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配信始めました   作者: ばっつ
第三章 夏休み
93/152

第93話 葉山ダンジョンコラボ⑭ 悠里の決断

 魔獣の相手はウィズと遥希に任せて、他のメンバーはのんびり降って行った。

そして、悠里はりんと智子とお喋りしながら降っていた。なんの話をしてるのかなと思って、聞き耳を立てていたら、


(えー、悠里の初体験って、そんな感じだったんだー)

(そうなのよー。もう自分本位のエッチなんだもん。感動も何もないよねー)

(そりゃ、ショックだったねー)

(りんと智子はどうだったの?)

(私達の初体験はアキだったんだよ)

(アキくんはね、すごく丁寧で優しいの。だから初めてでも、すごく良かったよ)

(良いなぁ。りんと智子が羨ましい)

(何言ってんの。今度からそれに悠里も加わるんだよ)

(そっか。そういえばそうだった。ふふ、なんか楽しみが増えたな)

(今度、わたしと悠里とりんとアキくんの四人で行っちゃう?)

(そ、それは考えさせて、智子・・)


 俺は聞こえないフリをして、顔を右手で覆っていた。

 一体、何を喋ってんの? 女子トークって、ある意味怖い。

 今度は、そこに成生先生と本栖さんも加わって、更なる女子トークが繰り広げられていた。

 成生先生は「わたしもそろそろ彼氏欲しい」と愚痴ったかと思えば、本栖さんが「実はプロポーズ待ちなの」と惚気ていた。それをモン娘達が興味津々に聞いていた。さっきのりん達の話も聞いていたらしく、桃花と聖夏がチラチラと俺を見ていたかと思えば、雪は雪で顔を真っ赤にしていた。雪にはまだ早い話だったか。知能指数が中学二年だもんな、雪は。見た目は小学生だけど。

 盗み聞きするつもりは全くないけど、トークに熱が入って来たからか、声も大きくなっているので自然と耳に入ってしまう。俺と工藤さんはお互いに顔を見合わせて苦笑いをするしか無かった。


 そんな微妙に気まずい空気の中、俺たちは四合目に到着した。ここから先は、少し注意しなければならない。本荘がいるかもしれないからな。


「工藤さん・・」

「ああ。分かってる・・。よし! ここから少し警戒して行くぞ!」

『了解!』

『は、はい!・・?』


 モン娘達は状況を理解してるから、しっかり返事をしたが、人間組は、返事をしたものの、今更一体何に警戒するのか、といった疑問も浮かんでいた。まあ、俺たちも説明してなかったからな。可能性があるってだけで、まだ確定はしてないから説明してなかったんだが、ここに至っては、流石に説明しなきゃダメだろう。そう思っていたら、悠里が質問をして来た。

 

「あの、なんで警戒するんですか?」

「本荘が待ち伏せしている可能性があるからだ」

「え・・・・」

「悠里のストーカーみたいな奴が、あんな事で諦めるはずがない。四合目で鬼、星央様に出会った時、逃げるとしたら奥よりも出口方面だろう。だから四合目から出入り口の間のどこかにいるかもしれないって、工藤さんと話してたんだ」

「なるほどね。それはあり得るかも。チェスク商会も一階層の出入り口付近で待ち伏せしてたし」

「出入り口は必ず通るからねー。待ち伏せるなら最適かもねー」

『・・・・・・』


 流石にりんと智子は直ぐに理解してくれたが、悠里と成生先生と本栖さんは、待ち伏せの可能性の事は聞いていたが、でも「まさか」と思っていた様だ。しかし、何度も人の悪意を受けた俺達がこのコラボ中で一番警戒しているのを見て、待ち伏せの可能性が本当にあると思い直した三人も、改めて警戒し始めた。何も起きないのが一番ではあるが、もし何かが起きて、それが油断をしていた場合、どんなに実力差があっても苦戦、または負ける事も多々ある。なので、油断は禁物なのだ。

 そして、魔獣よりも人間の方が遥かに狡猾でヤバい相手だ。忌避感が有るのは言わずもがな、笑顔で近づいて来て実は・・とか、姿を消して魔道具を使うとか、色々搦手を使ってくるのが人間だ。なので、人間相手と分かった時点で、警戒心を最大にする必要がある。


「ラヴィ。最大限の集中での索敵を頼む。対象はさっき言った奴だ。朔夜も空から頼む。そして深月はラヴィの護衛だ。リリーと葉月とアクアはそれぞれの主の護衛」

「ガウッ!(キュイ!)」

「あとは、悠里、ハイこれ」

「これ、秋次のメイン武器でしょ。良いの?」

「本荘が狙うとしたら、俺か悠里だからな。だから亀真丸を貸すんだ。玄武、頼んだぞ」

(おう! 任せろ!)

「え??? 頭の中に声が・・」

「そいつが玄武だから」

「最初はびっくりするよねぇ。私もアキに借りた時びっくりしたもん」


 亀真丸を悠里に渡し、俺は手甲を締め直した。そして、狐の面はしてないが、いざという時の為に、魔力の尻尾は借りたままにしてある。

 現れる魔獣は遥希とウィズに任せて、残りの人員は周囲を警戒しながら降って行った。


 魔獣の襲撃はあるが、それらは全て遥希とウィズが蹴散らしていき、何も起きないまま三合目、二合目と降って行った。

 そして、一合目に到着。エリアに足を踏み入れ、ラヴィに索敵をしてもらった。結果をラヴィに聞くと、特に何もないと返事が返って来た。朔夜にも確認をしたが、異常なしとの返事か帰って来た。だが、油断は禁物。そのまま警戒しながら出入り口を目指して行った。

 そして、出入り口まで百メートルを切った辺りでラヴィから念話が来た。


(アキ様、悪意を持った人間が数人、出口辺りにいます。その中の一人が目的の人間です)

「(うん、分かった)ラヴィが本荘を見つけました。出口付近にいます。ただし、悪意を持ってる人間が複数人いるそうです」

「そうか・・・。やっぱりアキさんの言う通りか。みんな、戦闘準備を」

『はい!』


 工藤さんの号令で、みんな戦闘の準備を始め武具、アイテム、体調を確認し、最後に深呼吸だ。正しい深呼吸のやり方は、鼻から大きく息を吸い、口からゆっくり吐き出す。これを数回繰り返して、気持ちを落ち着かせる。気持ちが昂っていれば、冷静な判断をし辛いし、緊張しすぎると、体が萎縮して思った通りに動けない。なので、深呼吸して、落ち着かせるのは必須なのだ。


 そうして気持ちを落ち着かせて出口に近づいていく。

 だが、いくら深呼吸で気持ちを落ち着かせても、対人戦を経験してなければ、近づくほどに緊張するのだろう。悠里と成生先生と本栖さんは次第に顔を強張らせている。


「三人は後ろに下がってください」

「待って、わたしも戦う」

「今の状態じゃ、逆に危険です。りん、智子。頼むな」

『任せて』


 この状態はまずいと判断した俺は、三人を後ろに下がらせた。だが、成生先生が、自分も戦うと言って来たので、そんな状態で前線は危険です、と言い、後ろに下がってもらった。そして、護衛として更にりんと智子を加え、前線に俺と工藤さんとウィズ達を配置した。


《東京タワーダンジョンを思い出すな》

《あの時も対人戦で、緊張感が半端なかったもんな》

《二階層と出口の所な》

《見守り隊に質問。何があったんですか?》

《簡単に言うと、ダンジョン内で女性を襲ったり、男を殺して臓器密売をしていた犯人との戦闘。そして、チェスク商会との戦闘、かな》

《・・・ハード過ぎる・・・》


 出口まであと十メートルとなった時、前方から声をかけてくる人がいた。


「悠里、無事だったか! 心配したんだぞ!」


 声をかけて来た人物は、本荘だった。そして本荘の周りには、薄ら笑いをした男達数人が居た。数えてみたら、本荘を含めて十三人だ。

 本荘は悠里に声を掛けた後、俺に向き直り、血走った目で睨んできた。


「お前が居たから・・お前の所為でこうなったんだ!! 悠里、怖かっただろう? 今、あいつを殺して助けてやるからな」

「あ、あいつは!・・・・わ、悪い、浩太。俺抜けるわ!」

「お、俺も抜けさせてもらう!」

「なんだよ。今更怖気付いたのかよ」

「男を殺せば、残った女を好きに出来るって言うから来てみれば・・・あいつはヤバすぎる。俺はまだ死にたくない!」

「お前ら、鈴木と斉藤の件を知らないのかよ!」

「けっ、臆病者は帰りな。その方が分け前が増えるってもんだからなぁ。へへへ」


 鈴木と斉藤だと・・・? コイツらまさか・・・。


「あー、あなた達に質問があります。答えないうちに逃げたら、殺します。鈴木と斉藤と言いましたが、それは鈴木朗と斎藤純の事ですか? そしてその二人と仲間なんですか?」


 俺は狐の面を被り、抑揚のない声で問いただした。殺気を込めようと思ったが、それは止めておいた。俺を侮ってるうちは、ある程度喋ってくれると思ったからだ。もし、想像通りなら、コイツらに苦しめられた人が沢山いるはずだ。なので、返答次第ではタダでは済ませない。


「ち、違う! 仲間なんかじゃない!!」

「しし、知ってるだけだ。だから殺さないでくれ!」

「何言ってんだ、お前ら。散々おこぼれを貰ってただろうが」

「う、うるさい!! 黙ってろ!! 頼む! 命だけは助けてくれ!!」

「これだけ人数はいるんだ。何とでもなるだろう。覚悟しな、ガキ」


 確定だな、全員仲間か。


「そうですか。全員仲間なんですね。分かりました。全員殺・・」

「待ってアキ!! 指示がないうちはダメ!」

「・・・行動不能にします」


 俺は二人の名前を聞いた瞬間、激昂寸前まで行ったが、りんの一言で冷静になれた。確かに、指示が無いうちは処分はダメだ。しかも、本栖さんは警察官だ。その目の前で勝手に処分しては流石にまずい。手足を狙って、行動不能にするに留めた方が得策だ。そう思い、俺はデバフの準備を始めた。使う属性は、木属性だ。

 人間は基本的に土属性だ。なので木属性を使うと効果が高い。俺はいつでも発動出来るように、奴らの周囲に木属性魔力を展開しておいた。ただし、気が付かれない程度でだ。これは所謂マジックシードと同じ原理で、種さえ準備しておけば、あとは魔力を注ぐだけで終わるというやつだ。


「工藤さんは下がってください。そして遥希とウィズも下がれ。お前達は強過ぎるから、下手したら殺してしまう。なので、俺が行く。智子、桃花。援護を頼む」

『了解!』

「アキさん、危険だ! 俺も戦う!」

「工藤さん。対人戦は慣れてないと危険です。それに殺す覚悟がないと、逆に殺されますよ。あいつらは殺すことに躊躇が無いですから」

「っ・・・・・・・分かった・・」

「行くぞ。木乗土。超強木属性展開。圧縮、浸透」


 俺は奴ら全員に強力なでデバフをかけた。魔力増幅の尻尾と集中力増加の面を被った状態でのデバフだ。並の人間では力が入らず、その場に崩れ落ちるしか無い。

 見ると、殆どがその場に蹲っていた。かろうじて片膝で済んでるのは二人しかいない。


《まおー、更にエグくなってないか?》

《能力を下げるどころか、全く動けなくしてるじゃ無いか》

《まおーには人数は関係ないってか・・・》

「な・・・ア、アキさん、一体何をやったんだ・・!?」

「全員を一度に行動不能にするなんて・・・」

「アキくん、デバフに磨きがかかったね」

「尻尾と面があるからだよ。さて・・」


 俺は蹲ってる奴に近づいて、脚に短刀を突き刺して行った。


「ッ!・・・」

「アキさん! 止めなさい! 何をやってるの!」


 悠里は、思った以上の凄惨さだったのだろう、目を瞑って顔を背けた。そして本栖さんが俺を非難するように叫んだ。

 しかし、俺はそれを無視して、次々に脚に突き刺して行って蹲ってる十一人を逃げられないようにして行った。片膝の二人は反撃の恐れがあるため、後回しにしている。


「本栖さん、甘いです。処分しなきゃならない闇が、世の中に実際にあるという事を覚えておいてください。そして悠里。軽蔑するかもしれないけど、これも俺なんだ。ごめんな」

「・・・・・」

「りんちゃん、智子ちゃん。アキさんを止めて。自分の彼氏が犯罪者になってもいいの?」

「覚悟の上ですよ。私はアキがそうするなら、支えるだけです。そうするだけの理由があるって事ですから」

「わたしもですよ。アキくんがやらなかったら、わたしが代わる。それ位の覚悟は持ってます。じゃなかったら、こっちが死にますから」

「あなた達、それで良いの? ご家族の方だって・・」

「私の家族は、それを知った上で応援してます」

「わたしの両親も元探索者だから、アキくんの理解者です」

「私達は、そういう考えになる位の事件に巻き込まれてますから」

「っ!!・・・チェスク商会事件・・・ね・・」


 本栖さんは顔を顰めながら呟いた。神鳥から聞いたのだが、あの事件は現場に近い警察官ほど苦々しく思ってるらしい。なぜかと言えば、チェスク商会が警察に圧力をかけて、現場の警察官を動けなくしていたからだそうだ。

 その話を聞いて、俺は納得した。あの時、なぜ警察が来なかったのか不思議だったのだ。家の近所の人が言うには、警察に電話をしたのに一向に来なかったらしい。警察への電話は一つや二つでは無い。数十件立て続けになったらしいのだ。それでも来なかったのだ。明らかにおかしい。でも、理由を聞いて納得した。

 それにしても、警察に圧力をかける方もかける方だが、その圧力に屈する警察も警察だ。呆れて開いた口が塞がらない。振り回される現場の警察官はたまったものじゃ無いと思う。

 もしかしたら、本栖さんもその一人なのかもしれない。その証拠の、本栖さんが俺たちに頭を下げて来た。


「あの時はごめんなさい! 警察がもっとしっかりしていれば・・・本当にごめんなさい!」

「本栖さんが謝る事じゃ無いですよ。本栖さんだって大変な思いをしてるはずですから。悪いのは商会なんですから」

「でも・・・」

「あの事件のおかげで、変な奴が寄って来なくなったから、結果オーライですよ。まあ・・・目の前のような奴がたまに来ますけどね・・・」


 今度は殺気を込めて奴らを睨んだ。


「ひ、ひいぃぃぃ!! た、助けてくれ!!! 頼む!!」

「聞きますけど、そうやって命乞いした人を助けましたか? 助けて無いですよね。あなたの側に見えますよ。憎々しげに睨んでる人が。それも沢山。本当は直ぐにでも処分したいんですよ。沢山の人の無念を晴らすために。でも、事情があって出来ない。残念だ」


 そろそろデバフの効果が切れる頃だ。十一人は逃げられなくしてあるが、残り二人は動き出している。そのうちの一人が本荘なのだ。

 本荘は、変わらずに血走った目で俺を睨んでいた。まともな精神状態かどうかも、怪しく思える。そして、やっとの思いで立ち上がった本荘が、俺に向かって叫んだ。


「こ、この人殺し野郎! 悠里、こんな人殺しの奴の所にいちゃいけない。こっちに来い」

「・・・・・・」


 悠里は悩んでいた。俺か本荘かでは無い。俺に着いて行くか、行かないかだ。本荘の事は初めから選択肢に入って無かったようだ。さっきの惨劇でもしかしたら軽蔑されたかもしれない。もしそうなら、仕方がない。


「さっきも言ったが、俺はもう手放したく無い。けど、決めるのは悠里自身だ。悠里が決めた事なら、俺はそれに従う」

「・・・・・・・」


 散々悩んだ悠里が、俺のそばに来て質問をして来た。その顔には強い意志を感じた。多分、確認なんだろうな。でも、俺は何を聞かれても、嘘偽りなく答えると決めていた。


「ねえ秋次。人を殺める時ってどんな気分? もしかして、何も感じない?」

「そんな訳ないだろう。今でも夢に見るし、夢の中で散々誹謗中傷受けてるよ」

「アキ、今でもうなされてる時あるよね」

「殺さなくて良いならそれに越した事はない。が、世の中そうも言ってられない時がある。それだけだよ」

「そっか・・・」


 悠里は俺のそばに立ち、本荘に向かって宣言した。


「わたしは秋次を支える。高校の時から想い、一時離れたけど、またこうして再開出来た。私は、秋次と共に歩む」

「ありがとう、悠里」


 悠里は、俺に着いて行く決断をした。大変な道になるかもしれないけど、俺は全力で守る決意を固めた。


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