CMR #02 ジャガー Eタイプ #26
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思わず、目から上だけをダッシュボードから出して、ガレージの状況を唖然としているイマークを見る。そんな頭を抱えても、何の得にも利益にもならないよ?
ウィルスはどこから侵入した? 感染源は…まさかイマークの連絡トレイからじゃないよね?
「イゼさん、ガレージのサーバーにアクセスしました?」
逃げるふりをしてイゼさんの近くへと寄る。組成用の装置は無事、止まっていない。ただ…一時的に速度を落としているのか、再成製のスピードがわかるぐらい遅れている
「いいや、そんな隷令は出していない。そもそも、そんなことをする必要がない」
「必要がない?」
「対象組織の意義に関心はない。我らの目的は殿下の安全の確保とお迎えだけだ。対象が反執政組織であろうが犯罪集団であろうが、一切関与せず、同時に関係しない」
お迎えか…だとすると以前から潜伏していたのかな?
「ほかの方に同じ症状は? イゼさんも同じ設問が頭の中を繰り返したりしてますか?」
「いいや、そんなことはない。クリアだ」
「わたくしたちはあのものたちとは根源が違うございます。稼働時間にも差がありますゆえ、あのような状態には陥りません」
そうゼイvlrスさんが補足した。じゃあ…単体と考えていいのかな? 後ろのマシンもか
「kリアがいてくれたらはっきりしたんだけど……」
専門はkリアラだ。僕では対応はできても対処ができない…ああ、イルファさんがそうでないとは限らないか
「ウィルスでございますか?」
「ええたぶん」
「ウィルスだと? 3110が? 事前の検査では検出されなかったはずだ」
3110がなにかはわからないけど、それでタイプが判断できる
「巡回潜伏型のウィルスで…症状から見て隷令…隷属命令の上書きをされたんでしょう。ただそれが不完全で自己ループに陥っています」
「巡回型か…」
「そんなことが起こるのですか?」
運転席ドアに手をかけて、顔だけ出したお母さんにそう聞かれる
「聖下、お危のうございます」
「大丈夫です。04が守ってくれています。それよりも知りたいことがあります」
イマークのように伏せていてくれているとありがたいんだけど…あと気になりますも後にしてもらいたい。そうか説明責任…イマークに…は無理だな
「なんでしょう?」
手短にお願いします
「ウィルスであのようになるのですか? 所有者に対して敵対行動を? どうやって?」
そうですね、それは知りたいですね。状況によってはここにいる全オートマタがそうなるし、帰った後、所持しているボット、全部を再検査しなくちゃいけないから
「ウィルスにはいくつかの種類があるのですが…その中で、一部分のみ情報を書き変えたり、参照ポイントというものをずらして、ほかの新たな命令の方が重要だと認識させたり、逆に参照したところを下位にして命令を実行させなくさせたりするものがあるんです。そしてそんなふうに書き換えが起こると、他の命令セットとの整合性が取れなくなって、あのように命令順序と選択のループに陥って、行動に一貫性が無くなるんです」
「一貫性? ですか?」
「あんな風に同じ設問、異なる命令セットの選択で迷って、行き来して行動が抑制されます。一方の命令を聞こうとすると、もう一方の命令が邪魔をして、どっちも選択できずに、迷走するんです。初期の矛盾ループ行動です」
「矛盾ループ? それであのような行動を?」
「そうです。命令が矛盾するので行動がちぐはぐになります。完全に命令セット全部を書き換えたのなら、ああはなりません。不完全な結果、あのようになります」
現に今こんなに話していても一向にこちらを気にする素振りも見せない。注視しているのはワルグだけ…たぶん、この中で自分に対して脅威となる対象が、wrgだけだと認識しているからだ。それと同時に、内部にある命令が矛盾しているから、そこから抜け出せないで行動に制限がかかっている
「なるほど。ではどうすればロッkアを助けることができますか? 除去する方法は?」
知りたいのはそこですね、確かに
「それが…難しいんです。こういった矛盾ループを起こすウィルスは巡回型といわれるものがほとんどで…本当に簡単な書き換えしか起こしません。それなのに、このタイプは対象にある空領域…開いている演算領域、記憶領域に入り込んで、そこでコピーを作り、さらに本体も逃げ回ります。ひとつ除去してもコピーが残っている限り、何度でも同じことを繰り返し起こします。短い書き換えしか起こさないので…ウィルスも短く、隙間があればどこにでも入り込むことができて…堂々巡りになります。そして除去が成功した場合でも、取り除けた、として、ほかの残ったものをそのままにしてしまうことがあるんです」
現実の…昔あった人体へのウィルス汚染と一緒だ。潜伏して…長い期間、潜む。そして突如、猛毒化して発症、宿主を苦しめる。しかもその間にほかの部分や個体へも感染を広げて、対処を困難にさせる。除去も撲滅も同様。こういったものは長い時間を経過しないとその本性が解明できない。上辺だけ対応しても無駄、残り続け、根絶には至らない。それがこれ
「対応は…全初期化です。それまで蓄積したデータや知的パターンなど全部、消去します。ただ問題は…どうやってそれをするか、です」
「廃棄がある。中身を全部、入れ替えればいい」
イゼさんはそういうけど……
「それは最終手段です。価格が安いものならいいんですが…大抵のオートマタは高価です。蓄積データによって、所有者の好意的行動に最適化されます。それらすべてを失くしてもいい…という方はそんなにいません」
「また一から、ですか…それならほかの個体からのコピーではいけないのですか?」
「素体的構造と行動的稼働領域が同一なら行えます。たとえばイゼさんとゼイvlrスさんのような同一成製体なら可能です。でも…異なる成製体間の流用はお勧めしません。できないことはありませんが…どこがどこを動かすのか、制御が異なるとそれでも矛盾ループが起こります。全部を直すには初期化以上の手間と労力と費用が掛かります。元が取れない上に、危険すぎて使えません」
感染した後のでコピーもダメだ。それに含まれていたら元に戻ってしまう
「初期化が難しいのは…オートマタ本人と所有者、両方の承認が必要になるからです。オートマタを停止させるための起動スイッチは外部にはありません。行動停止もスリープも初期化も、オートマタ本人に選択させなければできないようになっています。でも感染したオートマタは、停止させる前に、命令矛盾によって行動が破綻して暴れ出します。拘束するか一時的に外部から強制停止するか…、そうでもしないと初期化しようにもできないんです」
「それは…困りましたね」
そういうとお母さんはロッkアを心配そうに見つめた。けど、どこか楽しそうなのは気のせいかな?
唯一の救いなのは…ここまで話していても相手が全く行動していない、ということだ。ロッkアには悪いけど…?
「おかしい…順序が逆だ」
「? 逆?」
「抵抗して暴れだすのはウィルスが発現して、いくつかの命令セットを無理に無視した後です。それなのに今回の場合、初期の矛盾した状態で暴れています。人質を…取っています。これは初期化を強制した時の素体の安全を確保する行動に見えます。少なくとも…矛盾ループに陥っている状態で取れる選択ではありません」
しかも主を人質にして、なんていうことはしない、できない…え?
嫌な予感、それ自体が目的だったら? 他の命令セットがまだ生きていて…そのうえで隷令無視をしていたとしたら?
「そもそも…なにが目的なのかがわからない。対象? 行動? ただのイタズラ? 面白半分? でもそれならロッkアをわざわざ、拘束しなくてもいい。常時発動型? だったのならその前から兆候があったはず。なのにこのタイミングで行動が一変した。ワルグと対峙したから? それ以外で何か……」
見落としている点がある。それはなんだ?
05とワルグは互いに見据えたまま、ピクリとも動かない。でもワルグがなにかしようとすると05はそれに即座に反応する。それでwrgも大きくは動かないでいる
ああ、ほんとにここにkリアラがいてくれたら……
「イゼさんたちはワルグ…ボーパリアントと対峙して戦闘したことがありますか?」
「ない。そもそもこちら側にはいるはずのない絶滅類種だ。遭遇したこと事態、想定外だった」
まあまだワルグがいるんだから絶滅ではないけど、それに近しい状態であることは確かだ。ワルグ以外目撃報告さえ、見たことがない
では……
「……あー、そっちはどー? こっちは…なんとかダイジョブだけど……ちょっと、触んなっていってるだろーが」
突如、そんな声が聞こえた。ガレージからじゃない…これは……ジャガーから?




