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配信始めました 〜ダンジョン編〜  作者: ばっつ
第三章 夏休み
91/128

第91話 葉山ダンジョンコラボ⑫ 木の下さんの正体とアキの過去

「みんな、忘れ物は無いか?」

「大丈夫だよー」

「じゃあ、帰るぞー」

『おー!』

《安定の遠足感》

《やっぱりこれを見ないと、終わった感がないよねー》


 装備品やアイテムをチェックし、忘れ物がない事を認識したので、俺たちはボスエリアを出た。

 目指す出口は、今回入って来た入り口だ。これは工藤さん達と話し合って決めた事だ。

 当初は、面倒事を避ける為に別の出入り口を目指すか、と言う案も出たが、


「いつまでも、本荘さんに振り回されたくないし、ここできっちり引導を渡す」


 と言う、木の下さんの意見が通り、来た道を戻る事になった。

 帰りは、行きの時の様に交互に探索するスタイルではなく、一緒に降って行った。そして、今回仲間になったこのダンジョンのボスであるオスの熊は『遥希はるき』と名付けた。帰りは遥希とウィズに好きに暴れてもらった。これは二人の実力を見るためでもある。それ以外のメンバーはのんびり雑談しながら降っている。


「今回、アキさん達とコラボして思ったけどけど、アキさん達にコラボ要請が来ない理由がわかった気がする」

「それ私も思った。得るものも大きいけど、それを得る為が大変過ぎるわね」

「私は、自分の教え子がこんなに強くなったのが、ちょっと嬉しいかな」

「武内くんって、昔から変わらないよね。面倒見の良さとか」


 なんか、聞き捨てならない事が聞こえてきたぞ。昔から? 木の下さんって、やっぱり俺の事を知ってるっぽいな。どこで会ったんだ? いくら考えても分からない。ここは素直に聞くのが一番だな。


「木下さん。ちょっと良いかな」

「なに?」

「木の下さんって、昔から俺の事知ってるの?」


 一瞬、木の下さんの顔に呆れる表情が現れた。でも、すぐにその表情が消え、今度は納得してる様な表情が現れた。この表情は一体何? 魔力を視ても表情と同じ感情しか出てこない。


「はぁ・・しょうがないなぁ、武内くんは。ヒント。同じ高校出身だよ」

「え? え? 俺、高校の時なんて、全然目立ってなかったけど・・」

「ヒントそのニ。高校の時、夜まで一緒に語り合ったよね」


 !!!! この人何つーこと言ってんだ! そんなの知らないぞ! あああ・・隣の二人の殺気がどんどん大きくなっていく・・。全くの誤解なのに、早く誤解を解かないと!


「あ、あのね、りんに智子・・」

「・・・ねえ、アキ。昔の事だから、その時に彼女がいようがいまいが、どっちでも良いけど・・・今まで彼女いた事ないって言ってたよね・・・あれは嘘だったの?」

「い、いや、嘘んね! 嘘あて()てねって! 正真正銘、初カノはりんで間違(まぢが)てね!!」

「じゃあ、木の下さんが嘘をついてると?」

「私も嘘は言ってないですよ。ふふふ、ヒントその三。告白のアドバイスをくれたよね」

《あー、なるほど。そう言う事か》

《俺らの先輩じゃん》

「あー・・なるほど。そう言うことねー」


 見守り隊はなんか分かったらしい。なんで分かったの? りんと智子もなんか、察しがついた顔をしてる。え? 分かってないの、俺だけ? 一体誰? さっぱり記憶に無いんだけど。うーん・・告白のアドバイス?? 確かに高校の時は、神鳥目当ての女子に言い寄られてたけど・・さらに、告白のアドバイスとかもしてたけど・・・。

 それだけじゃ、分からないなぁ・・・。でも、一つだけわかった事がある。それは・・・


「もしかして・・・見守り隊・・・?」

「正解〜」


 〜四年前〜


「武内くん。ちょっと良いかな」

「武内くん、話があるんだけど」


 高校に入学して最初に出来た友達、名前は神鳥俊希。凄くイケメンで性格もイケメンなやつだ。席が隣だったのと、話してみて気が合ったというのもあり、すぐに友達になった。そしてよく遊ぶ様になり、教室でも一緒に居る事が多くなっていた。

 そんな感じで二ヶ月が過ぎた頃、女子に話しかけられる事が多くなった。別に俺がモテてる訳では無い。全員が神鳥目当てなのだ。将を射んと欲すればなんとやら、の諺通り、神鳥狙いの女子が、まず、俺に声をかけて来たのだ。

 最初の頃は、そのまま神鳥に取り継いだが、ある時、神取が俺に苦言を呈して来た。


「シュウ、もう取り継がなくていいぞ。全く・・俺に声を掛けたかったら、直接言ってくれればいいのに、シュウを利用するなんて、少し呆れるよ。悪かったな、今まで迷惑を掛けて」

「別に迷惑じゃ無いけど、うん、分かった。悪かったね、今まで取り次いで」

「シュウが謝ることじゃ無いよ」


 こんなやり取りがあった次の日、隣のクラスの女子が声を掛けて来た。名前は『篠原 悠里』だ。なんか、話があるらしく声を掛けた様だ。要件は何となく察しが付いたので、廊下で話すのも何だし、屋上へ移動した。

 この学校は屋上が開放されており、休み時間となると、屋上にやってくる生徒が結構いる。ただし、何かがあっては学校側が困るので、監視カメラ付きではあるが。

 しかし屋上の開放感は気持ちが良いので、監視カメラがあろうと、結構賑わっていた。

 声を掛けて来た理由を聞くと、予想通りこの子の目当ても神鳥だった様で、俺に神鳥への取り継ぎを頼んできた。昨日の件もあるし、この子が嫌われるのも可哀想だし、やんわりと断るか。


「ごめんね。もう神鳥への取り継ぎはやってないんだ。あいつに注意されちゃってね」

「え・・・? そ、そうなんだ・・・」


 なんか、この子すごいショックを受けてるな。なんか可哀想になって来たな・・・。なんとか力になれないかな。でも、取り継ぎは出来ないし。


「あー、あいつ、周囲の人間を利用して近づく人は気に入らないらしいけど、直接言ってくる人に対しては、好き嫌いは兎も角、印象は悪く無いみたいだから、直接声を掛けてみたらどうかな」

「でも・・・直接声を掛ける勇気が無い・・」

「大丈夫、さっきも言ったけど、あいつは直接声を掛けてくる相手に対しては、凄く丁寧に対応するから。酷く傷つけられる事は無いと思うし、もし酷いこと言って来たら、俺が注意しとくから。っと、あー、そろそろ時間か。なんかあったら、また声を掛けてよ。いつでも相談に乗るから」

「うん、分かった。じゃあ、連絡先交換しよ。はいこれ。私のツナメーの連絡先」

「ああ、ありがとう。じゃあこれ、俺のやつ。んじゃ、なんかあったら連絡ちょうだいね」


 教室に戻り席に座ると、早速神鳥が揶揄ってきたが、俺は適当に誤魔化した。まさか、おまえに関する事だよ、とは言えない。これは神鳥に知られてはいけないのだ。


 夜ご飯を終え、風呂上がりにのんびりしていると、ツナメーがなった。篠原さんからだった。


〈夜にごめんね〉

〈全然構わないよ。 何?〉

〈えっとね、相談に乗ってもらいたくて〉

〈あー、学校で話した事の相談ね。うん良いよ〉

〈えっとね。やっぱり 直接って 凄く緊張するの

 それでね 何とか緊張しない方法は無いかなって〉

〈緊張しない方法かー。そうだな・・・まず、何で緊張するか、考えてみる?〉

〈緊張する理由? うーん・・・〉

〈ゆっくり考えて良いよ。急いだって仕方ないから〉


 返事が来なくなったな。既読は付いてるから、見てない訳じゃ無いけど。考えてるのかな? 俺も今のうちに、色々考えておくかな。

 お、来た来た。


〈色々考えたんだけど やっぱりフラれたらと思うと怖い ってのが一番かな〉

〈あー、確かにそう思うと怖いよね 俺もそうだったから 分かるわー〉

〈武内くん 告白したことあるの?〉

〈中学の時にね 勇気を出して告白したら フラれた

 フラれた理由がさ フツメンには用は無い だって

 それ聞いて 一気に冷めた

 なんでこんなやつに告白したんだろう? って〉

〈うわぁ・・酷い言い方するね、その人〉

〈一応、明るくてみんなに優しいってキャラだったんだけどねー 中身がそんなんだって知ったら どうでも良くなった〉

〈その人は今どうしてるのかな?〉

〈さぁ? 少なくとも高校は違うし、どうでも良いし〉

〈元気出してね〉

〈ありがとう 優しいね 篠原さんは

 って 違う! 俺が相談されてるのに なんで俺が慰められてるの?〉

〈あははは 武内くんって面白いね なんか 話してて元気が出てくるよ〉

〈元気になったなら良いや 

 まあ 少なくとも神鳥は そんな女とは違って 真摯に対応するはずだから

 なんだったら 陰から見守ってるよ〉

〈うん ありがとう その時になったら 連絡するから お願いね〉

〈おk〉

〈ところで さっきやってたバラエティなんだけど・・〉


 その後は雑談をしていて、気がつけば一時を過ぎていた。流石に話し過ぎたと思い、ツナメーを切ってその日は寝た。


 次の日の夜、篠原さんからツナメーが来た。


〈今度の土曜日に 神鳥くんに告白する事にした〉

〈土曜日って事は 明後日か。うん、頑張って 応援してるよ〉

〈うん 頑張る もしダメでも 友達でいてくれるよね?〉

〈俺? 当然でしょ 神鳥にも言ったら? あいつは断らないと思うよ〉

〈うん ダメだったら言ってみる〉

〈頑張れ!〉

〈ありがとう 頑張る!!〉



 そして土曜日。この日は休校じゃなく、午前中は学校だ。篠原さんは放課後に告白するつもりだ。

 そして放課後。


「シュウ、帰りにカラオケでも行かないか?」

「良いよ。ちょっと待って。今片付けるから」


 二人で教室を出ると、篠原さんが声をかけて来た。


「ああ、あの。神鳥くん。えっと、その、は、話があるんだけど、ちょっと良いかな」

「え、ああ、良いよ」

「あ、じゃあ、俺は教室で待ってるわ」

「いや、武内くんも居て。見届け人として・・」

「(俺も!? 良いのかな。でもその方が勇気が出るなら良いか)うん、良いよ」


 廊下で告白するのも何だし、三人で別の場所に移動した。なるべく人の来ない所と思ったけど、そんな場所は思い付かないので、屋上の隅の方がいいんじゃないか、と言う事でそちらに移動。

 さあ、準備は整ったぞ。頑張れ! 篠原さん! 俺は空気に徹します。


「ああ、あ、あの・・・神鳥くん! 好きです! 付き合ってください・・!」

「・・・ごめんなさい。俺、為人が分からない人とは、誰であっても付き合わない事にしてるんだ。あ、勘違いしないで欲しいんだけど、別に嫌いって訳じゃ無いんだ。ただ、俺にも色々あってね・・・ごめんね」

「・・・うん。分かった。ごめんね、変なこと言っちゃって」


 ああ、ダメだったか・・・。心の中では応援してたんだけどな。二人とも良い人だし、お似合いかと思ったんだけど、神鳥には神鳥の考えがあるって事か。こればかりは仕方ないか。

 でも篠原さん、良い顔をしてるよ。勇気を出して行動した結果だから、自分の中ではしっかり割り切ったんだろう。頑張ったよ、篠原さん。


「別に変なことじゃ無いよ。告白って凄く勇気がいるんだ。だから、篠原さんは凄いと思う」

「ありがと、神鳥くん・・。ねえ、だったら友達になってくれない?」

「ああ、良いよ」


 うんうん、良い感じに落ち着いたな。告白は残念だったけど、でもおめでとう、篠原さん。

 その日は三人でカラオケに行った。篠原さんの本心は分からないけど、でも表面上はやり切って吹っ切れた顔をしている。暗い顔をしてるくらいなら空元気でも良い。後でフォロー入れとくかな。


 その日の夜、ブックマークしてるネット小説を読んでいると篠原さんからツナメーが来た。今日の報告かな。色々言いたい事もあるだろうから、しっかり返事を返さないとな。どれどれ。


〈おつかれー 今日はありがとね〉

〈いえいえ。篠原さんもおつかれ 頑張ったね〉

〈うん! なんかスッキリした

 自分の気持ちをしっかり言って

 ちゃんと向き合ってくれたから

 悲しいよりも 清々しい〉

〈うん。みていて思った

 良い顔をしてるって〉

〈全部 武内くんのおかげだよ ありがとう〉

〈別にお礼を言われる事じゃ無いよ

 ただ 篠原さんが悲しむ所を見たくなかっただけだし〉

〈え? それって・・・〉

〈だってさー、俺も経験あるけど、やっぱり告ってフラれたら落ち込むのよ〉

〈こないだ言ってた人?〉

〈そう! 気持ちは冷めたけど フラれること自体はショックなのよ

 いやぁー、落ち込んだねー あの時は

 周りの奴からも 慰められてねー〉

〈私も慰めてあげようか?〉

〈今は落ち込んで無いんで 大丈夫っす

 て言うか、俺が慰めるつもりだったのに

 なんで逆になってんの!? まあ 元気みたいで良かったけど〉

〈実はさっきまで少し落ち込んでたけど

 武内くんと話してて 元気が出たよ〉

〈それは良かった

 そう言えば 明日なんだけど・・〉


 こうして夜も更けていった。でも次の日は休みなんで、夜更かしは気にしない。明日は三人で遊びに行くのだ。ちょっと楽しみだ。


 そんな感じで夏休みも終わり、冬休みが近づいて来た。

 相変わらず、神鳥目当ての女子に言い寄られては丁寧にお断りしたり、告白のアドバイス(俺の失敗談)をしたり、更には神鳥関係じゃない、恋愛相談を受けたりしていた。そして、俺は俺で告白してフラれて、今まで言い寄って来た女子に慰められていた。そんなある日の事だった。


「え? 篠原さん、転校するの?」

「うちの都合でね。宮城だから近いのかもしれないけど、流石に通ったり、アパート借りるのはね。だから引っ越して、あっちの高校に編入する事にしたんだ」

「そうか。寂しくなるな」

「それ、私をフッた人が言う?」

「いや、ごめんって」

「あははは。もう吹っ切れてるから全然良いけどね」

「で? いつ引っ越しなの?」

「二週間後。冬休み直前かな」

「じゃあ、そん時、見送りに行くよ。神鳥と一緒に」

「そうだな。友達だからな」

「良いよー、来なくて。来たら泣いちゃうって」

「よし! 神鳥と泣かせに行くぞ」

「あははは。じゃあ、詳しく分かったら連絡するね」

『待ってるよ』


 そして二週間後、篠原さんの引っ越しの日。もちろん俺たちは見送りに行った。いや、篠原さんのクラスメートも何人か来ていたな。楽しそうに談笑して、そして別れの時は、顔をくしゃくしゃにして泣いていた。


「武内くん。今までありがとう。武内くんのおかげでこの数ヶ月すごく楽しかった・・グス・・本当にありがとう」


 篠原さんはそう言って俺に抱きついて来た。頭が真っ白になった。抱きしめたら良いのか、どうしたら良いのか、分からなくて手が泳いでいた。

 そして、篠原さんが離れて、「それじゃあね・・・」と言って車に乗り込んだ。

 俺たちは、車が見えなくなるまで、その場で見送った。不覚にもちょっと泣いてしまった。どんな形で、どんな関係でも、別れは寂しいものだ。でも、篠原さんは向こうでも元気でやっていけるだろう。頑張れよ。篠原さん。


 それから俺たちは、たまにツナメーでやり取りをしていた。その日の出来事、愚痴、意味のない雑談などなど。本当、他愛のない会話をしていた。

 そして高校二年の春。


〈ごめん武内くん。もうツナメー頻繁に出来なくなった〉

〈なんで?〉

〈実は彼氏が出来たの。だから・・〉

〈おー、おめでとう 俺なんかより 彼氏を大事にしてね〉

〈・・・ありがとう・・・ごめんね〉

〈気にしないで良いよ 篠原さんが幸せなら 俺も嬉しいし〉

〈・・・・・ごめんね・・・・じゃあね・・・さよなら・・・〉


 それが、篠原さんとの最後のツナメーだった。実を言うと凄く動揺していたのだ。篠原さんとツナメー出来なくなる!? と。本当は嫌だった。でも、篠原さんが幸せなら、と自分に言い聞かせて、無理矢理納得させていた。


 そのショックは、一ヶ月くらい引き摺っていた。


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