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Classic Machine Re:Makers  作者: 桜葱詩生
CMR #02 ジャガー Eタイプ シリーズ3

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CMR #02 ジャガー Eタイプ #30


その姿を見て05が虚を突かれたように止まった。直立したまま頭部だけをそちらに向ける。状況把握に失敗して同じことを繰り返す、発展期の頃のボットの症状に似ている。確率演算子が無限大個数にまで行きついて、極数(きょくすう)停止して戻ってこれない。状況をきちんと判断できない、そんな状態。ある意味、矛盾ループもこれに似ている


「05、ロッkアを開放なさい、これは命令です」


唯一、心配だったのは、05が聖下を-ティティスさんを認識しない、できない、もしくはそれに類したような参照ポイントがずらされていた場合だったんだけど…杞憂でよかった


「ラー・プリエンプレーテテス」


06の個体認識の解決は簡単だ、いろんなことをあれこれ、やらなくていい。ただ、そうなると確実に問題が起こる。特にイゼさんとゼイvlrスさんには止められる…不敬罪とか何かで。ゼイvlrスさんはこちらを心配して助言してくれたかもしれないけど、イゼさんは無理だ。即刻、問答無用で断罪。ありえない話ではない


プロテクターの解除は、通常のガレージや店舗、それなりに設備の整った場所でも難しかった。高難度配列解除とか特異性高密度乱数列挙解除とか専門で取り扱っているところでも簡単ではない。でもそれはこのガレージ以外の、という条件が付く。1単位ごとにパスアクセスが変更され、その変更パスさえ暗号化されていた、kリアでも今持つマシンでは難しい、といった。そのプロテクターは、衝撃吸収とエネルギー吸収の両方に対して高い特性を併せ持つ、交分子-難繊維異質性ヒアエルロニコイドゲルの最高等品の特注品。外すための解除も難しくて、破壊したり破損させたりするのだけでも、困難だった…装着しているティティスさんを傷つけないやり方がない。05もそう想定していたから、ワルグのことを警戒していたのかもしれない…もうわからないけど


「もう一度いいます、ロッkアを解放なさい」


そういってティティスさんはロッkアが入っている箱にまで歩いた。瓦礫の間のあまり破片がない隙間を選んで、それでもいくつか、小さい欠片を踏んでバランスを崩して。でも邪魔されずに何事もなく手を伸ばした。足先のインナーは残したらしい…ワルグにしては気を利かせたのかもしれない


「最上位隷令 許諾 保護 反故 上位隷令 反故 保護 最上位隷令 想定 反故 保護」


反故と保護をなぜか繰り返して、05は止まる。判断が付きづらい…でもティティスさんを主人だと認識できている。バンの上へ空間制御を発生させた理由が分からないけど、05から延びたラインが腰へと戻っていく。バンドが解放される。拘束が解かれる。これでロッkアも大丈夫だろう。ただ…礼儀としてティティスさんの方はなるべく見ないようにする。さすがにさらに罪を重ねてしまうのは避けないといけない


箱を構成していた粒子が砕けるように上から喪失していって、ロッkアが崩れるように中から現れた。ティティスさんの腕に力なく倒れ込む。ぐったりとした青白い手が下へと下がる。抱きかかえたティティスさんが力の抜けたロッkアの身体の重さに耐えられずに地面へと座り込んだ


「ロッkア? ロッkア、息をなさい」


そう声をかける。首筋から背中にかけて冷たいものが落ちた。息をしていない? 呼吸器異常? 気体欠乏? どうして? 守っていたんじゃなかったのか?


「ロッkア、息をなさい」


ティティスさんがロッkアの頬を叩いて目を覚まさせようとする。ロッkアは反応しない


違う。箱の中に保護して…安全……となんで考えた? そう思った?


「!」


「くう」


重力制御が全身を襲う。ロッkアへと近づこうとして…上部から押さえつけられる。足が出ない。動けないティティスさんがロッkアを抱きかかえるように押さえつけられて声にない悲鳴を上げた


ボットが、主人と認識した対象に攻撃を行う? ウィルスであってもできないことをどうやって? それよりもティティスさんはいま、プロテクターを付けていない。これでは()たな……


鈍い受け止めるような衝撃音


続く舞うような激しい衝撃波


余波で崩れかかっていた周りの壁が揺れ動く


何かが上から落下して来て、VtBANが予め作っていた力場に衝突した。一瞬だけ沈み込んだマシンはそれでも持ち応えて、逆に反発を強める。さらに身体が軋む。空間制御が受け止めた衝撃が、力場の内部から放出される反動で、周りの瓦礫が飛んでいった


「ぎゃあっ、何すんだ、てめー」


「何すんだって? そりゃあもちろん、オンナを掻っ攫うにきまってるじゃねーか、オレサマが通った後にオンナが残るわけがねーんだよっ」


マシンの横、落ちたガレージの入り口の隙間から…地面に伏せた格好のkリアが見えて、上へ悪態をついた。バンの上に白いマシンがくっついている。kリアのすぐ向こうにはイルファさんが何事もなかったように立っていた


「なんだ、そのアホみたいな理屈は」


「やっぱ小さくて早い奴はダメだねー、こんなふうにすぐに萎えちまう」


「小さかねーよ、でっけーだろうがっ。お前らの身体の芯から教えてやっからとっつか…邪魔だっ、この腐れマシンっ、どけっ、このメkガベwrペheボ(アホのでくのぼう)


なんだかのんきに言い争う。衝撃で残っていた入口横の壁が内側へと倒れ込んだ。埃が舞い上がる。脆くなっていた通用口が折れ曲がって崩れた。あそこにいたままだったら危なかった


自分の間違いに気づく


どうして05がロッkアを保護していると思った? 生命類種に対して、ボットは生死を伴う攻撃は行えない


「だああっ、邪魔なんだよっ、このメknェrLラhe(へっぽこ)。オレのオンナの邪魔すんじゃねー」


制御の力が強まっていく。罵倒が聞こえるたびに、空間膨張の圧力が上昇していく。反動で重さが増していく


それは生死に直結しない、曲解された制御(攻撃)なら行える、ということに等しい


「誰がお前のオンナだっ、ふざけんじゃねー」


「BAN、邪魔。制御外せ、ドア開けろ」


「目を…開けなさい、ロッkア。息をなさい」


いろんな声が聞こえる。それでは…ダメだ


「なんだ、真っ裸のやつもいるんじゃねーか、こりゃあいい…へぶうっ」


「聖下、殺・・・」


05が何かをしようとした…時、頭から下半身にかけて05の身体の真ん中の部分だけが消え失せた。左右に分かれた05が、残った肩から腕と分かれた足の部分だけが、それぞれ、異なる方向へ、パタン、と軽い音を立てて倒れる。制御が止まる、軽くなる、動ける。同時に後ろのバンの浮遊制御が失われて、地面へと、そのまま、大きな振動を立てて着地した。バンも真ん中の部分で、05と同じ幅の隙間で、縦に完全に二つに(わか)れている。咄嗟にロッkアへと近づく


「ふう」


ティティスさんが呻くように体を起こした。05の腰から延びるスプラインが、力なくそっちへ向かって残っていた


「なんだってんだー、なんなんだーッポー」


そういって…VtBANの上にあった白い耳のようなものを付けたマシンが、後ろへと転げ落ちていった。奇妙な音を立てて裏の…なにか他のマシンに当たったような感じの衝撃を出したマシンは、これまた軽い珍妙な音を立てて破裂した


「うへえー、真っ二つか」


「うっわっ、あぶなっ…なにしてんだよっ、あぶねーだろうがっ。まーたやりたがったな。ほんと、手加減が滅茶苦茶なんだよ、おめーはっ。教えてもできねーってアホかっ…あーでもこれで手間が減ったかぁ…あーしんどかった」


後ろからさらにそんなのんきな声が聞こえた。どうやら無事らしいふたりがなにか笑いあう。こっちの状況を見ていないからそんなことができる。駆け寄る


ワルグが右手を使った。ボーパリアントは右と左で異なる使い方をする。さっきまでは左だけしか使ってなかった。右を使うと…大抵、こんな風な大事(おおごと)になる。同時に使えないことだけが幸いだ…敵対するものからしたら


「息をなさい、ロッkア。聞こえないのですか?」


ティティスさんが青白いロッkアの頬に手を添えつつ、声をかけている。白い肌が少しだけ赤くなって、真剣な面持ちで話しかける。意識がないものにさすがにそれは無理だ


「失礼します」


「エードン…?」


首筋に手を当てる…ない。自分の中の爆発しそうなそれに、それではダメだ、というもう一つを重ねる。最善の方略を選択せよ、最短の方法で善処せよ、最善でも最短でも効率だけを追求するな、無理やり体を動かす


「こちらへ、ここは瓦礫が邪魔でうまくできないので、ワルグ、ガレージの…いや、オフィスの蘇生装置をを持ってきてくれるかい?」


ここのはどこに行ったか分からない、今は時間が惜しい。ワルグは頷くと姿が消えて…オフィスへと続くドアが激しい音を立てて、外れた


抱き抱える、ズシリと重い。ロッkアは完全に力が抜けていて、手がだらんと垂れ下がる。運ぶ、それでも軽く感じられるから不思議だ、意識もない、ここでは何もできない。マシンの近く…瓦礫も何もない位置へと寝かせる。地面が冷たい、上着を取って下へと引く。頭の下…手短にあったグローブを入れ込む


「聖下…殿下は…」


「大丈夫です。すぐに戻ります」


ええ…そう信じてください。確か…講習で習った蘇生法を試す、何事も習っておくものだ。首を傾けて顎を上にあげて、気道を確保。呼吸を確認…ない、肋骨の…えーと子供だと下から指いくつだっけ? そんなことをしつつ、心臓マッサージを行う、ただし軽く力を籠め過ぎないように、やり過ぎないように、慎重に……


「エードンさま……」


ええ、分かってます、それから人工呼吸を数回、それを繰り返す…ダメだ、呼吸が戻らない


「まあ……」


ああすいません、今は…あとで…力を籠めないように心臓マッサージを……


「エードン? 着替えなんて…わぁおっ、なんだって……」


「聖下? またそのようなご格好をなさって…殿下!?」


「イマーク、いまワルグに蘇生装置を持って来るようにいったんだけど、見てきてくれるかい? 大至急だ」


「え? あ…ああ、分かった……」


まだ戻らない…そんな時間が経過していた? 安心しすぎていた。まさかこんな方法があるだなんて…思わなかった


箱の中に隔離する、保護するため、それはいい、そこに呼吸口を設置しない、対象が気体呼吸を必要とする知的交渉可能体である、という認識をわざと外させて、それならボットは自身が正しいことをやっていると判断する


ワン・ダイレクト・ブレイクとかいったか? ある一か所を破壊、失わせることでそれ以降のもの、すべてを機能不全に陥らせる。就連邦が得意としたやり方だ


「エードンさま、もう…十分でございます、それ以降は……」


そうゼイvlrスさんに諭される


「ダメです、まだ……」


「もう…これ以上は必要ございません」


いや、必要ないって……


「殿下は…目を覚まされてございます」


え?


脈を確認する…ない、呼吸…もない。なんでそれで……


ティティスさんがやや含み笑いをしつつ、いった


「わたくしたちはいくつかの…ふふ、生態維持機能を持っています…ふふふ、そのうちの一つに、長い環境外航行を行う際の身体への負担を…ふふふ、減らすために仮死状態を選択できるのです」


仮死? 選択できる? そんなことが?


「ええ…ですから…良いものを見させてもらいました、エードンには感謝をしなければいけませんね。何が良いでしょう…ああ、約束はできませんので、お願があるのなら11に伝えなさい。わかりましたね」


「ご威光のままに」


そうゼイvlrスさんが頭を下げる…何の答えにもなってない、何をいっているのか…現に何の反応も……


「あっ、何やってんだよ、エードン。女を裸にさせて…(さみ)ーだろうがっ、このバカがっ」


そういってkリアに頭を叩かれた


「また聖下のお戯れかあ……」


また?


「見んじゃねーよ…ってガキんちょはどうしたんだよ? それにあんた誰? 寒いだろう、そんなんじゃ…ああ、着替えがねーのか…イマークがいなくてよかったぜ。どこいったんだか、あいつ。ほんと、大事な時にいねーよな…しゃあねー、少し待ってな、今持って来てやっから……」


そういってkリアがガレージを後にする。イルファさんが子豚を持った手を頭の後ろで組んで


「kリアはなんだかんだ文句いうのにやるよな。おもしれー」


呆れたようにそういった


「もうよいぞ、エードン、離してくれ。母上、またそのような格好で出歩いて…ここは城内ではないのです。お控えください」


ロッkアが何事もなかったように目を覚まして、溜息にも似た息を吐いていった


「あら? わたくしの身体のどこに隠さなければいけない欠点があるのですか?」


そう胸を張るティティスさん…いや、胸を張らないでください。あと、イゼさんやゼイvlrスさんはなんで何も注意もしないんだ? 主人のこんな格好とか…止めるのが通常なんじゃないのかい?


プロテクターはワルグに頼んで外してもらった、慎重に、傷なんてつけたら大変だ、ガレージごとなくなる可能性もある。きちんとインナーを着ていたようだったから…それは残すのだとばかり思っていたけど…足先から足首までしかない。それ以外は全部、きれいに無くなって(外して)いる


「母上、エードンが困っています。市井(しせい)では裸体をさらす行為は破廉恥だということです。皆も母上の奇行には注意するように申しつける、特に外ではやらせるな。分かったな?」


「ご威光のままに」


立ち上がったロッkアに四人が同時に頭を下げた。やや膨れた顔をしてティティスさんがいいかえす


「わたくしの体のどこにいたらない点があるというのです? お答えなさい、エードン」


え? そう聞かれる、応えなさいといわれても……


「ございません、しかしここは…少し肌寒いので…なにか羽織った方がいいでしょう。いま、kリアが持って来るので…待っててください。大丈夫ですか?」


何をどう聞いていいのかがいまいち、わからないが、口が勝手にそういった


「ええ、大丈夫です。そういう機能もありますから。服など自分の姿体に自信のないものが着る装いです。わたくしには必要ありません。でも…そうですね、ロッkア、あなたが着ている衣服が面白いです、それを所望します」


ロッkアの服…kリアの趣味だ。真ん中に腕足がない行動類種が大きく口を開け、牙を出して威嚇する絵柄がついている。kリアはこういう挑戦的なものが好きだ


「母上…エードンも母上のわがままに付き合う必要はないぞ? 聞いていたらきりがない。母上も皆を困らせるような真似は……」


そう続けようとした時、かろうじて残っていた天板が崩れ落ちた。支えも何もないところ…確か…03がそこにいなかったかな?


遠くからやっとサイレンが近づいてくる音がした



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