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盤上のヒオウ  作者: 浜辺
5/5

VS 花形バスケ部!①

時刻は16時55分。

ドッジボール部のキャプテン・城谷と副キャプテン・藍沢は、顧問と保健医とともに校門の前である人物を待っていた。

昨日、監督にスカウトした長谷部である。


最初に渋い反応をされたこともあり、本当に来てくれるのかという不安が胸にあった。

しかしその不安は、一瞬で安堵へと変わる。

校内に入ってきた白い軽自動車の運転席に、長谷部の姿を確認できたからだ。


「あの人が長谷部さんです!」


城谷の声に、駐車した車から降りてくる人物へと、その場にいた全員の視線が向いた。


エプロン姿とは打って変わって、上下ジャージ姿の長谷部が城谷達の元へ近づいてくる。

髪に関しては昨日同様に後ろで一つに束ねている。


「よっ」


かなり短い挨拶を済ませると右手に提げた茶色い紙袋から何かを取り出して「ほれ」と城谷に手渡す。

城谷も言われるがままに腕を伸ばすと、掌にクッキーが数枚入った小袋が置かれた。


「ウチの喫茶で出してるクッキー。美味いよ」


「あ、ありがとうございます!」


ニッと笑う長谷部につられて城谷も笑顔でお礼をする。


「こん中に結構入れてきたから多分全員分足りるんじゃねぇかな」


そう言って自校の生徒に紙袋を渡す長谷部の姿に呆気に取られていた教師陣2人が口を開く。


「あの、初めまして!ドッジボール部顧問の宮本と申します!よろしくお願いいたします」


「初めまして、保健医の朝比奈です。本日は新任の付き添いという形でご一緒させていただきます」


「どうも、長谷部です。よろしく」


大人同士の挨拶が終わると長谷部は2人の姿をまじまじと見つめた。

その行動に戸惑った様子の宮本とは裏腹にニコニコと微笑んで気にしない様子の朝比奈。


「二人とも、ドッジボールの経験はほとんどなさそうだな」


「…何故です?」


朝比奈の問い返す声に長谷部は短く「ヒョロいから」とだけ答えた。

その一言に、長谷部と朝比奈の間にわずかにピリッとした空気が走る。

それを敏感に感じ取った宮本が慌てて「で、ですよね!」と苦笑混じりに声を上げ、場を和ませる。


「で、他の部員は?」


気にした様子もなく、長谷部は城谷たちの方へ視線を向け、周囲を見回しながら尋ねた。


「体育館で練習してます」


「へぇ。じゃあ、案内して」


「はい!こっちです!」


城谷たち三人が体育館へ向かって歩き出す。その背中を眺めながら、宮本は胸を撫で下ろした。


「長谷部さん、いい人そうで安心ですね…!」


「そうですね。それにとても面白そうな人なので、明日以降も顔を出させていただきますね」


「ありがとうございます!先生にそう言ってもらえて、とても心強いです!」


だが、彼女が彼の言葉の真意を知るのは、もう少し先のことだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



キャプテンの集合の合図にキャッチボールをしていた部員たちが一斉に一点へと集まった。


「今日から俺たちの監督をしていただく、長谷部さんです」


「「よろしくお願いします!!」」


元気よく頭を下げる部員たちに、長谷部は軽く手を挙げて応える。


「おー、よろしく。で、早速なんだが――


"バスケ部"と試合をしてもらう」


その一言に部員たち、特に二年生の間に緊張が走った。


「バスケ部と試合って…“ドッジボールで”ですか?」


配野が恐る恐る尋ねると、長谷部はあっさりと頷く。


「そうそう。バスケ部ってこの学校の花形なんだろ?

一回やってみたら面白いんじゃねぇかなって思ってよ。お前達がどの程度なのかも簡単に分かるしな」


「でも、バスケ部は」


不安げに言いかけた配野の声に、外園が重ねるように割って入った。


「俺はいいと思いますよ」


その言葉に2年生達が僅かにざわついた。


「外園がいいなら俺もやってみてもいいと思う」


外園に続いて藍沢が賛成の意を示すと、「それなら」と他の二年生たちも顔を見合わせて頷いた。

快冴たち一年生にも異論はなく、バスケ部と試合をする事で一致した。


「よく分かんねぇけど、試合するってことでいいな。

んじゃ先生、アポお願いね」


「え、あ、はい!」


生徒たちの後ろで話を聞いていた宮本は、急な依頼にぎこちない返事をすると足早に体育館を出ていった。


――しかし数分後。

交渉を終えて戻ってきた彼女はトボトボと小さく肩を落とし、視線は床のまま動かない。


「す、すみません…断られちゃいました…」


弱々しい声に、今にも泣き出しそうな表情。

生徒たちは互いに目を合わせるが、かけるべき言葉が見つからず重い沈黙が落ちた。


その沈黙を破るように城谷が明るい声で言った。


「ま、また明日!もう一度お願いしてみましょう!今度は俺もついて行くので」


城谷がそう言うと、しゅんと縮こまっていた宮本はゆっくりと顔を上げ、申し訳なさそうに、けれどどこか安堵したようにお礼の言葉を口にした。


「…ありがとうございます。ほんとに、ごめんなさい…」


弱々しい声ではあったが、その表情には先ほどまでの涙の気配は少し薄れていた。


「じゃあ、今日は帰るわ」


その様子を眺めていた長谷部が荷物をまとめ始めた。


「え、早くないですか!?」


城谷が思わず声を上げると、長谷部は淡々と答える。


「俺が指導すんのは、バスケ部との試合が終わってからだ」


そう言いながら体育館の出口へ向かって歩き出す。

慌てて追いかけ、引き止めようとした城谷に、長谷部はふと思い出したように立ち止まり、振り返った。


「あ、そうだ。クッキーの感想、教えてな」


笑顔でそれだけ言い残し、長谷部はすっと背を向ける。

その後ろ姿を城谷はただ見送ることしかできなかった。



「本当に大丈夫なのだろうか…血液型と星座を聞いておけば良かった…」


時雨が不安そうに呟くと城山が彼の肩にポンッと手を置いた。


「取り敢えず、今はバスケ部との試合を何としてでも取り付けよう!」


その言葉に配野は外園に視線を向けた。


「本当にいいの?」


「陽和は気にし過ぎだって」


外園は困ったようにそう言って笑う。


妙に外園を気遣う配野の姿を見て戸惑う快冴の視線に気づいたのか、外園が一年生に体を向けて話し始めた。


「俺、去年の冬までバスケ部だったんだ」




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