12月のカレイドスコープ
冬の朝、しんと冷えた空気の中で、畑野唯は庭の霜柱を踏まないように歩いていました。 彼女は、古い洋館のテラスをアトリエにしている万華鏡作家です。 透き通るような肌に、少しだけお茶目な光を宿した瞳。唯は足元に落ちている小さな青い色ガラスの破片や、茶色く乾いた紫陽花のガクを、宝物のように拾い上げます。
しゅん、しゅん。 薪ストーブの上で、使い込まれた銅のケトルが勢いよく白い湯気を上げています。 そこへ、一人の青年・渉が迷い込んできました。彼はマフラーを力なく巻き、冬の寒さよりも凍てついた表情をしていました。
「……こんな場所で、何をしているんですか。冬なんて、ただ色が死んで、終わっていくだけの季節なのに」
渉の声は、乾いた落ち葉のようにカサついていました。 唯は、厚手のカーディガンのポケットに手を入れたまま、ふふっとおっとりと微笑みます。
「そうかしら。冬はね、世界が一番透き通る季節よ。ほら、光の粒がよく見えるでしょう?」
唯は棚から一本の、真鍮でできた古い万華鏡を取り出しました。 中には、彼女が先ほど拾った枯れ葉の欠片や、錆びた時計の歯車、そしてほんの少しの透明なビーズが入っています。
「覗いてみて」
渉は怪訝そうに、それでも促されるままにレンズを覗き込みました。 筒をゆっくりと回します。 カシャッ、カシャッ、と硬質な音が響くたびに、接眼レンズの向こう側で魔法が起きました。
茶色い枯れ葉は黄金色の重なりになり、錆びた鉄は深い琥珀の陰影を作ります。 冬の低い陽光が筒を通り抜け、それらをキラキラと輝く星屑の曼荼羅に変えていました。
「綺麗だ……。ただのゴミだと思ったのに」
「行き止まりに見えてもね、ほんの少し角度を変えるだけで、世界は新しく書き換わるの。バラバラに崩れた瞬間が、一番美しい模様への入り口だったりするのよ」
唯の声は、冬の結露した窓を指先でなぞるような、優しくも確かな響きを持っていました。 渉は万華鏡を覗いたまま、止まっていた涙が頬を伝うのを感じました。
たっぷりとはちみつを入れた、温かいココア。 唯が丁寧に淹れたカップから立ち上る湯気が、二人の間の空気を柔らかく溶かしていきます。
「春になったら、この庭にまたたくさんの色が戻るわ。でもね、渉くん。この冬の真っ白な光を知っている人だけが、春の本当のキラキラを見つけられるのよ」
唯は窓の外を見上げました。 そこには、冬のダイヤモンドと呼ばれる星々が、万華鏡の模様を真似るように、夜空で静かに瞬いていました。




