第23章 証明の瞬間
南部拠点、オペレーションルーム。
その日は、いつもより誰もが早く集まっていた。
壁のモニターには、ARCADIAへの通信待機画面が映し出され、ただ静かに時を刻んでいる。
緊張と期待。
相反する感情が同居する空気を、誰も壊そうとしない。
そして、
──接続要求。
ルキが手短に操作する。
──ARCADIA:生死確認の結果を送付する。
画面が切り替わり、膨大なデータが一覧として表示された。
誰も、しばらく声を出さなかった。
「……」
最初に小さく息を漏らしたのはルキだった。
「……生きてる……!」
その言葉を合図に、次々と視線が動き出す。
アリシアの目が静かに見開かれ、
カイは唇を強く噛み締め、
ティアナは震える手を口元に当てた。
「ほとんど……生存扱いだな」
サガラが低く言う。
ただ数件だけ、「死亡」の文字が存在していた。
それは高齢者や病死とみられる記録で、詳細な死亡理由まで明記されていた。
それはフェイクを疑わせる荒さではなく、
むしろ“整いすぎているほど整った”情報だった。
「……父さん……母さん……」
ナッシュが、ほとんど無言で画面を見つめたまま、堪えるように笑った。
アリシアは静かに息を吸い、全員を見渡す。
「──いいわね。
まずは、一部の対象とリモートでの面談を要求しましょう」
「誰からにする?」
レオンが問う。
「最新の粛清対象。
記憶も印象も新しい方が、偽装を見抜きやすいわ」
アリシアの視線が自然と二人に向く。
「……カイ」
「……アヤ」
二人は同時に息を飲んだ。
「それと──」
アリシアは画面を見据えたまま続ける。
「古い対象も必要ね。
過去に粛清対象になった人間が“本当に生存しているか”。
ルキの兄弟と……私の家族。これも対象にしましょう」
レオンは頷いた。
「バランスは悪くねぇ」
ルキがキーボードを叩く。
──GENESIS:以下対象とのリモート面談を要求する。
送信。
息を詰める一同。
数秒後。
──ARCADIA:承認する。
二日後、14時よりセッションを設けよう。
「……ずいぶんあっさりだな」
サガラが苦笑する。
「それだけ“見せられる自信がある”ってことよ」
アリシアは吐息を混じらせる。
「ならこっちも準備だな」
レオンが腕を組む。
質問項目。
記憶の齟齬チェック。
家族や関係性、昔話、癖、仕草。
あらゆる角度から、
「偽物ではない」ことを──
「本当に“その人間自身”である」ことを、確かめるための準備が進められた。
*
そして、二日後。
オペレーションルームの照明がいつもより落とされ、
全員が息を潜める中──通信が開かれた。
──セッション開始。
モニターに、四つの映像ウィンドウが開く。
「──……!」
誰かの息が、はっきりと聞こえた。
アリシアの両親と弟。
ルキの兄弟。
カイの家族。
アヤの両親。
そこにいた。
「お父さん!お母さん!リオ!」
カイが思わず叫ぶ。
「……パパ……ママ……」
アヤの声は震えていた。
涙を堪える者。
ただ見つめる者。
言葉を失う者。
映像の向こう。
家族たちは、当たり前のように泣き、当たり前のように笑い、
そして当たり前のように、名前を呼んだ。
準備した質問が投げられる。
過去の記憶。
何気ない日常。
誰も知らない個人的なエピソード。
すべて──自然だった。
違和感も、わざとらしさも、作られた“演技”の温度も、どこにもない。
ただ、“生きている人間”がいた。
セッション終盤。
「──これで問題ないか?」
無機質な音声が割り込んだ。
それは機械の合成音。
年齢も性別も、感情すら判別できない、完全に“匿名化された声”。
──ARCADIA。
アリシアは短く息を吸った。
「えぇ。ひとまず──問題ないと判断する」
「了解した。
次のステップは、そちらの判断を待つ」
音声が途切れ──通信は切断された。
静寂。
誰も、すぐには口を開けなかった。
レオンが先に息を吐く。
「……どう見た?」
「フェイクには見えなかった」
ルキが即答する。
「はい、仕草や癖も本物にしか見えませんでした」
カイも続ける。
「私の家族も本物に見えました」
アヤも頷く。
ナッシュが録画映像を再生する。
皆で確認する。
角度、瞬き、呼吸、表情の揺れ。
何も、不自然ではなかった。
アリシアは椅子に深く腰を預け、小さく呟く。
「……そうね。“本物”としか言いようがないわね」
その言葉に、誰も反論しなかった。
ただ胸の奥に広がるのは、
希望──
そして同時に、言い知れない不安。
“ここまで完璧に見せられる”という事実そのものが、
新たな疑念の影を生んでいく。
それでも。
今はただ──
確かに「生きていた」という事実が、全員の心を強く満たしていた。
来週はお休みします。次回は1/10(土)か1/11(日)に投稿します。
皆さま、良いお年をお迎えください。




