第3話 共産党を殲滅せよ
汪兆銘の南京臨時政府が成立すると即座に共産党殲滅作戦に乗り出した。日本製やドイツ製、チェコ製など様々な火器を手に殲滅を開始する。共産党はソ連製火器を有するがコミンテルンのヒエラルキーが低いのか火力で劣った。数量も劣勢で後退を強いられる。
しかし、あまりの内陸部に退かれては捕捉のしようがなかった。一気に相手の頭を潰すために延安総攻撃を計画する。地上から汪兆銘の南京政府軍が包囲した。これに日本軍の牟田口廉也が支援を買って出る。内地のパイプを活かして最新鋭を融通してもらった。
「まもなく、延安に差し掛かります」
「各機へ爆撃用意だ。戦闘機を連れている。安心しろ」
「目標は?」
「延安自体が共産党の本拠地に等しい。よって、眼下の全てが目標だ」
「了解」
延安上空には戦闘機に護衛された爆撃機の群れを確認できる。南京政府の承諾を得ると国民党軍の基地を借り航空隊が進出した。前線基地から最新鋭機である九七式重爆撃機と九七式戦闘機が飛び立つ。延安と往復するに不安が呈されるが強行した。仮に墜落しても脱出さえすれば回収できると見積もる。
共産党軍が延安の地形に則した陣地を構築する前に殲滅するのだ。すでに南京政府の周将軍が包囲を形成している。山砲や歩兵砲など重火器の到着を待っていた。火器が充実次第に総攻撃を仕掛ける。それまでに大規模な航空攻撃を敢行した。地形を変える程で潜伏する場所を無くしてやる。
九七式重爆撃機は最新の双発爆撃機と君臨した。腹に最大1トンの爆装を抱えている。高速で重武装、堅牢の三拍子が揃っていた。共産党相手には十分すぎる。今日は絨毯爆撃のために100kg爆弾を10発携行した。明確な目標は定まっていない。延安全体が爆撃目標なのだ。
「投下! 投下!」
「第二次攻撃に備えて速やかに離脱せよ。長居は無用だ」
「これで良いんですかね…」
「大丈夫だ。何かあっても牟田口の親父がなんとかしてくれる。ありゃ単なるエリートさんじゃない」
「そうなんですか? あまりにも縁が無さ過ぎて…」
「俺だってそうだ。黙って仕事をしろ」
「はい。わかりました」
九七式重爆撃機は爆撃を終えると直ぐに退避に移る。前線基地のおかげで一日に数度の爆撃ができた。搭乗員と整備員の疲労問題はあれど一日に最大の打撃を与えられる。陸軍(航空隊)の思想は対ソを睨んだ近接航空支援が濃かった。双発の重爆撃機だけでなく、単発の襲撃機や直接協同偵察機が飛び、より精密な銃爆撃で制圧を試みる。
共産党はソ連製のI-15やI-16を運用した。九七式戦闘機が立ちふさがる。軽戦闘機の好敵手と互角以上の空戦を見せた。パイロットの質が違うため問題なく戦えている。あいにく、性能としては航続距離が短いなど不足が否めなかった。したがって、搭乗前から後継機の開発が始まる。試作一号機の飛行を予定した。
地上戦は南京政府軍と称した旧国民党軍が担当する。餅は餅屋でないが経験豊富な現地軍に一任した。無駄に出しゃばることを厳に慎んで支援に徹する。航空隊の潤沢な支援の下で勇敢な兵士たちが突撃していった。表向きは人民の自由と資本を守る聖なる戦いである。実際は国が国を維持するための身勝手な戦いだった。それでも幾らかマシになることを目指している。
「洞窟陣地を狙え! 匪賊はありとあらゆる所に潜んでいる! 潰して回れ!」
牟田口は無線機に怒声を飛ばした。前線に出て自ら指揮を執っている。地上部隊は周将軍指揮だが支援のために日本陸軍の砲兵隊を引き連れた。最新の15cmと10cmの榴弾砲だけでなく、旧型の75mmの山砲や歩兵砲もあり、とにかく火砲の数による火力である。
「撃て! あの洞窟を崩せ!」
空中からの爆撃と地上からの砲撃は止まることを知らなかった。本当に延安の地形が変わろうとしている。共産党という匪賊を討つためにはやむを得ないことだ。そもそも、生活を豊かにするために破壊は数千年単位で行っている。何を今更だ。欧州の大戦よりはマイルドに収まる。
「弾着観測機を飛ばしているか」
「はい。直協を飛ばしていますが無線機は雑音が多く…」
「改善が求められるか。火力が足りん…」
「周将軍から総攻撃開始の合図が来ました!」
「好機と見たか。やむを得ない。弾を惜しむな。全弾を吐き出す勢いで撃ち続けろ」
共産党軍が体勢を整え終わる前に殲滅せんと周将軍は総攻撃の前倒しを決めた。誤射や誤爆が怖いところである。コラテラルダメージと割り切った。航空隊と砲兵隊に気を付けるよう注意喚起することが精一杯である。偵察機と観測機は常時飛ばしているが精度はイマイチだ。時代的にやむを得ないところであるが改善ないし改良は必須と記録する。
「これからは火力の集中だ。いかにして火力を押し付けることができるか。単に火砲と航空機を良くすればの話じゃない。前線に弾薬と食糧を届けることもアレだな…」
「何か仰いましたか?」
「ただのつぶやきだ。すまない」
「少なくとも、馬匹頼りはいただけません」
「聞いていたのか」
「申し訳ございません」
「謝ることじゃない。その程度で起こるような小心者ではないんだ。正々堂々と申してみたまえ」
じっくりと考えていたつもりだが呟きとして吐き出されてしまった。ボソッのつもりでも案外通っている。もちろん、機密に関わることでなかった。むしろ、一般論に括られる。時代だからと割り切ることは可能だが負けてしまってはならず、無駄な精神論を振り回していくことは愚者の骨頂たり、内地組に嫌われることを承知で改革を押し通すつもりだ。
「車両が欲しいです。馬は嫌いじゃありませんが数量と距離が段違いです。最後は人力になっては効率が悪すぎます。どれだけ重火器があっても運ぶことができなければ」
「その通りだ。今は中華だから何とかなる。これが太平洋になれば考えくないが、やるしかあるまい」
「やるしかない。お付き合いします。連隊長」
「地獄の底かもしれんが」
「望むところです」
1937年の終わりのことである。延安は炎に包まれた。歴史的な建造物も爆撃と砲撃に砕け散る。中華の歴史とは戦乱の上に構築された。破壊と創造と言うが言い得て妙である。共産党軍はゲリラ戦を展開して南京政府軍を苦しめた。それもささやかな抵抗に終わる。日本軍の近代的な重火器と航空機の前に粉砕されていった。毛沢東は延安からの脱出を試みたが、内通者の裏切りによって計画を暴露され、包囲網に絡め取られている。
この戦いで民間人にも被害が出たが内乱のため封殺された。現地で何が起こったか解き放たれることは未来永劫にわたってない。世の中には記録できない物事に溢れていた。共産党員は自由と資本を守る盾の大義の下で大半が極刑に処されている。これ以上の思想の浸透は食い止めなければならなかった。あくまでも、中華の国内の治安維持である。これに対する批判は内政干渉と受け付けなかった。欧米諸国は喜ぶがいい。極東は資本主義が勝利した。
「連隊長から脱出ですな」
「やめてくれ」
「牟田口中将は晴れて再編予定の軍隊の司令官殿です」
盧溝橋事件から始まった一連の動きは一旦の収束を得る。日中は電撃的な和解から共産党殲滅に成功して協調路線に転換した。歴史は一人の軍人により線路が切り替えられている。牟田口廉也は「盧溝橋事件を穏便に収めたこと」「汪兆銘ら南京派を支援して蔣介石を失脚させたこと」「延安殲滅戦を支援したこと」などの功績が認められた。はれて中将への昇進が決定した上で再編予定の軍隊の司令官に就任することが決まる。
「これからだよ。これからが本番だ」
続く




