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第一話 君が大事だったんだ

隆道(たかみち)なんて大っ嫌いっ……!」




 手の平と頬のぶつかり合う音が教室に鳴り渡る。



 非憤を含んだその眼から落ちた雫は、夕陽を浴びて朱色に光っていた。






廊下越しに群がる在校生から、ひときわ注目を集めている生徒がいた。




「カイトく~ん、この前の動画見たよ、本当にスカッとした! この調子でドンドン悪い人は断罪しちゃって、応援してるからね~!」



「ありがとう」




 大きく手を振る女子の声援に、快く応えるのはクラスメイトの山本魁斗(やまもと かいと)だ。

 ネットではちょっとした有名人らしく、魁斗とその友人らのグループはいつも学校の話題をさらっている。



 ただその内容は主に私人逮捕のような物となっており、少々過激であった。




「魁斗はちょっとヤンチャそうだけどいい人だよ?」



「ああ見えてアイツ、根は優しいんだよ。少しは信用してみたらどうだ?」




 周囲は口を揃えて言うが、俺はあまり受け入れられなかった。



 そんな中、魁斗達が同じグループの飯田(いいだ)に迷惑行為を強要している場面に、遠目ではあるが目撃することとなる。



 嫌がる飯田に無理強いする魁斗の姿は傲慢であり陰険で、みんなが知っているものとは程遠かっただろう。



 飯田は魁斗達の取り巻きのような存在であるが、その実態はパシリのようなものでり、イジられ役としても度々からかわれていた。

 以前に注意をしようとしたことがあったのだが、本人はそれを良とし誇りに思っているようだったので、それ以上何かをすることはなかった。



 だが、今回ばかりは状況が違った。



 後日、一部始終が収められた動画がネットにあげられると、たちまち拡散されていった。



 内容は迷惑行為を働いた飯田が魁斗達によって注意され、改心するというものだった。

 飯田はいいように利用され、最後には動画の再生数稼ぎに使われたのだ。



 幸い大事にはならなかったものの、学校で問題になったこともあってか、その日から飯田は学校に来ることをやめた。



 俺は罪悪感からか、はたまた正義感からかいてもたってもいられず、魁斗達に直接問いただした。




「あっもしかして見られてた? あちゃー大丈夫だと思ってたんだけどな~」




 しかし、当の魁斗は澄ました顔で乾いた笑いをするばかりで、その余裕さになんとも言えない不気味さを感じた。



 魁斗はどこかに電話を掛けると、しばらくして俺にスマホの画面を見せつけてきた。

 そこには、魁斗達の一員である女子と通話画面に映る幼馴染みの涼音(すずね)の姿であった。



 魁斗は涼音を人質に取ったのだ。



 気付けば俺は怒りに眼が眩み、力任せに魁斗の襟元を締め上げていた。




「そんなに睨むなよ。別にチクってもいいんだぜ? その場合は枝川(えだかわ)さんが可哀想な目に遭うけど」



「お前っ……」




 耳元で不適に囁く魁斗に、俺の顔はみるみると青ざめていくのを感じる。




「いいよな枝川ちゃん。何と言ってもやっぱ顔っしょ。あのクールって感じが堪らないって言うか、メチャクチャにしてやりたくなるんだよな。あー俺もヤりて~!」



「分かる。スタイルもいいし、体育の時揺れるから授業そっちのけなんだよな。それに、この前の子なんてトラウマになって家に引き籠っちゃったんだから。またヤりたかったのにな」



「枝川さん人気だし一日中犯されちゃうんじゃないかな? 動画とかも撮れば高く売れるだろうし、何せ高嶺の花の枝川さんとなればクラスの奴は間違いなく買うと思うよ。まっ下手したらネットに出回っちゃうかもしれないけどね、デジタルタトューってやつ?」




 不適に笑う魁斗だがその目は少しも笑っておらず、言い得ないような恐怖を感じ、自ずと掴んでいた手を離していた。




「物分かりが良くて助かるよ」




 結局俺は涼音に手を出さないことを条件に、あの日のことは見なかったことにした。



 だが、俺に課された条件はそれだけではなかった。

 女子更衣室の盗撮と下着の窃盗の罪を追求され、それを認めること。



 それが提示されたもう一つのものだった。



 社会的抹殺と退学に追い込むことによる口封じ、その一連の様子を収める動画への協力。






「隆道はそんなことをするような人じゃない。きっとこれは何かの間違い!」



「……涼音」



「大丈夫、私は信じてる。どんな時でも私は隆道の味方だから」




 涼音は瞬きのないまっすぐな眼を向けた。



 だが、今となってはその優しさが俺には辛く、胸を抉るようだった。



 このままだと涼音は俺を諦めてくれないだろう。それは俺自身が一番知ってる。



 でも、それじゃ駄目なんだ。



 涼音を巻き込みたくないんだ。



 だから、悲しまないように貶した。




「涼音……。ずっと俺はお前が嫌いだった。しつこく付き纏ってきて鬱陶しかったんだよ」



「は? ……なにそれ、急になんなの?」



「これが俺の本性だ。それとも……涼音が代わりに俺の相手をしてくれるのか?」




 辛い沈黙だった。



 パチンッと、頬に鋭い衝撃が走る。




「最っ低っ……! ずっと一緒にいると思ってたのにっ、信じてたのにっ…………酷いよ……こんなの。隆道なんて……嫌いっ隆道なんて大っ嫌いっ!」




 ひくっと言葉を詰まらせ、歯を食い縛る涼音の顔は泣きたいような怒りたいような、悲痛そうに深く皺を刻んでいた。



 それと同時に、深い失望感が心に重くのし掛かる。



 覚悟はしていたが、想像以上だ。



 呵責の念が募り、自己嫌悪で胸が締め付けられて息が苦しい。



 でも、これでよかったんだ。



 俺が我慢すれば丸く収まる。



 きっといつか涼音だって分かってくれるはずだ。



 だから、ごめん……涼音。




「えっこの前の下着泥棒って隆道くんだったの?」



「気持ち悪……」



「もう学校にくんな」



「枝川さん可哀想~」



「犯罪者」



「死ねばいいのに」



「枝川さん傷付けたとかマジ許せねぇわ。俺だったら枝川さん悲しませるマネとか絶対しねぇのに」



「女とみれば誰でも襲うらしいよ?」




 噂はその日のうちに広まった。



 世界がガラッと変わったように、向けられたことのない数の刺々しい視線が俺をさらした。



 目論み通り、そこに俺の居場所なんてものは跡形もなく消え去ったのだ。

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