ギャルズミート(株)のうめぇ豚
お茶の間に流れるそのCMには、一度見たら脳にこびりついて離れないほどの中毒性があった。ピンク色のタイトな衣装に身を包み、精巧な豚のマスクを被った三人の少女が、軽快なリズムに合わせて艶めかしく腰を振る。
『お口でとろける、愛の味! ギャルズミートの「うめぇ豚」!』
最後は三人が突き出したお尻を振り、可愛らしく鳴いて締めくくられる。この「ギャルズミート株式会社」が提供する豚肉は、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いで全国の食卓を席巻していた。
「ねえ、今日の特売、ギャルズミートの豚肉よ。あそこのお肉、本当に絶品よね」
「本当……。スーパーの安物とは、脂の甘みが全然違うの。なんであんなに美味しいのかしらね」
夕暮れのスーパーで主婦たちが、陶酔しきった表情で囁き合う。彼女たちのカゴの中には、ドロリと不自然なほど鮮やかな赤身のパックが収められていた。
ギャルズミートの経営者である夫妻は、人里離れた山奥で広大な養豚場を営んでいる。夫妻には、ある「秘密の工程」があった。出荷前の豚にある惨たらしい細工を施すことで、肉質を極限まで高めているのだ。近隣住民は、彼らを「子宝に恵まれなかった可哀想な夫婦」と同情の目で見ていた。しかし、夫妻の自宅の地下からは、時折、CMの陽気な歌とは似ても似つかない、獣じみた「女の子の叫び」が漏れ聞こえるという。
「……あなた、とっても良い『餌』ね」 と夫人はうっとりと呟いた。
ギャルズミート株式会社の朝は、あまりに早い。まだ夜が明けきらぬ霧の中、佐伯夫妻は決まって地下室から「餌」を運び出す。それは、鼻を突くような強烈な酸味を帯びた、どろりと濁った液体だった。
その異様な臭いを放つ餌を、海外からやってきた三人の研修生たちが、怯えながら豚たちに与えていく。
「コノ、エサ……ナンカ、クサイヨ」
「ヘンナニオイ、スル。腐ッテナイ?」
「イツモ、クサイ。コワイヨ……」
片どられた日本語で不満を漏らす彼らに、社長の鋭い怒号が飛ぶ。
「つべこべ言わずに、さっさと餌をまけ! これが『うめぇ豚』の秘訣なんだよ!」
有無を言わせぬ圧に、研修生たちは肩を震わせ、従うほかなかった。
豚を移動させ、豚房の水洗いや消毒に追われる日々。高圧洗浄機の水しぶきに混じって、えぐり取られるような悪臭が立ち昇る。
「ヒドイ、ニオイダヨ……」
一人が吐き気をこらえて呟くと、他の二人も力なく、コクコクと深く頷いた。彼らにとって、この清掃作業はもはや拷問に近い。
夕方になると、夫妻は連れ立って車で外出していく。そして数時間後、決まった時間に帰宅すると、そのまま吸い込まれるように地下室へと消えていくのだ。
「イツモ、ドコニ、イッテルノカ……?」
「美味しいモノ、食ベに行ッテルンジャナイ?」
研修生たちがひそひそと噂を交わす中、一人が震える指で地下の扉を指差した。
「アソコ……地下室、イッタイ、ナニ、シテル?」 「ワカラナイ……」
二人の研修生は、首を横に振ることしかできなかった。




