表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒューマンコード  作者: エイジ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/29

第14章 囮と潜入

一週間が経ち、街はいつもと変わらぬ顔で夜を迎えていた。

だがその静けさの裏で、ジェネシスの拠点では息を潜める者たちがいた。

空気が張りつめ、臨戦の鼓動だけが確かに響いている。

アヤから託されたチップの情報をもとに、作戦は緻密に組み上げられている。

地図と通信ログ、そしてルキたちが徹夜で抽出した “保守モード” の痕跡──

それは旧政府庁舎の地下へと続く、ただ一つの“生きたルート”を示していた。


「行動は今夜だ。サガラ率いる陽動班は三手に分かれ、監視網を誘導する。

俺たち技術工作班は旧庁舎に地下から潜入し、接口インターフェースを確保する」

レオンの声には迷いがなかった。包帯の下で握る拳は汗で湿っているが、震えは力に変えられている。

彼の周囲にはセラ、カイ、ルキ──そして南部の面々。

誰もが沈黙したまま、わずかな息遣いで彼の言葉を刻みつけていた。


サガラは三班の名簿を確認し、短く頷く。その目は鋼のように硬く、わずかな感情すら映さなかった。

隣で副リーダーのエドが端末を操作し、タイムラインを映し出す。

そこには監視ドローンの軌道、処理班の巡回パターン、そして「陽動の火花」を散らす行動経路が分単位で並んでいた。


「一班と二班は派手に陽動する。三班はその隙に“本隊”を装い、敵の意識をさらに引き寄せる。

本命を隠すには、嘘も真実に見せる必要がある」

サガラの低い声に、全員が頷いた。

緊張の中にも、鋭く研がれた一体感が漂っていた。


──夜半。陽動三班はそれぞれ街へ散っていった。

街路のネオンが雨粒のように滲み、ビルの谷間で風が低く唸る。

その合間を縫うように、ジェネシスの影が動いた。

通信妨害によるノイズ、掲示板の偽情報、交通灯の瞬間的な誤表示──

派手だが致命的ではない“見せ場”が各所で同時多発し、監視の焦点が次々と移っていく。


「一班、二班、誘引成功。巡回ドローンのパターンが崩れてる。本部に伝わるまで、あと数分だ」

サガラの声が無線に響く。湿った夜気の中、その声は異様に澄んでいた。


やがて政府の監視網が反応を示す。異常検知が中央に送られ、ゼクス少佐の端末に報告が上がった。

彼の瞳がモニターを射抜くように細まり、短い間の後、冷たい命令が下る。

「動いたなジェネシス。二地点に部隊を投入しろ。粛清対象として対処を許可する」


指令が走り、処理班が出動する。重装車両のエンジンが都市の地下を震わせ、

ゼクスの迅速な判断が結果的に都市の要所に“隙”を生む。

情報の動かし方が想定通りに機能し始めたのだ。


三十分後、二つの陽動地点では銃声が響き、閃光弾が夜空を裂いた。

金属と火薬の匂いが入り混じり、ビルの壁面に閃光が反射しては消える。

一班は路地裏で遮蔽物に身を隠しながら、処理班の装甲兵を迎撃していた。

「後退! 角を曲がった先で再配置!」

サガラの叫びが飛ぶ。弾丸が壁を穿ち、破片が頬をかすめる。

煙幕を展開し、隊員たちは瓦礫を飛び越えて次の位置へと移動する。

足音、息遣い、そして銃撃のリズムが、まるで一つの戦場の鼓動のように脈打っていた。


二班は高架下で応戦していた。

上空のドローンが照射する白いサーチライトが、夜の闇を切り裂く。

「撃ち落とせ!」

二班指揮官が携帯ジャマーを起動し、ドローンの一機が墜落する。

しかし敵の数は減らず、包囲の輪がじわじわと狭まっていく。

「後退しながら休まず撃て! 時間を稼げ!」

指揮官の怒号が響き、隊員たちは次々と物陰から発砲した。

応戦しながらも、一班・二班ともに計画通り徐々に後退を始める。

まるで獣が自ら罠に誘い込むように、敵を市街地の奥へと引きずり込んでいった。


やがて、街のあちこちで爆発音が連鎖し、都市全体が混乱に包まれる。

警報が鳴り、ドローンが一斉に舞い上がった。

市民区域は騒然となり、監視網の目が一方向――二つの戦線に集中していく。


「三班、十五分後に監視網につかまれ」

サガラの低く冷静な声が通信に響く。

「ラジャー」

エドの短い返答。

三班は一班・二班の交戦地から離れた旧通信設備へ潜入しており、

旧庁舎とは反対側――“ダミーの本命”として動いていた。


エドは静かに腕時計を見やり、タイムラインを確認する。

「──予定通り、仕掛ける」

三班の隊員たちはヘルメットのライトを消し、闇の中を滑るように前進した。

目的は潜入ではない。検知される“こと”そのものが任務だった。


古い通信塔の裏側に到達すると、エドが携行端末を起動させる。

周波数干渉プログラムが作動し、わずかにノイズが空気を震わせた。

「信号、上がった。監視系統に引っかかるまで、あと十秒……」

その言葉と同時に、警報灯が赤く点滅し始める。


数秒後、都市の監視網が反応。

高空からドローンが急速に飛来し、レーザーセンサーの光が地面をなぞる。

「かかったな」エドが苦く笑う。

都市の監視の焦点は完全にそちらへと向かった。


「……任せたぞ。」

エドは闇の奥を見据え、誰にともなく呟いた。


──その瞬間。


「行くぞ」

レオンが短く告げた。技術工作班の五人が、闇を縫うように旧庁舎の地下入口へと向かう。

入口はアヤの情報からルキが解析で突き止めた古い保守口。長年使われていない鉄扉。

カイが手動制御モードに切り替え、旧式の電子ロックを解除する。

錆ではなく、通電の遅れが生む低い唸り音が響き、扉がゆっくりと開いた。


湿気を含んだ冷気が吹き出す。中は薄暗く、古い機械油とカビの匂いが混ざる。

「音を立てるな。撃ち合いは避ける。見つかったら、すべてが水泡に帰す。」

レオンの声は低く、冷徹な集中を帯びていた。


通路は細く、壁の内側を無数の光ファイバーが脈動するように走っていた。

ところどころ断線したケーブルから、青白い微光が漏れている。

床には古い制御パネルの破片が散らばり、過去と現在が入り混じったような光景だった。


ルキは携帯端末を耳元に当て、ノイズとログを照合しながら進む。

赤フィルターのライトが全員の顔を薄く染める。音を立てることは命取りだ。


「このノード、古い保守ルートと一致してる。でも反応がある。稼働してる配線が混ざってるぞ」

ルキの囁きに、セラが素早く周囲を確認する。

「気を抜かないで。静かに。」


慎重に進む彼らの前に、想定外の警備パトロールが入ってきた。

足音が金属を打つように響き、胸の鼓動がそれに重なる。

ルキは素早く天井の小型監視カメラを指差す。

レオンがナイフを取り出し、配線を引き抜く。映像は途切れ、カメラの赤いランプがふっと消える。


「来るぞ」

レオンが耳打ちし、全員、壁に張りついて息を止める。影が視界をかすめ、足音は通り過ぎた。

セラは静かに人差し指を唇に当て、わずかな反射光さえ抑える。


数秒が永遠のように過ぎ、気配が遠のく。緊張が少し緩んだ瞬間、通路の奥に古びた鋼鉄の扉が見えた。

表面には薄く「保守区域」の刻印が残る。ルキがライトを寄せ、番号を確かめる。

「ここだ。ログにあったノードの一つ──“ARCADIA接続端末”。」


レオンはゆっくりと拳を握り締めた。

「……よし、ここからが本番だ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ