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配信始めました 〜ダンジョン編〜  作者: ばっつ
第三章 夏休み
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第99話 身体能力測定

 葉山ダンジョン探索学校。霊峰葉山の裾野にあるダンジョン学校である。様々な特色を出して入校者数を増やそうと画策しているダンジョン学校がある中で、然程特色を出さず、基礎から応用までを教える授業内容、なのに安くはないが高くもない授業料、初心者用ではあるが、敷地内にダンジョンがある、これらの事で知る人ぞ知る学校である。なので、入校者数は少なくは無いが、人気校と比べるとやっぱり少ないと言った具合だ。

 

 例年までは。


 一年ぶりに訪れた学校には、変化があった。それは、入校者がたくさんいる事。少なく見積もっても、去年の今頃よりは五割位は増えている。裕人くんは「アキさんのお陰ですよ」なんて言ってたけど、まさかねぇ。


「な、なんか、去年より多くないか?」

「うん、多いね。何でだろう?」

「さっき聞こえて来たんだけどー、聖地巡礼らしいよ」

「誰の?」

「アキくんとー、雪ちゃん」

「あー、納得した」

「俺は訳がわからん。雪なら納得出来るけど」


 雪に対しての聖地巡礼だったら分かる。ここのダンジョンで生まれたって知られてるし、俺のCHでも人気があるから。

 俺のCHでは、りん達四人組と神鳥が人気だ。そしてモン娘達も同じくらいの人気を誇る。その次に深月や朔夜、遥希などの使役している魔獣達。そしてグンと下がって、俺の順だ。なので、俺に対しての聖地巡礼って、意味が分からん。

 まあ、そんなことはさておき、俺たち三人は建物内に入った。特別講習の依頼を受けたのは俺一人なのだが、りんと智子が見学したいと言ったので、成生先生に許可を貰って、三人でやって来たのだ。

 本当は悠里も誘ったのだが、断られた。理由は新生DSLの初回配信の打ち合わせが今日なので、そっちに行ったのだ。

『リスナーさんに心配と迷惑をかけたからね、生まれ変わったDSLの最初に配信だし、気合い入れないと!』とは、悠里の談。因みに、ウージー役が誰になったかは悠里には教えてない。知ってるのは工藤さんだけだ。何故教えなかったと言うと、ただのサプライズ演出だ。現場で会ったらびっくりするだろうな。何せ神鳥だしな。

 そんな事を考えつつ、正面にある受付に向かった。何故受付カウンターに向かったかと言うと受付カウンターの前に誰も並んでいなかったからだ。誰に言ったら良いのか分からない、という理由もある。

 カウンターの前に着き、受付の職員さんに声をかけた。


「あのー、すみません」

「はい。入校希望ですか? ネット手続きは完了してますでしょうか? 完了してましたら、受付番号を提示して下さい。もしネット手続きをしてませんでしたら、そちらにあるPCで手続きが行えますので、ネット手続きを完了しましたら、表示されてる日時にまたお越しください」

「あ、いや、俺たち入校希望じゃなくてですね、」

「それでは、どの様なご用件でしょうか?」


 なんか雰囲気がガラッと変わったぞ。もしかして、面倒な輩が結構来るのかな。もしかして、俺の所為か?だったら、ちょっと申し訳ないな。


「えっとですね、武内秋次と言います。今日の特別講習の件で来たんですけど」

「武内・・・秋次・・・ああ、ゲスト講師の方ですか。大変失礼しました」

「いえいえ、迷惑な人が多く来るんでしょうし、仕方ないですよ」

「ホントですよ・・・。やれ雪さんに会わせろとか、まおーの事を教えてくれとか・・・迷惑甚だしいですよ」

「・・・なんか、自分の所為ですみません・・・」

「まあ、有名人を輩出すればこうなるのも仕方ないんですけどねぇ。それはそうと、今、担当の者を呼びましたので、少々お待ちください」


 ホント申し訳ないな。配信で注意しないとダメだな。この後の講習は配信だし、講習を始める前に注意しておこう。こういう困った人って、何処にでもいるんだな。好きな物に熱中するのも分かるけど、他人に迷惑をかけないで欲しい。じゃないと自分で自分の首を絞める結果になるんだから、自覚して欲しいもんだ。


「お待たせ、武内くん。小野寺さんに折井さんも、よく来てくれたわね」

『お邪魔します』


 あれ? 今日は配信の打ち合わせをやってるはずなんだけど、なんで成生先生はここに居るんだ? 打ち合わせに参加しないのかな? そう思って聞いてみると、仕事が終わってから参加する、との返事が返って来た。まあ、社会人だし、そうそう好き勝手には休めないよな。だから工藤さんも、定期的に配信を続けるのが大変だって言ってたんだもんな。


「それじゃあ、向こうの部屋で打ち合わせをしましょう。着いて来て」

「はい」


 四人で応接室に向かう。この学校では、偶にゲスト講師を招いて講義をするそうだ。去年も来たらしいが、俺達が在学中では無かったらしい。そして、その際はこの部屋で打ち合わせをするらしい。

 今までのゲスト講師を見てみると、富士山ダンジョンの二十階層に到達した探索者や、斥候歴三十年のベテランさん等、錚々たる顔触れだ。

 見ていると、その中に宮藤遥香って名前もあった。どっかで聞いたことある名前だな。宮藤って、亜香里ちゃんの苗字だよな。まさかと思い確認したら、やっぱり亜香里ちゃんのお母さんだった。そしてその隣に、折井涼太、富田友美の名前もあった。これってもしかしてチームとしてゲスト講師に招かれたのかな。


「お父さんとお母さんも来てたんだ」

「なんか私達って、不思議な縁を感じるね」

「前世で、何か繋がってるのかな」

『ごめん、それは無いかな』


 速攻で否定されてしまった。ちょっとショック。でも、今が良好な関係だから良いか。


「さ、座ってちょうだい。まずは、依頼を受けてくれてありがとう。早速質問なんだけど良いかしら?」

「ええ、良いですよ」

「あなた達の動画配信を見たけど、真眼って何? 覚醒者って?」


 あー、それの質問か。確かに覚醒者なんて言葉は一部でしか知られてないもんな。真眼なんて、それこそ誰も知らなくて当然だ。今でこそ俺が持ってるから、俺のCH内では普通に言ってるけど、そうで無かったら誰も知らない能力だ。


「あー、まず覚醒者なんですけど、これは能力の一部が人並み外れた、それこそ常識では考えられない能力を得た人の事です。動画を見たなら分かると思いますけど、智子が魔法の覚醒者で、りんが動体視力の覚醒者です」

「なるほどねぇ。て事は、無闇矢鱈に吹聴するのもダメね。うん、分かった」

「そして、真眼なんですが、桃花が言うには『全てを見通す眼』だそうです」

「全てを見通す眼って、なんか凄くない? 聞いた事ないけど、今までに持ってる人って居るの?」

「今まで持ってる人は、誰も居ないそうです。上位精霊、それこそ神様など位しか持ってない眼だそうです」

「あー、神様か・・・。なるほどねぇ。武内くんが持ってても不思議じゃないわね。うん、納得した」

「え!?」


 納得しちゃうんだ。ヤタさんや神様達でさえ分からなかったのに、成生先生は納得しちゃうんだ。俺自身、この能力の由来が分からないんだけど。でも、コレがあったからこそ、今まで死なずに済んだんだし、既にあって当たり前の存在になっていた。改めて確認されて、またちょっと気になった。ホント、なんで俺が持ってるんだろうな。


「そうそう、八月から探索者のシステムが少し変わるのよ」

「へぇ。どんなふうに変わるんですか?」

「各人のそれぞれの能力をランクで表すのよ。例えば、『力 A』とかって感じかしら」

「何それ!? ラノベみたいに変な魔道具で調べるんですか!?」

「違うわよ。ちゃんと体力測定をして、その記録からランクを決めるのよ。一年に一回の更新になるらしいわね」

「何でそんな事をやるんですかー?」

「無茶な探索をやって怪我をする人が多いからよ。指標があれば今の実力が分かるでしょ」


 智子の疑問に、成生先生はそう答えた。確かに指標があれば、今の自分の実力が分かるし、ダンジョンに潜る際の目安にはなる。でもそれだけが理由なのかな。無茶する人なんて、昔からいたと思うけど。


「でも、なんか今更感が強いんですけど。無茶する人なんて、昔から居ましたよね?」

「今の政府は探索者の数を減らしたく無いし、寧ろ増やしたいのよ。年齢引き下げもその一環でね。でもやっぱり若いから無茶するのよ。なので、自分の実力を分からせる目的もあるわけ」

「なるほど」


 意外と真っ当な理由だったな。確かに自分の実力が分かれば、無茶な探索はしないだろう。それでも無茶する奴は出てくるだろうけど、そういう奴は、何をやっても無茶するような奴だからな。まあでも、これはこれで一定の効果はあるだろう。無茶する奴がいるとは言っても、極く一部だけだ。大多数の人は、自分の命が懸かってるから無茶はしないと思う。


「と言う訳でね、あなた達にこのシステムを試してもらいたいのよ」

「時間がかかるんですか?」

「一時間くらいって聞いてるわ」

「うーん、じゃあやってみますか」

「面白そうだし、私も良いよ」

「わたしもー」

「決まりね。じゃあ、探索免許証を預かるわね。あとは担当の人は来るから、その人の指示に従ってね。あと、講義だけど、午後からの予定だから」

『分かりました』 


 こうして、俺たちは新システム導入に先駆けて、試験的に運用してみることにした。

 担当の人がやって来て、運動着に着替えて運動場にやって来た。ここで体力測定をするらしい。因みに、身体測定はやらないそうだ。カードに記載される情報は身体能力であって、身長や体重、サイズなどは記載されないから、測定はしないそうだ。


「それでは身体能力測定を始めます。まずは・・」


 身体能力は、体力(持久力)、力、速さ、瞬発力、魔力、判断力、動体視力、の七項目を測定するそうだ。今回は七項目だが、今後増えるかもしれないし減るかもしれないとの事。表示方法は、具体的な数字は明記されずアルファベットに+や-が付く表示方法らしい。例えば『体力 B+』と言う感じだ。そしてランクはA〜Eで表され、平均値をCとして上がA、下がEとなる。

 既に各学校で、卒業生や在学生相手に無作為に選ばれた人が測定し、全国的にデータが揃いつつあるらしい。ただし、指標となる上位のデータだけは政府が用意したそうだ。

 まあ、上位の指標が判らないとAランク付けなんて難しいもんな。

 

 早速、測定して行く。一項目測る度に五分休憩し、次の項目を測って行った。こうして三人で七項目測り終えた。時間は大体一時間かからない位だ。


「ご苦労様でした。一時間くらいで免許証の書き換えが終わります。出来上がったら持って来ますので、休憩してお待ち下さい」

『分かりました』


 三人で、休憩室に移動した。一年前なんだが、妙に懐かしい。ある意味ここから始まったんだからな。りんへの説教や、神鳥を含めた六人で、自己紹介したのもここだったな。なんか、ホント色々懐かしい・・・。


「ここでアキに説教されたんだよね・・・。まだ一年しか経ってないのに、なんか懐かしいな」

「俺もそう。全てはここから始まったんだなって思うと、なんか、ね」

「わたしは側から見てて、面白いことになってるなー、って感じだったなぁ。まさか、自分が当事者になるとは思ってなかったけど」

「ホント、去年は色々あったねぇ」


 今思い返してみても、本当に、濃い三週間だったな。見知らぬ女の子にいきなりキレられて、説教したら懐かれてそのまま付き合い始めて、その後、女の子の元彼を処理して、出て来た銀狼と戦って、その銀狼を使役する。本っ当に怒涛の三週間だな。ここが人生の転換期って言っても、過言じゃないな。真眼が初めて発動したのも、この時だし。

 在学生が訓練をしてる校庭を眺めながら、そんな事を考えていた。そんな俺の横で、りんと智子はワイワイキャアキャアお喋りをしていた。そして一時間後。


「お待たせー。三人とも出来たわよ。はい、探索免許を返すわね。受け取ったら確認してみて」

『はい』


 成生先生から免許証を受け取り、確認してみると裏に表記されてる項目が増えていた。俺の評価はこんな感じだった。


【武内 秋次】

体力   D

力    D+

速さ   D

瞬発力  C-

魔力   B-

判断力  B

動体視力 B-


 だった。なんか、ほぼ平均以下。何の特色もない身体能力だな。まあ、高校の時から、運動はそんなに得意じゃなかったから、妥当と言えば妥当なんだけど、これは下手するとみんなに呆れられるか、引かれたりするかもしれない。なんか、見せるのが怖くなって来た。


「ねーねー、アキ。どうだった? 私、思ったより良かったよ」

「アキくんのは凄いんじゃない? オールAとか」


 智子やめて! ハードル上げないで! ド平均で、ちょっと困惑してるんだから。こんなの見せたら、マジで引かれるかも。いや、それより愛想尽かされるかも。これは何とか誤魔化さな「もーらい!」あ・・・!


「へぇ・・・」

「どうしたの? りん」

「これ見て」

「どれどれ?・・・ふ〜ん・・」


 ああ、見られてしまった・・・。絶対呆れてるよな。こんなに弱かったの? なんて思われてるかも・・・。俺捨てられちゃうのかな。なんか、涙が出て来そう。


「私、思ったよりランクが高くなくて安心したけど、逆にあの強さの意味が分からなくなった・・・」

「だよねー・・。さっきは冗談でオールAなんて言ったけど、意外と高くなくて安心したんだけど・・・。アキくん。このランクで、何であんなに強いの?」


 ん? 思ってた反応と違うな。こんなに弱い彼氏なんて要らないとか言われるかも、って不安だったけど。考え過ぎだったのかな?


「・・二人とも呆れてたんじゃないの? 思ったより低すぎるーって」

「何言ってんのよ。呆れる訳ないでしょうに。逆にホッとしたよ、私は」

「うんうん。飛び抜けてランクが高かったらー、ちょっと不安だったかも。わたし達、捨てられちゃうんじゃないかって」

「三人して同じ不安を抱えてたのか・・・ははは・・どこまでも似たもの同士なんだな、俺たちって」

『本当にね』


 因みに、それぞれのランクは、


【小野寺 りん】

体力   C-

力    D

速さ   C+

瞬発力  A-

魔力   D

判断力  D+

動体視力 A+++


【折井 智子】

体力   D+

力    D-

速さ   C

瞬発力  D

魔力   A++

判断力  A-

動体視力 B


「こうやって見ると、やっぱり、りんと智子は俺より強いな」

「そうかなぁ・・・?」

「そうだよ。りんの動体視力と瞬発力、智子の魔力と判断力。その時点で俺なんか勝てないでしょ」

「でも、アキくんに真眼を使われたら、私なんか手も足も出ないよ。魔法だけじゃなくて、ライフル銃の魔力の流れも見えるんでしょ? そうなったら、どうしようも無いもん」

「私もそうだなぁ。アキに接近されたら一撃でやられる未来しか見えない。いくら動体視力が良くても密着されたら、意味無いし」

「それに、アキくんって切り札持ってるでしょ。デバフ。アレやられたら、このランクも一つ〜三つ位下げられるでしょ」


 あー、デバフか。確かに普通にかけたらその位は下がるだろうな。まあ、ブーストかけて本気でかければ、生命活動も停止させることも出来るけど、これは内緒だ。


「うーん・・・。そう考えると、このランクって意味あるのかな・・・?」

「ハァ・・・あんた達・・自分が特殊な部類って自覚してる? 小野寺さんの動体視力って、本当は測定不能なのよ? 折井さんの魔力だって、何とか測れたんだから。改めて覚醒者の凄さを実感させられたわよ。それと、武内くんの真眼なんてチート以外何物でも無いからね。そこの所を自覚しなさい!」

『は、はい!』


 俺がランク付けの意味合いを呟いたら、成生先生に呆れ気味に説教をされてしまった。美人がマジで怒ると、五割増で怖かった。

 

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