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ヒューマンコード  作者: エイジ


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第11章 決死の潜入

数日前、レイナから秘匿通信で詳細な情報が届いた。


「先日依頼もらった件、調査結果を報告します」

素っ気ない本文とともに、重要な接触ルート、敵施設の弱点、新たなIDコードが記されている。

中央都市エシュリオン西部の政府庁舎。


重要な情報ではあったが、直接の面会ではなく、通信だけでのやり取りに一部のメンバーは不審を抱いた。

セラが鋭い声を上げる。

「なぜ今回は直接手渡しでなかったのかしら。本当に本人からの情報と信じてよいの?」


空気が一瞬凍りつく。

「たしかに、入手ルートも聞けてないし、信憑性が薄い気がする」

ルキも眉をしかめてつぶやいた。


レオンが深く息を吐き、皆を見回す。

「エシュリオンの状況が分からないので何とも言えないが……

俺たちジェネシスの殲滅に向けて警戒は厳しくなっているだろう。

レイナも自由に動けない可能性が高い」


「まぁ、確かにね」

セラがしぶしぶ答える。


「どの道、エシュリオンに潜入することになるんだ。リスクは高い。

メンバーを絞って乗り込んでみるしかないんじゃないか?」


緊張を帯びた沈黙の末、誰も異を唱えなかった。


その後、レイナからの連絡も途絶え。これ以上手をこまねいているわけにもいかず、エシュリオンへの潜入作戦が決定した。


メンバーはレオン、セラ、グレン、カイ、そして数名のサポート要員。

ジェネシス南部拠点の精鋭メンバーが揃う。

今回の目的は“ARCADIA”との接触に向けた活動拠点の事前確認。


夜の帳が降りる中、彼らはレイナからの情報に従い、政府庁舎へと足を踏み入れた。

湿ったコンクリートの匂い、壁を伝う水滴の音。

足音がやけに大きく響き、誰も口を開かなかった。


「……妙にスムーズね」

セラが苦笑混じりに呟く。額には冷や汗がにじんでいた。


レオンも周囲に目を光らせ、低く言う。

「そうだな、静かすぎる」


「少し警戒した方がよさそうですね」

グレンがつぶやく。


やがて目的の部屋に到達。

レイナから入手したIDコードを入力すると、重厚な扉が鈍い音を立てて開いた。

部屋の中は闇に沈み、呼吸音さえも吸い込まれるように静まり返っていた。

ライトで照らすと思ったよりもフロアは広く、デスクが整然と並んでいる。

デスクの上にはパソコンも書類も何も置かれてない。


「このあたりは使われてる感じがないな。もう少しフロア奥側を探してみるか」

レオンがつぶやいた瞬間、天井のライトが一斉に点灯し、白い閃光が視界を焼いた。


「くそっ…罠か」


目が眩むより早く、背後から重い足音と金属音。

黒ずくめの処理班が雪崩れ込み、銃口が一斉に突きつけられる。

眩い光の中、冷酷な影が姿を現す。


──ゼクス。


「待っていたぞ。ジェネシス。残念だがここで終わりだ!

殲滅しろ!」

その一言で、地獄の幕が上がった。


轟音が室内を切り裂いた。

マズルフラッシュが暗闇を断続的に照らし、火花が飛び散る。

硝煙の匂いが肺を突き、耳鳴りで世界が揺れる。


「くっ、数が多すぎる!」

レオンが叫び、床を転がって銃撃を避ける。


セラはデスクの影から冷静に照準を合わせ、次々と敵兵を撃ち倒すが、圧倒的な数の前に劣勢は覆らない。

あちこちで悲鳴が上がり、仲間が崩れ落ちる。

カイも必死に銃を構えて応戦する。


デスクや床は弾痕で抉られ、硝煙が喉を焼く。壁には血しぶきが飛び、鉄の匂いが空気に溶け込んでいた。

仲間の叫びと銃声が渦を巻き、空気そのものが戦場と化していた。


その混乱の中、グレンが一歩前に出た。

彼の目は冷静で、強い決意が宿っていた。


「……私が道を開きます!皆さんはチャンスを狙ってください」


「待て、グレン!」

レオンが叫ぶ。


グレンは振り返り、わずかに微笑んだ。

「ここで、これ以上メンバーを失うわけにはいかない!」


次の瞬間、彼は突撃した。


銃火の嵐の中へ、孤独な影が飛び込む。

敵兵の間合いに飛び込み、至近距離で射撃し、倒した敵の銃を奪って撃つ。

その動きはまるで獣。鋭く、無駄がなかった。


処理班の隊列が崩れ、扉までのルートが開く。


「今だ!」

レオンが叫ぶと同時、セラと二人が駆け出す。

カイも必死に後を追う。


敵兵が三人を止めようとするが、グレンがことごとく投げ飛ばす。


「抜けた!」

カイは振り返り、声を張り上げる。

「グレンさんも!早く!」


銃火の中、グレンが一瞬微笑んだ。

その笑顔は、訓練の合間に見せてくれた、父親のような穏やかさだった。


その瞬間、複数の弾丸がグレンの体を貫いた。

衝撃で身体がのけぞり、鮮血が宙に弧を描く。


それでもグレンは扉の前から一歩も下がることなく、弾倉が空になるまで撃ち続けた。

──カチリ。

乾いた音だけが響く。弾はもうなかった。


銃を握り締めたまま、彼はなお仁王のごとく立ち続ける。

震える足を奮い立たせ、向かってくる敵兵を背負い投げる。


「グレンさん!」

カイは走り戻ろうとする。

レオンがその腕を掴み、怒鳴った。

「駄目だ、行くぞ!」


「レオンさん!離してください!グレンさんが──!」

レオンを振り払おうと必死にもがく。


「……グレンの犠牲を無駄にするつもりか!」

レオンの声は怒鳴り声というより、嗚咽を押し殺した叫びだった。

カイはその目にあふれる涙を見て、ようやく足を止める。

胸の奥で引き裂かれるような痛みを感じながら、歯を食いしばった。


「……グレンさん……ごめんなさい……ありがとうございました……」

カイは嗚咽を堪えながら涙を拭い、前を向いた。


グレンは意識が遠のく中、かすかに後ろ姿を見た気がした。

──カイが走り去っていく姿。


「……カイさん、無事でよかった……かならず家族を取り戻して……」


振り返り、最後の力で敵兵の銃を拾い上げ構えた。

だが、無慈悲な銃弾の嵐が全身を撃ち抜いた。


力なく膝をつき、静かに倒れ込む。

意識が暗闇に沈む瞬間、走馬灯のように過去が蘇る。


──二人の息子との公園からの帰り道。つないだ小さな手のぬくもり。

──「おかえり」と迎えてくれた妻の笑顔と温かな声。

──食卓を囲みみんなで笑い合った日々。


「……サキ、ハヤト、ユウタ……許してくれ……ありがとう」


その言葉を最後に、グレンは銃声と爆炎の中に沈んでいった。


その頃、レオン、セラ、カイは命からがら突破口を駆け抜け、闇の回廊へと逃れた。


背後では、仲間の犠牲と引き換えに切り開かれた道が、血と火薬の匂いに包まれて閉じていった。


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