第24章 沈黙の裏側
南部拠点、オペレーションルーム。
壁のモニターには、先ほどまでのビデオ通話の静止画が並んでいた。
アリシアの家族。
ルキの兄弟。
カイの家族。
アヤの家族。
──みんな、生きていた。
ほんの数十分前まで張りつめていた緊張は消え、室内には柔らかな空気が流れている。
「……生きてた……マジで、生きてた……」
ルキが小さく呟き、思わず目元を手で覆う。
ナッシュがその肩を軽く叩き、黙って微笑んだ。
ティアナも視線を伏せたまま、静かに涙を拭う。
そして──
カイは、胸の奥から溢れ出しそうになる呼吸を必死で押し殺していた。
声にしたら崩れてしまう。
そう思うほど、心が大きく震えていた。
レオンが、静かに皆を見回す。
「……よかった。
これまでやってきたこと、間違ってなかったな」
それでも──
アリシアだけは、まだ笑顔を作らない。
彼女は腕を組み、しばらく黙り込んだあと、静かに口を開いた。
「……ここで浮かれるのは、まだ早いわ」
全員が顔を上げる。
アリシアの瞳には、冷たい光が宿っていた。
「“生きている”という事実は確認できた。
そして、“映像としては本物らしい”ということも分かった」
ルキがうなずく。
「録画も確認したけど、不自然な編集は見当たらない。
癖も、動きも、表情も……フェイクの兆候はない」
サガラが腕を組み、低く言った。
「となると……問題は“次”だな」
アリシアが、その言葉を引き取る。
「そう。“解放”よ」
室内の空気が、一段階引き締まった。
「家族を解放してもらうだけなら、今すぐ交渉してもいい。
でも──」
彼女はモニターに映る家族の静止画を見上げる。
「解放されたあと、どうなるか」
誰も、すぐには答えられなかった。
「帰る家は?」
「監視は?」
「再拘束は?」
「“再粛清”は?」
レオンが、ゆっくりと吐息を漏らす。
「つまり……“助けました、はい終わり”じゃ済まないってことだな」
「そうよ」
アリシアは、迷いなく頷いた。
「その後の安全を保証するためには──
《ノア》の“粛清プロセス”そのものを、根本から見直させなければならない」
ルキが、軽く手を上げる。
「でも、それなら……ARCADIAと直接会談しなくても進められるね」
「そう」
アリシアは即答した。
「設計の改修、基準の提示、監査プロセスの構築。
それは“概念と手続き”の話。
わざわざ同じ空間に集まる必要はないわ」
サガラが頷く。
「軍事的リスクを負ってまで、向こうに出向く理由はないってわけだ」
レオンが画面を指した。
「つまり──
“解放”と“安全保証プロセス整備”を同時進行で進めろ、ってことを
ARCADIAにぶつける、か?」
アリシアは、小さく微笑んだ。
「ええ。
“一時解放だけで、再び刈り取る”なんてことは、許さない」
カイが、慎重に口を開く。
「でも……向こうは、応じるでしょうか」
「応じるしかないわ」
アリシアの声は静かで、揺れていなかった。
「《ノア》に触れない以上、彼らは完璧じゃない。
世界の安定を、維持できない。
そしていま、《ノア》の首輪を握っているのは……私たちよ」
ルキが、口角を上げる。
「じゃあ、次の交渉の軸は決まりだな」
レオンが、まとめるように言った。
「“家族解放”
+
“粛清プロセスの恒久的見直し”
+
“継続監査体制の確立”」
「それに──」
アリシアが、最後にひとつ言葉を乗せた。
「“直接会談”は拒否する。
少なくとも、まだね」
全員が頷いた。
喜びは、まだ──途中にある。
救いは、まだ──形になっていない。
だが。
確かに、一歩は前に進んだ。
――その足場が、どれほど脆いかを知りながら。




