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盤上のヒオウ  作者: 浜辺
2/5

橙陽高校ドッジボール部!

体育館に入ると、端のほうに数名が集まっているのが見えた。

2人の先輩は、その輪に向かって歩いていく。


「君、名前は?」


背の高い、大らかそうな先輩が声をかけてきた。

快冴は少し緊張しながら「環田(たまきだ) 快冴(かいひ)です」と答える。


「環田くんね! 一年生はあと4人くらい来てるから、そんなに気を張らなくていいよ」


慣れない状況に硬くなっていた快冴に気づいたのか、先輩は優しく微笑んだ。

その笑顔に、少しだけ肩の力が抜ける。


「は、はい!」


快冴はぎこちなく返事をした。


やがて集まりの中心にたどり着くと、片側に5人、向かい側に4人が整列していた。

快冴をここまで案内してくれた2人の先輩は、5人の方へと並ぶ。


「お前、一年だろ? こっち」


整った吊り目の男子に呼ばれ、快冴は4人の列に加わった。


「よし、全員揃ったね!」


先ほどの背の高い先輩が声を張る。


「じゃあ、自己紹介していこうか!」


その一言に、快冴の肩がビクッと上がった。

こんな緊張感のある場で自己紹介をするのは初めてだ。

どうすればいいのか分からずにいると、先輩の自己紹介が始まった。


「俺は城谷(しろや) 篤美(あつみ)。一応キャプテンをやってます! 今日は見学ってことになるけど、気になることがあったら何でも聞いてね。はい、次!」


城谷と名乗った背の高い先輩が、隣のメガネの先輩に目を向ける。快冴を体育館に連れてきたもう1人の先輩だ。

少し険しい顔つきだが、どこか落ち着いた雰囲気もある。


「俺は藍沢(あいざわ) 賢慎(けんしん)。副キャプテンをやってる。城谷が頼りないと思ったら、俺に言ってくれ」


思ったより柔らかな声で、低く響くそのトーンに快冴は少し安心した。


「僕は外園(とのぞの) 柔真(ゆうま)です。よろしくー」


手をひらひら振りながら明るく笑う先輩。

ドッジボール部で一番の長身なのがすぐに分かる。

大きな手、茶色がかった髪、首元で跳ねる毛先。

前髪を後ろに括っていて、整った垂れ目の顔がよく見えた。


「俺は配野(くまの) 陽和(ひより)! みんなよろしくねー! はい、次!」


真っ直ぐな黒髪と柔らかな笑顔が印象的な先輩だ。

明るい雰囲気に快冴は自然と好感を持った。


時雨(しぐれ) 絢人(あやと)です。今後のために相性占いたいから、あとで星座と血液型教えて」


目元が前髪に隠れたまま、淡々とした声。

快冴は「前、見えてるのかな」と素直に思った。

“ミステリアス”という言葉の意味を、初めて実感した気がする。


「時雨はいつもこんな感じだから気にしないでね〜。

んで、俺は律川(りつかわ) (そう)! 覚えたいダンスとかあったら、俺に言ってくれれば教えるよ〜! はい次、大ちゃん!」


“ダンス”と聞いて快冴の頭に浮かんだのは、地元の神社の盆踊りと運動会の出し物だけだった。

髪を軽く後ろで括り、中性的な顔立ちの颯は、可愛らしくも見える。

身長は快冴と同じくらいか、少し低めだ。


「天ノ(あまのや) 大地(だいち)です。よろしく」


短く挨拶した彼は、どこかの芸能人のように整った容姿をしていた。スポーツ刈りと言うには少し長めの髪型がとても似合っている。あまりテレビを見ない快冴でも"テレビに出ている人みたいだ"と見惚れてしまう程だ。

すらっとした体つきは、キャプテンより少し低いくらいだろうか。


「以上が橙陽高校ドッジボール部! 三年は引退してるから、全員二年生だ!」


城谷の声が響く。

快冴はあらためて先輩たちを見渡した。

個性が強そうだが、思っていたよりも柔らかい空気で、緊張も少しずつ解けていく。

……が、次の瞬間。


「じゃあ次、一年生! よろしく!」


城谷のその言葉に、快冴の背筋は再びピンと伸びた。


最初に口を開いたのは、連れてこられた快冴に声をかけた生徒だった。


鎮乃(しずの) 翔聡(しょうと)です。三宝中学出身です。ドッジボールがやりたくてこの高校に入学しました。よろしくお願いします」


目に少しかかる前髪の隙間からのぞく長い睫毛。その瞳は、しっかりと目の前の先輩たちを捉えていた。先輩を前にしても物怖じせず、落ち着いた口調で話すその姿は、同級生であることを忘れてしまうほど堂々としている。快冴の緊張は、そんな鎮乃の姿を見てさらに高まった。


空木(からき) 湊飛(みなと)っす! 一光中出身っす! ドッジボールは結構得意なんで、見学希望しました。楽しくやっていければって思ってます! よろしくお願いしまーす!」


鎮乃とは対照的な、軽いノリの挨拶。

思わず快冴も他人事ながらヒヤヒヤしてしまう。額の真ん中で左右に分けられた前髪は、サラサラと風になびいていた。


一条(いちじょう) 清貴(きよたか)と申します。1年1組に所属しております。出身中学校は五盛中学校です。真面目すぎるところが自分の課題だと感じており、それを変えたいと思って、珍しいドッジボール部への見学を決意いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」


空木の隣に立つ男子生徒の口から出た、あまりにも堅すぎる自己紹介に、先輩たちから「面接かよ」と小さなツッコミが入る。


「一条くん、ありがとう! 素晴らしい自己紹介だったよ」


それを宥めるように、キャプテンである城谷がにこやかに言った。

そして視線は、次に並んでいた男子生徒――快冴の隣に立つ生徒へと向けられる。だが、その生徒はなかなか口を開かず、時間だけが過ぎていく。


「……君の番だよ」


痺れを切らした快冴がそっと腕をつつき小声で促すと「え?もう俺の番?」と、特に慌てることもなく、ようやく自己紹介を始めた。


「どうも。俺の名前は、えっと、志久(しく) 凛太郎(りんたろう)です。ぼーっとするのが得意です。よろしくです」


そう言ってヘラリと笑った志久のワイシャツのボタンは、一つずれていた。緩く結ばれたネクタイとのバランスが妙にしっくりきて、快冴は「この人もミステリアス系に入るのかも」と、思わず感心してしまう。


「じ、じゃあ最後! 環田くん、よろしく!」


「は、はひっ!」


微妙な空気を立て直そうとした城谷に名前を呼ばれた快冴は、緊張がついにピークに達し、思わず声が裏返ってしまった。

その様子に、先輩や同級生たちも思わずクスリと笑う。


「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ! 頑張れ!」


柔らかい笑顔が印象的だった配野にそう励まされ、快冴は一気に自己紹介を口にした。


「た、環田快冴です!1年3組です!不二峠中学校から来ました!ドッジボールを知りたくて見学に来ました!よろしくお願いします!」


息継ぎもせずに一気に話し切った快冴は、ハァハァと肩で息をしながらほっとする。


だが、すぐに列の先頭から声が飛んできた。


「ドッジボールを知りたいって、どういうことだ?」


安堵の隙を突かれたその質問に、快冴の心臓が再び跳ね上がった。


「あ、あの、俺……ドッジボールっていうの、やったことなくて」


照れ隠しに笑ってみせたものの、鎮乃から鋭い視線が飛んできて、快冴は思わず肩をすくめた。

その様子を見た城谷が、すかさず声をかける。


「まぁまぁ、うちは未経験者も大歓迎だから!」


だが、鎮乃の快冴への牽制はまだ終わらない。


「血気盛んなのは勝手だけど、次は先輩のターンだから、こっち見ようなぁ?」


ドスの効いた低い声。

思わず2人が顔を向けると、そこには笑顔――だが、目がまったく笑っていない藍沢がいた。

“目が笑っていない”というのは、きっとこういうことを言うのだろう。


「はは……ありがとな、藍沢」


城谷は苦笑しながらも軽く頭を下げる。


「じゃあ、活動の説明をしたいから、みんな近くに集まってくれるかな?」


部員と一年生全員が輪を描くように集まり、床に座る。

快冴は鎮乃と目が合わない位置を探して、そっと体育座りをした。


「……恥ずかしい話なんだけど、昨年までは、うちは同好会みたいなもんでさ。出たい部員だけが地域の大会に出る、そんな形でやってたんだ」


城谷はそう言って、照れくさそうに笑う。

「二年は全員出てたけどな」と配野が軽く補足する。


「だけど――新しい大会が、今秋に開催されることが決まった」


城谷の声が少しだけ引き締まる。


大会名は『ドッジボールトーナメント ― HIOH’s GATE ―』。

一部では“ヒオウ杯”と呼ばれているらしい。


「これまでドッジボールの大会って、小学生対象か、中学生〜社会人混合が主だったんだけど……この大会は“高校生限定”なんだ」


その言葉に、快冴を含めて一年生がざわめく。鎮乃は知っていたのかスンとした表情で城谷を見ている。

城谷は一拍置いて、まっすぐ前を見据えた。


「絶対に出場したい。そして――狙うは、優勝」


最後の一言に、先輩たちが息を呑む音が聞こえた。


「いいんじゃないですか? 俺もそれがやりたくて“ここ”に決めたんで」


鎮乃の言葉に、先輩たちが一斉に「いいねぇ!」と笑顔を見せる。

その空気は一気に明るくなった。


「じゃあ、君は入部かな?」


城谷が確認するように尋ねる。


「そのつもりで来てます」


真っ直ぐに目を合わせて答える鎮乃の姿が、快冴にはとても格好よく見えた。


「他のみんなはどうかな?」


城谷の視線が一年生たちへと移る。

快冴は、鎮乃と先輩たちのやり取りを見ながら胸がざわついた。

彼らが本気になる“ドッジボール”というものが、どんなスポーツなのか――急に気になって仕方がなくなる。


そうなった時の人間の行動は、不思議なものだ。


「俺も……ドッジボール、やってみたいです!」


気づけば、考えるより先に言葉が口をついていた。


「よし! じゃあ、やろうか!」


城谷が嬉しそうに笑う。

その声に、体育館の空気が一段と熱を帯びた気がした。


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