表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒューマンコード  作者: エイジ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/29

第13章 再編の刻

無人と化したマンションの影が、南部拠点がある建屋へと落ちる頃、地下通路の空気はいつになく張り詰めていた。金属の壁が薄く振動し、遠くで落ちる水滴の音が断続的に響く。


扉が開き、重い足音とともに十五名の精鋭が流れ込んできた。先頭を歩くのはサガラ。軍隊仕込みの直立した姿には、言葉にならない説得力が宿っている。彼の横で冷静に周囲を見回すのは副リーダーのエド。シャープな顔立ちからは、計算された沈着さがにじみ出ていた。


「ようこそ、南部拠点へ。俺はここを統括している、レオンだ」

レオンは軽く頭を下げ、肩越しに周囲の影を一瞥してから目を細めた。傷痕の痛みを堪えつつ、腰にぶら下げた装備をわずかに打ち鳴らす。続けて、少し苦笑を含ませて付け加えた。

「直接会うのは初めてだな、サガラさん」


サガラは腕を組んだまま無骨に頷き、歩を止めて低く応えた。

「はじめまして。サガラだ。よろしく」


レオンは短く息を吐き、作戦室の入口へ向けて一歩踏み出す。足取りは控えめだが確かで、指先で無造作に端末を撫でながら振り返って言った。

「到着してすぐで悪いが、作戦室までついてきてくれ。アリシアたちと繋がっている」


作戦室。薄暗い室内にモニターの青白い光が揺れ、十名となった南部メンバーの顔を淡く照らしている。画面越しにアリシアが小さく手を上げ、全員の視線が一点に集まった。


「東部拠点のみんな、無事に到着したようね。ここからがいよいよ本番よ」

アリシアの声は端末越しに冷静だが、芯の強さが滲んでいる。


「まずは状況整理。レイナが残した情報は一次資料として有力よ。ただし、先日の失敗で分かったのは──単純に殴り込めば済む相手ではないということ」


セラが前に出て作戦ボードの前に立つ。ボードには旧政府庁舎の地下構造図、ルキたちが解析した通信経路、ジェームスの報告から抜き出した断片が貼られている。紙の端が淡く光を受けている。


「今回、私たちが狙うのは『ARCADIA』そのものではないわ。直接本体を潰す突入は現実的でない。前回のように待ち伏せられて消耗するだけの手は二度と使えない」

セラの声に、作戦室の空気がさらに引き締まる。


サガラは腕を組んで低く唸った。

「賛成だ。エシュリオンの処理班は膨大な人数で組織化されている。この人数で突入すれば命がいくらあっても足りない。相手を“出てこざるを得ない状況”に追い込むのが望ましい。直接対峙するのは最終局面に限る」


冷静な声でエドが指し示した。

「二段階で攻めましょう。外側の『陽動』と、内側の『技術工作』。東部が主に陽動を担当して監視網を撹乱します。南部のハッカー班は、接触可能なインターフェースを確保して『ARCADIA』に語りかける窓口を作る」


サガラが付け加える。

「陽動は任せろ。ただし民間被害は最小限で。電力遮断や交通麻痺といった致命的な手段は避ける。目を引くが致命傷にはならない“見せ場”を作る。市民の命や生活を犠牲にするわけにはいかない」


ルキは端末の画面を見据えながら手を組んだ。

「技術工作ならお任せ。レイナの情報によるとノードには『保守モード』や『監査ポート』の痕跡が残っている。直接本体へ踏み込むより、その“扉”をこじ開けるほうが成功率は高そうだ」


ナッシュが顔を上げて短く言った。

「ただ、『ARCADIA』が会話に応じても、相手がAIなのか人なのか分からない。向こうの出方次第では、不正操作のログや公開手段といったカードが必要になる」


アリシアは静かに指示した。

「そうね。不正操作の記録を得たら、即座に多重保管して公開までの“スイッチ”を仕掛ける。公開の鍵は我々が持つ。交渉の場で相手が応じるかはそのあとになるわ」


レオンが冷静に補足する。

「我々の目的は『統治AIの適切な判断の回復』だ。《ノア》が不当に操作されているなら、まずは“問い”を差し向ける。脅しではなく、証拠を前にした対話の余地を作る。相手が拒めばログを公開し、政府の正当性に楔を打つ。常に両手を用意しておく必要がある」


短い沈黙が落ちる。


レオンが指示をまとめる。

「東部は陽動、南部技術班は接触インターフェースの確保とログ読取。ルキとナッシュは公開プランの設計とタイマー設定も作ってくれ。残存戦力は守備と退路確保。アリシア、作戦全体の指示と事後処理は頼む」


アリシアはじっと皆を見渡した。

「了解。作戦にあたり注意点は二つ。被害を最小限にすること。情報の真偽を厳格に検証すること。前回は情報を鵜呑みにしたのが一因。ルキ、入手した情報の横断的照合が最優先よ」


レオンはうなずき拳を固めた。

「みんな、頼む。ここで立ち止まるわけにはいかない。グレンたちのためにも、レイナのためにも。真実を取り戻す。だが、もう無駄な犠牲は出さない」


セラは目を閉じ、低く誓った。

「二度と同じ過ちは繰り返さない。全員が帰還すること──それを最優先に」


作戦室に決意の波が広がる。やがてアリシアが立ち上がり、決定を告げた。

「これで作戦を確定する。詳細は各班リーダーに任せる。行動は一週間後。各班、準備を急ぎなさい。情報は命。慎重に、だが決断は速やかに」


都市の灯りが静かに揺れる。作戦室に残されたのは、覚悟とわずかな恐怖、そして確かな希望だった。レオンは窓の向こうの光を見据え、胸の奥で亡き者たちの声を聞いた。


「行こう」──彼の声は小さかったが、皆に届いた。


こうして、第二の挑戦が動き出す。しかし、扉の向こうに待ち受けるものが想像を超えているのか否か、誰もまだ知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ