の街”はだいぶ定義したけど、“自分の部屋”はあんまり語ってこなかったんだよな」


 そう思うと、少し可笑しくなった。


「じゃあ今日は、“自分の部屋を冷却ログに入れる日”にするか」


 ユウトは、ノートを開き、新しいページの上にこう書いた。


『自分の部屋冷却ログ(初回)』


 そして、室内を見回した。


 六畳一間。

 窓は一つ。

 古い遮光カーテン。

 エアコン。

 扇風機。

 小さな冷蔵庫。


「今まで、“節約のために我慢する部屋”って位置づけだったんだよな」


 だが、Cooling CommonsやCOOL STREETの話を聞いた今、「自分が倒れないこと」もまた大事な前提だと分かっている。


「自分が元気じゃないと、街も冷やせないし、レポートも書けないしな」


 ユウトは、窓際に立った。


 カーテンを少し開けると、強い日差しが差し込む。

 ガラスからの熱。

 窓枠の金属部分の輻射。


 《ThermoBalance》がそれを捉える。


『窓際表面温度:室内平均比+3.7℃

 直射日光侵入:中〜高』


「カーテン、ちゃんと働いてるけど、まだ足りないな」


 ユウトは、部屋の隅からあの白いレジャーシートを引っ張り出した。


「最初は路地のベンチ用に使って、そのあとどこに置いたかと思ったらここか」


 シートを窓際の床に敷き、下からの熱の反射を少しでも減らす。

 カーテンと窓の間には、アルミの簡易遮熱シートを少しだけ貼ってみる。


 DIYにしては雑だが、「何もしない」よりはマシだ。


 数分後、再度スキャンする。


『窓際表面温度:室内平均比+2.1℃

 直射日光侵入:中(やや改善)』


「ちょっとはマシか」


 ユウトは、机の位置も少しだけ変えた。


 窓からの直射が当たりにくい位置へ。

 エアコンの風が真正面に当たらず、部屋を回り込んでくる位置へ。


「これ、完全に自分のための導線設計だな」


 仕事机。

 椅子。

 扇風機。

 ベッド。


 それらを、少しだけ「冷えやすく、動きやすい配置」に揃える。


 スマホが震えた。


『自己環境最適化ログを開始しますか?

 ※このログは他プレイヤーには公開されませんが、Cooling Commonsの“生活基盤”として一部参照される可能性があります。』


「“自分の部屋”もCooling Commonsの一部かよ」


 思わず笑いながら、「はい」をタップした。


 ログのタイトルを求められたので、少し考えてからこう入力した。


『生活基盤としての部屋冷却(相馬ユウト)』


 その瞬間、胸の奥で何かがカチッとはまった感覚があった。


「自分の生活基盤、か」


 これまで、街や制度や企業の話ばかりで、「自分の体と部屋」をちゃんと扱ってこなかった。


 でも、どれだけ街の涼しいルートを増やしても、家に帰ってきた自分がぐったりしていたら意味がない。


「“自分のために冷やす日”って、Cooling Credit的には増えないかもしれないけど、

 長い目で見たら必要な投資なんだよな」


 そのとき、通知がもうひとつ入った。


『近隣プレイヤーからのメッセージ

 送信者:WindArc


 「ここ数日、動き過ぎてないですか。

  ちゃんと自分の部屋、冷やしてます?」』


「……監視かよ」


 ユウトは苦笑しつつ返信を書いた。


『「今ちょうど、初めて自分の部屋の冷却ログつけ始めたところです。

  システムに“自己環境最適化”って言われました。」』


 数十秒後、返事が来る。


『WindArc:

 「それ、めちゃくちゃ大事なやつです。

  こっちも、キッチンスタッフに“自分の部屋も冷やせ”ってよく言ってます。

  倒れたら元も子もないので。」』


「やっぱり、そういう話になるよな」


 冷却で稼ぐ。

 制度に関わる。

 企業案件にコメントする。


 その全部の前提として、「生きていること」がある。


「じゃあ、今日は徹底的に“自分のために冷やす日”にしよう」


 ユウトは、ノートに新しい項目を書いた。


『自分のための冷却

・室内温度を30℃以下にする時間を、最低でも1日数時間は確保

・直射日光を減らす

・風の通り道を作る

・“ここにいていい場所”を自分の部屋の中にも作る』


「“ここにいていい場所”って、街だけじゃなくて部屋の中にも必要なんだよな」


 机の位置を変えたことで、座っていても「日差しに追い詰められている感じ」が減った。

 ベッドも、エアコンの風が直撃しない位置に少しずらした。


 夕方、コンビニのシフトへ向かう前に、もう一度室内をスキャンする。


『室内温度:28.3℃

 熱ストレス指標:中→低寄り

 自己環境最適化レベル:Lv.1』


「レベルとかあるのかよ……」


 半笑いになりながらも、少し安心した。


 コンビニのシフトを終えて夜に戻ってきたとき、部屋の空気は昼ほど重くなかった。


 エアコンの設定温度はそれほど低くない。

 でも、窓際の遮熱と家具の配置が効いているのか、熱のこもり方が変わっている。


 スマホが震えた。


『本日獲得:0.019 CC

 累計:0.497 CC』


「……ギリ届かなかったか」


 0.5にはあと一歩。

 でも、今日の冷却は「数字のため」ではなかった。


「0.5は、明日でいいな」


 ユウトは、ノートを開き、今日のまとめを書いた。


『今日の出来事

・初めて“自分の部屋の冷却”を真剣に設計

 →エアコンON/窓際の遮熱/家具配置の見直し

 →自己環境最適化ログ(非公開)開始

・WindArcと、“倒れないための冷却”について少しやりとり』


『今日の気づき

・自分の体と部屋も、Cooling Commonsの“生活基盤”として扱っていい

・街や制度や企業の話の前に、“生きるための冷やし方”をちゃんと決めておく必要がある

・数字(CC)が増えない日でも、“自分のために冷やした日”は無駄ではない』


 最後に、一行。


『今日の一行

・他人のために冷やす前に、自分がちゃんと涼しい場所にいていい。』


 ユウトは、ペンを置き、エアコンの送風を少し弱めた。


 世界はまだ暑い。

 でも、その真ん中で、自分の部屋の空気だけは、少し優しくなっていた。

第18話を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、「制度・企業との連携が進んできたタイミングで、あえて“自分の部屋・自分の体”に冷却の視点を向け直す回」でした。

これまで、街・公共空間・企業施設と外側に広がってきた視点を、いったん内側に戻し、「自分の生活基盤をどう冷やすか」もCooling Commons的な発想に含めていいのだと確認するエピソードになっています。


ここで「他人のために冷やす前に、自分がちゃんと涼しい場所にいていい」という感覚を持たせておくことで、今後、よりハードな制度・企業案件や、倫理的に揺さぶられる場面に入っていく際に、ユウトが無理に“自己犠牲モード”に振れすぎない土台を作れます。

この先も、外側のスケールが大きくなっていく中で、「自分の生活」をどう大事にし続けるかを一緒に追ってもらえたらうれしいです。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成:リアル(Perplexity)

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