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配信始めました 〜ダンジョン編〜  作者: ばっつ
第三章 夏休み
78/84

第78話 プロローグ 〜アマテラさん参上!〜

この話から三章が始まりました。

この章は主人公の夏休みの話となります



 夏休み直前、俺はアパートで実家に帰る準備をしていた。帰省は新幹線を使う。車があるんなら、車で帰れば良いだろ、と思うかもしれないが、実家にも自分の車があるし、乗って帰っても車を置く場所がない。それに、お金は掛かるけど、新幹線は楽だ。それと、りんと智子も一緒に行く事を考えると、やっぱり新幹線の方がいいだろう。ロード関係は全部雪に持って行って貰ったし、自分で持っていくのは、着替え関係くらいか。あとは明日以降にして、今日は寝るか。明日も学校だし。おやすみー・・。


 〜次の日〜


「終わったー。武内、今日どうする? どっか遊びに行くか?」

「いや、帰るよ。帰省の準備しなきゃだし」

「そっか。じゃあな、また明日な」

「おう。じゃあな、加藤」

 午後の授業も終わり、さて帰るかと思い外に出ると、何やら校門の辺りが騒がしい。何かあったのかなと思い、近くに居た学生に聞いてみた。


「すみません。校門の辺りが騒がしいんですけど、何かあったんですか?」

「あー、えっと、なんかすごく綺麗な人と、すごくダンディな人が居るらしいんですよ。それで、芸能人が何か撮影しに来たのかなって、みんな騒いでるみたいですよ」

「そうなんですか。ありがとうございました」


 綺麗な人とダンディな人か。なるほど、それじゃ騒がしくもなるはずだ。東京に住んでても芸能人なんて滅多に会わないもんな。もしかしたら、気が付かないだけで会ってるかもしれないけど。ああ言う人たちって、プライベートは芸能人のオーラを消してるから、一般人と見分けが付きづらいんだよな。中にはオーラ全開の人もいるけど。

 兎に角、好きな芸能人がいるわけじゃ無いし、別にどうでも良いや、と思いつつ校門に近づくと、いた。確かに綺麗な人とダンディな人だ。

 女の人は、スレンダー体型でパンツスーツを着ていて、ハイヒール。黒髪ロングで純和風の美人さんだ。

 男の人は細身ながらもガッチリしていそうな、いわゆる細マッチョ系で、こちらもスーツを着ている。こちらも純和風の顔立ちだが、整えられた口髭にダークブラウンの髪のダンディさんだ。

 確かにアレじゃ、みんなが騒ぐのもわかる。しかし、近くに来て分かったが、あの二人、人間じゃないのかも知れない。滲み出ている魔力が違いすぎる。本人達はかなり抑えてるんだろうけど、それでも違いすぎる。それに、この魔力の質はヤタさんに近い・・・ヤタさん・・? そう言えば・・。

 俺は気配を消し、知らないフリをして通り過ぎようとした。しかし、女性の方から声を掛けられてしまった。


「おー、お主がまおーじゃな。会いたかったぞ。ヤタから聞いておろう? わしらの事を」

「君のことはヤタから聞いてるよ。とても面白い人間だってね。僕たちも会うのを楽しみにしていたのだよ」

「はあ、えっと、どちら様ですか?」


 俺は知らないフリをして惚けた。だって、こんな人がいっぱいいる所でまおー呼ばわりなんて、痛い人と勘違いされる。現にヒソヒソ話が耳に入って来た。


(あんな普通の人が、あんな凄い人たちと知り合い!? えー!?)

(なんか、魔王って呼ばれてるぞ。厨二患者なのか?)

(痛い人なのかな?)

(あれ? まおーじゃん。またハーレム要員を増やしたのか? しかも男も?)


 ヤバい、変な誤解が発生している!? でもまあ良いか。知らない人たちだし。誤解されたからと言って、害があるわけじゃ無いしな。それより、目の前の二人だ。ヤタってのはヤタさんの事だろう。となると、この二人は多分、あの人たちだろう。


「ふふふ。惚けても無駄じゃ。わしらには見えてるからのう。お主の魔力の揺らぎが」

「こんな所で立ち話もなんだし、中に入ってゆっくり話をしようじゃ無いか。一度、学校という所に来てみたかったのだよ、僕は」

「・・はい、分かりました」


 三人連れ立って、大学の中に戻り、学食に入った。外で話すのも良いけど、どうせだったら、何か飲みながらの方が良いかなと思ったからだ。

 食券でコーヒーを買い、一番端の席にお互い向かい合って座る。俺の前に女性が、その隣にダンディが座った。女性がコーヒーを一口飲む。


「ふむ。初めて飲んだが美味いのう、このコーヒーとやらは」

「天界にはコーヒーは無いんですか?」

「無いな。というかお主、やはり気付いておったか。全く、知らないフリなんかしおってからに」

「仕方ないじゃ無いですか。あんなに人が居る所で、天照様なんて言えないですよ」

「言っても、誰も信じんと思うがなぁ」

「アマテラさん、分かる人には分かると思うよ。ね、まおーくん」

「ですね。俺の知り合いの子だったら、間違いなく普通の人じゃ無いって、気付きますよ」

「智子じゃな。あやつの魔力感知は素晴らしいからのう」


 智子のことまで知ってるのか。これは俺の周囲は全部知ってると思った方が良いかもしれないな。と言っても、知られて困る事は無いけど。あー、でもこの人・・神様は、あの須佐之男命の姉なんだよな。まさか覗いてたりしてないだろうな。なんせ姉弟だし、同じような性癖を持っていてもおかしく無い。アレやこれや覗かれてたら、ちょっと嫌だな。


「覗いとらんわ! あやつと一緒にするでない!」


 考えが読まれてた。そう言えば、心が見えるんだったな、真眼って。神様だから真眼の能力を全て使えるのだろう。迂闊な事は考えちゃいけないな。冗談で済めば良いけど、不敬とか言われても処分されたら堪ったものじゃ無い。神様相手じゃ、どう足掻いても勝てる訳ないし。


「処分なんかせんわ! わしは死神じゃないぞ。全く。では、改めて自己紹介じゃ。わしは知っての通り、天照大神じゃ。宜しゅうな」

「僕は高木大神たかぎのおおかみだよ。高御産巣日神たかみむすびのかみと言った方が分かるかな」

「えっと、武内秋次です。ネット上では、アキとかまおーって言われてます」

「ふーむ・・・どれ」


 天照様が俺を覗き込んで来た。ヤバい。こんな美人さんに見つめられたら、ドキドキしてしまう。サッと目を逸らすも、天照様に頬を両手で抑えられ強引に正面を向けさせられた。天照様の手、細くて綺麗でスベスベしてて・・って何考えてんだ、俺は。イカンイカン。相手は心が読めるんだ。こんな事を考えてるなんて知られたら不敬罪になる。無だ、無心になるんだ・・・・無理だー! こんな綺麗な人に見つめられてたら、無心になるなんて無理! もうドキドキが止まらない!

 そんな事を思ってると、高木様は、何やらニヤニヤしている。あー、これは考えがバレてるな。自分の顔が赤くなっていくのが分かる。


「ふ、ふむ。なるほど、ヤタの言う通りだったわ。これなら真眼を持ってても、問題はあるまい」

「どうしたんだい? アマテラさん、顔が少し赤いよ」

「う、うるさいわ!」

「はははは。どうやらアマテラさんは君の事を気に入ったようだ。僕も君の事が気に入ったし、こんなおじいちゃんとおばあちゃんだけど今後とも宜しくね」

「おばあちゃん言うな!」

「アマテラさん、神武くんの高祖父の母なんだからおばあちゃんでしょ」

「お主こそ、神武の高祖母の父じゃろ!」

「いや、天照様は若々しくてすごく綺麗ですよ」


 あ、ヤバい。つい口出ししてしまった。だって本当に若々しいんだもん。見た目で言えばウチの姉ちゃんや椿さんくらいか。二十代前半位。こんな人がおばあちゃんって言われても、違和感が半端ない。おばちゃんって言われた方が納得する。甥っ子姪っ子が居るのかなって。それにしても、神武くんって、初代天皇の神武天皇の事だろうな。なんかいきなり凄い人の名前が出てきたな。しかし、これで日本書紀や古事記が真実だと証明されたな。じゃあ、天鈿女命が裸踊りしたのも事実なんだ。


「概ね合ってるが、話を持ってる部分もあるぞ。例えば、天鈿女の踊りは、裸踊りじゃ無くて、今で言うヒップホップ系の踊りじゃ。まあ服装は際どかったがのぅ」

「・・・そうなんっすね」

「そもそもが逆なのじゃ。時系列で言うとじゃな、まず、皆んなで酒盛りをしていて、天鈿女が踊っていたのじゃ。そして、天鈿女の髪留めが落ちて、岩の隙間に入ったんじゃよ。それが奥まで行ってしまってのぅ、手を入れても届かなんだ。そこで力自慢の天之手力男神あめのたぢからおのかみに頼んで、表面の岩を取ってもらったんじゃよ。そして中に入った瞬間、日食が起きての。ほんの数刻じゃったが、みんな焦ってのぅ」

「あの時は、ウチの思兼おもいかねが酒盛りに参加してないのに、適当なことを言って迷惑をかけたね」

「それでな、日食で暗くなったのはなぜじゃ? わしが洞窟に入ったからじゃ。それじゃ、なぜ洞窟に入ったんじゃ? いたずらっ子の須佐之男命が何かやって怒ったんじゃないか? それじゃ、何をやって怒らせたんじゃ? と言った具合でアレよあれよと話が進んでいっての。それであんな半分作り話の天岩戸伝説なる物が生まれたんじゃよ。須佐男もノリが良くての、別に悪者になってもいいぞ、なんて言うもんだから、そのまま話が伝わってしまったんじゃよ。ほんに、須佐男には申し訳ない話よ。いつも泥を被っての。本当は優しい子なんじゃがなぁ」


 衝撃の事実が判明した! あの伝説ってそう言う事だったんだ。しかも、神話の裏話も聞けてしまった。でもこれは誰にも言えないな。まあ言っても信じてもらえないだろうけど。

 所で、今日は何をしに来たんだろう? 真眼の確認? ただの興味本位? うん、両方だろうな。メインは真眼を所持しても平気かどうかだろうけど。でも、なんで俺が真眼なんてものを持ってるんだろう? 上位精霊や神様くらいしか持ってないって聞いたけど、俺、神様でも精霊でもないし。ちょっと聞いてみようかな。


「あの、聞きたいことがあるんですけど」

「ん? な、なんじゃ?」

「アマテラさん、顔を赤くして何動揺してるんだい?」

「うう、うるさいわい! で、聞きたい事とはなんじゃ? まおー、いや秋次、うーむ、アキでええか」

「呼び方が変わった!? まあ良いや。えっとですね、なんでただの人間の俺が真眼を持ってるのかなと。お陰でここまで生きてこれたから、有難いんですけど、でもなんでなんだろうって思って」

「ああ、その事か。知らん」

「アマテラさん、説明になってないよ。えっとね、アキくん。調べてみたんだけど、分からなかったんだよ。最初は隔世遺伝、先祖返りだね。これを疑ったんだけど、それを言ったら、今までにもいなきゃおかしいし、誰か天界の神の子かなとも思ったんだけど、君の両親や祖父母、曹祖父母、そのまた、って調べても天界とは関係ないただの人間だったし」

「そうですか」


 まあ、神様が調べて分からなかったんなら、誰も分からないだろうな。アレコレ考えずに、こういうもんだって思っていた方が良いかもしれない。実際、真眼を持ってたから助かったのは多々あるし。逆に言えば、持ってなかったら、雪との戦闘の時に死んでただろう。そうなると織田さんが雪を討伐するから雪も存在しなかっただろう。真眼があったからこそ、今があると言っても過言じゃない。


「可能性を考えれば、神の誰かの転生か、自然発生した野良の神か、じゃな」

「俺が・・神様・・? はは、まさか」

「まあ可能性は殆ど無いとは思うがの」

(兄ちゃんが神様だったら、私達の鼻も高かったんだけどなぁ。残念)

「桃花よ。低いとは言え、可能性は無じゃ無いぞ」

(うわ! 念話が聞かれた!?)

「また盗み聞きしていたのか、桃花」

(だって、兄ちゃんが何を話してるのかって、気になるんだもん)

「まあ良いけどな」


 さすが神様、何でもありだな。念話まで聞かれるなんて、秘密の会話なんて出来ないな。でも、これってオープンチャンネルなのかな? そうだったら色々な話が飛び交って、頭のキャパが一気にオーバーしそうだけど。神様だからキャパオーバーしないのかな。俺も真眼を極めたらこうなるのかな。


「全方位も出来るが、基本は指向性じゃよ。じゃ無いと、捌くのが面倒じゃからのう」

「アマテラさん、そろそろ時間だよ」

「おお、もうそんな時間か」

「何か急ぎの用事でもあるんですか?」

「何、他の神々との飲み会よ」

「あっそう」


 俺たち一人と二柱は連れ立って学食を後にした。相変わらず、注目の的だが、そんな事は全く気にして無い二柱だ。なぜか俺の腕に絡んで色々話をしてくるし、その度にいい香りがするし、こっちは常にドキドキしっぱなしだ。

 そんな状態を高木様はニヤニヤしながら見ているし、周りの人は好奇な目で見てくるしで、大変だった。

 そして校門に着いた。


「今日は楽しかったぞ。また会ってくれるかぇ?」

「あー、時間が合えば良いですよ。でもその時は事前に一言下さいね」

「勿論じゃよ。では、またの」

「じゃあね、アキくん。またね」

「はい。御二柱様もお元気で。また会いましょう」


 二柱は召喚陣を展開して帰って行った。あの魔法陣って神様も使うんだ・・・。え? て事は、召喚って、神様由来の魔法なの!? それじゃあ、魔獣と神様の関係って一体・・・。無い頭使って考えても、答えなんて出るはずも無し。帰るか。それにしても、天照様、綺麗だったな。


 〜天界〜


「ふふん。今度は何を着て行こうかのぅ。今回はスーツだったから、今度はワンピースかのぅ。楽しみじゃ」

「なあ、月読兄さん。葦原中国あしはらのなかつくにに行ってから天照姉さんの様子がおかしいんだけど」

「私も思ったよ、須佐男。多分、彼に当てられたんだろうな」

「かー、やっぱりアイツは天然タラシだねぇ。人や魔獣だけじゃなく、神にまで手を出したのか」

「私が見るに、姉上の片思いにも見えるがな」

「しかし、アイツの何がそんなに惹きつけるんだろうな。弱みを握ってる訳じゃ無いのに」

「それを確かめるために会うのだろう? 真眼の件も含めてな」

「まあ、そうなんだけど。でも、念話で話した限りじゃ悪いやつじゃなかったけどな」

「私もそれは思ったよ。だが、実際会ってみないと分からぬ事もある。そして、会う約束をしている月山神社は、私の領域の一つだ。下手な小細工は通じぬし、はっきりとした見極めが出来るだろう」

「アイツにとって吉と出るか凶と出るか」

「まあ間違いなく吉だとは思うが、もし万が一凶だったら、その時は・・」

「処分・・・か」

「何せ、今まで人の身で真眼を持った者はおらぬ。真眼とは神眼なのだ。ハッキリ言ってどの様な事が起こるか分からぬ。故に真眼を悪人に持たす訳にはいかぬのだ。とは言え、彼を処分するのは心苦しいが」

「何。その時は俺がやるさ。兄さんは見てるだけで良い」

「すまぬな」

「ふふふ。もう直ぐ夏じゃしな。薄着で行くのもありかのぅ。いや待てよ。アキにいきなり押し倒されたらどうしようか。ふふ」

「・・・穐夜佳御魂命あきやかのみたまのみこと・・・」

「・・・兄さん、その名前は・・・」

「なぜか、ふと思い出したんだが・・まさかな・・」


「ああ、生きてるってのは素晴らしいのぅ」


 天界は今日も平和だった。

配信始めました 〜趣味編〜 で新エピソードを追加しました。

よかったら、そちらもどうぞ。


誤字報告、ありがとうございました。

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