「男女の友情は有り派ですか? それとも無し派ですか?」と訊いてくる私の後輩で無敵のマユちゃんはどうしても無し派がいいようです。
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
今日のマユちゃんはなんだか元気がありません。
いつもは愛想を振り撒き、男性社員さんのやる気を出させる必殺技が、あまり効果がありません。
マユちゃんとは、私の後輩で無敵の新入社員です。
そして、私はマユちゃんの先輩であるマユです。
同じ名前だからと、仲良くなってからはマユちゃんに慕われるようになりました。
私も、マユちゃんが可愛くて一緒にいるのが楽しいです。
「今日は、マユちゃんが元気ないね?」
私の後ろを通りすぎるフリをして、課長が小さな声で言ってきました。
私と課長は誰にも内緒の秘密の関係です。
でも、私と課長の右手の薬指にはリングが光っています。
しかし無敵のマユちゃんが、こんなにも元気がないのは初めてです。
マユちゃんがなぜ無敵なのか。
それは、マユちゃんにどんな災難が起きても、プラス思考になるからです。
以前は一万円を落としたのに、それよりも嬉しいことが重なったからと、落ち込むこともなかったのです。
そんなマユちゃんが、今日は本当に落ち込んでいるように見えます。
これは、私から訊いてあげなくてはいけません。
「マユちゃん。今日はどうしたの?」
「マユ先輩。私、推しロスです」
「推しロス?」
「私、推しがいなくなりました」
推しロスとは、マユちゃんの解釈は推しがいなくなったという意味のようです。
「推しがいなくなったって、推しを嫌いになったの?」
「嫌いになれないです。でも、推しに熱愛報道があったんです」
「うん。まあ、推しに恋人がいてもおかしくないよね?」
「いてもいいですよ。でも、その推しの恋人が同じグループの友達って言ってた女の子だったんです」
「あらら。近くにいると好きになることもあるよね」
「マユ先輩は、男女の友情は有り派ですか? それとも無し派ですか?」
マユちゃんは、私の顔を真顔で見てきます。
なぜ真顔なのでしょうか?
有り派か無し派、どちらを選べば正解なのでしょう?
「私は、男女だけじゃなくて、女性同士も、男性同士も、友達になる人もいれば好きになって恋人になる人もいるから、どちらでもないかな?」
「その答えはズルいです」
「じゃあ、マユちゃんはどっちなの?」
「私は、無し派です」
「それはどうしてなの?」
「だって私、男の子のお友達なんてできたことないですもん」
男の子の友達ができたことが無いから無し派でいいのでしょうか?
「小学生の時とか、男子と遊んだりしなかったの?」
「私、女子校だったので」
「中学生や高校生の時は?」
「女子校です」
「幼稚園の時は?」
「男子と会話をしたのかどうかも覚えていません」
マユちゃん、それは男の子の友達はできないですよ。
だって、接点がなかったようですから。
「マユ先輩」
「何?」
「私、決めました。男子しかいないグループで推しを探します」
「マユちゃんが好きなようにすればいいわよ」
「マユ先輩も課長以外の男性社員には気を付けてくださいよ」
「えっ、マユちゃん?」
誰にも内緒の秘密の関係なのに、マユちゃんにはバレているようなんです。
マユちゃんはハッキリ言わないので分からないのですが。
「マユ先輩は、美人さんなので、他の部署の佐藤さんも狙ってるみたいですよ」
「えっ、佐藤くん? 彼は同期で仲良くなったんだよ? たまに同期のみんなで、ご飯食べたりしてるだけだし」
「マユ先輩は友達と思っていても、佐藤さんは違うみたいですよ」
マユちゃんはニヤニヤしながら言います。
私を、男女の友情は無し派にしようとしているみたいです。
私には課長がいるので何を言われても心は動きません。
少しすれば佐藤くんもそれを分かるはずです。
だって私には指輪があるのですから。
「あっ、あの子、マユちゃんと同期の加藤くんだよね?」
「えっ、加藤くんですか?」
マユちゃんは、加藤くんを見つけると前髪や制服などを整えだしました。
これは、もしかして、、、。
「加藤くんとは友達なの?」
「違いますよ。ただの同期です」
「それって友達じゃないの?」
「違います。ちょっと加藤くんの所に行ってきますね」
マユちゃんは加藤くんの所へルンルンとスキップするように行きました。
その途中で、課長に何か言ってから目的地の加藤くんの所へ向かっていました。
マユちゃんは楽しそうに笑っています。
さっきまで推しロスなんて言っていたマユちゃんはどこへいったのでしょうか?
どうしても友達だと言わなかったのは、マユちゃんが思う友達がいないから男女の友情は無し派を貫きたかったんですよね?
まあ、マユちゃんが好きなようにすればいいですよ。
マユちゃんは無敵なのですから。
「マユ」
いきなり隣にきて、課長が私を呼び捨てで呼びます。
「課長、会社では呼び捨て禁止ですよ」
「そうなんだけどさ、マユちゃんに言われたんだよ」
課長は困った顔をしながら、私に言います。
「何を言われたのですか?」
「早く左手に指輪をつけないと、男女の友情は無し派にさせますよって言われたんだよね」
マユちゃんは、今日から付けている私と課長の指輪に気付いていたようです。
まだ出勤してから、十五分くらいしか経っていません。
「やっぱりマユちゃんは無敵だわ」
「それ、俺も思ったよ」
私達は、誰にも見えないように後ろで手を繋ぎました。
「それで? 男女の友情は無し派って何?」
「私は有り無し関係ないので、気にしなくていいですよ」
「えっ、なんで?」
「私は課長だけですから」
お読みいただき、誠にありがとうございます。
楽しくお読みいただけましたら執筆の励みになります。




