第77話 東京タワーダンジョン㉗ 打ち上げ飲み会二次会
「それにしても、よく超級なんて持ってたね、桃花ちゃん。しかも二つも」
「た、偶々よ・・・!」
「聖夏ちゃん。桃花さん照れてるよ。(ヒソヒソ)」
「全く、素直じゃ無いですよね、桃花さんは。兄さんの為に準備したって言えば良いのに。(ヒソヒソ)」
「雪ちゃん、聖夏ちゃん! 聞こえてるからね!」
二次会に入り、みんな自然と三グループに分かれて飲んでいた。三姉妹と覚狸姉妹のグループに、紫乃ちゃんと亜香里ちゃんと神鳥と裕人くんと香織ちゃんのグループ、そして俺と姉ちゃんとりんと智子のグループだ。意識した訳じゃ無いけど、自然とそんな形に落ち着いた。と言っても席がが離れてる訳じゃなく、隣同士なのだけど。
「ホント、最悪な会社だったな・・。ウチにも襲撃者来たんだべ?」
「うん、来たよ。でも、最初に俊希くんが来てね、私達を守ってる間に、今度は桜ちゃんが来て、俊希くんと一緒に戦ってくれたんだよ」
「神鳥と桜には感謝してもしきれないなぁ」
俺の実家は、桜と神鳥が頑張ってくれたお陰で怪我人も無く、物的損傷も殆ど無かった。
しかし、そうか。神取が先に来て襲撃者と戦っていたのか。さすが情報を扱う家業だ。予測からの行動が早い。桜もチェスク商会を潰してから、直ぐにウチに行ってくれて、さらに直ぐに俺の所に来てくれたんだよな。疲れてるだろうに、申し訳ないな。言ってしまえば俺のいざこざに巻き込んでしまった形だし。そんな事を考えてると、りんと智子が、姉ちゃんに謝罪していた。
「ごめんなさい、夏菜さん。私達のいざこざに巻き込んでしまって」
「本当にすみませんでした。幸い誰も怪我は無かったけど、何かあったら、みなさんに顔向け出来なかったです」
「あなた達の所為じゃ無いんだから、気にしなくて良いよ。それに、あなた達に手を出したらタダじゃ済まないって、配信に流れてるから、もう襲われることはないじゃ無いかな」
『でも・・・』
責任感が強い二人だからな。どうやっても気になるんだろう。場がちょっと重くなってきたし、このままだと姉ちゃんもりんの智子も心から楽しめないな。ここは軽口を叩いて、俺が悪者になればいいか。
「彼氏にも逃げられたりしてな」
「うっさい、秋次! だったら逃げねぇ男を紹介しろ!」
「あれ? 夏菜さん、彼氏いませんでしたっけ?」
「二ヶ月前に別がれだ・・・。別の相手に子供出来だがら別がれでって・・。ふざげんなー!」
「何それ! ひっどーい!」
「許せないよ! その男!」
ヤ、ヤバい。場を軽くするつもりだったのに、思いっきり地雷を踏んでしまった! 別れたなんて聞いてなかったよ。どうしよう!? 何か別の話題にしないと。でも、話題がない。女性陣はその男の悪口で盛り上がってるし。
「友達にギルド員いるがら、聞いてみるが? ギルドって横の繋がりが広いし」
「やんだー。ギルド員からは『ヤバい奴の姉』認定されてるんだよ。それに、ギルドの人って遊び人多いべ。だから無理。すみませーん。ハイボール下さ〜い」
うむむむ、確かに出会いの場と化してる現状だし、真面目な奴も多いんだけど、なんか否定出来ない。りんの件もあるし、やっぱダメか。神鳥の所はどうだろう。真面目な人は多そうだし。
「神鳥さ言って、情報局の誰かを紹介してもらうが?」
「うーん、あんた達の前で言うのもアレだけど、二股はなー。私はやんだなー」
「やってね人の方が多いらしいよ。お互いが納得すねどダメだし。すみませーん、焼き鳥盛り合わせと、モツ煮込みと、だし奴こ下さい。あと熱燗一つ」
「あ、熱燗二つでお願いします。あと冷酒一つ」
「ありがと、智子。ところで、私思ったんだけどね、山形弁覚えようかなぁって」
「あー、わたしも思った。なんか距離感が全然違うなって」
「じゃあさ、今度、お母さんに家で山形弁講座を開いてもらおうか」
「良いねそれ。絶対参加するよ、わたしは」
りんと智子が山形弁を覚えようとしている。地元民としては、嬉しい事ではある。高校生くらいから下の世代は、訛りや方言が少ないからなぁ。東京だと、方言なんて、逆に喜ばれるんだけどね。今時、方言を聞いて『田舎者』なんて馬鹿にする人は殆どいない。いっそ、標準語と山形弁を喋れるから、バイリンガルだ、なんて言ってた時もあったな。
「別に喋らなくても、意味さえ分かれば良いんじゃないの?」
「夏菜さん。それは違います! やっぱり自然に喋れてこそ、距離感が近くなるんですよ!」
「いずれこっちでアキくん達と住むんだし、喋れる様にならないとねー!」
「結婚する気満々だねぇ。りんちゃんと智子ちゃんは」
『もちろん! これからも宜しくお願いしますね!』
「こちらこそなー。 お母さんも喜ぶねー」
二人の言葉が、嬉しい様な恥ずかしい様な、でもやっぱり嬉しい。二人とはずっと一緒に居たいからね。なんか、自分の気持ちを再確認できた感じだ。お酒を飲みながらも、自然と笑みが溢れる。だが、それもそうだけど、うまい具合に会話が着地してホッとした。危うく爆死する所だったからな。りんに智子、ありがとう。今度お礼するね。
そんな事を思ってると、向こうから裕人くんと香織ちゃんがこっちに来た。なんか、真剣な顔をしてる。姉ちゃん達に交際の報告かな。
「アキさん、相談があるんですが・・」
「え? 俺? あ、いや、なんでもないよ。で、相談って何? 俺に答えられる事なら、なんでも良いよ」
「実は、俺たち探索者になろうと思うんです」
「うん、良いんじゃないかな」
「それでですね。探索者になれたら、アキさんのパーティに入れて欲しいんです」
そう来たかー。まあ、探索者になるのは本人次第だし、俺がとやかく言うのは違うからな。そこは家族会議だとして。それよりも俺のパーティねぇ・・・。
「なんか、勘違いがあるみたいだから言っておくけど、俺、パーティ組んでないよ」
「え!? だって、姉ちゃん達は・・」
「裕人、わたし達はね、パーティを組んでるんじゃ無くて、アキくんのCHに出てるってだけなんだよ」
「うんうん。言うなれば、私達はレギュラーメンバーってだけだね。と言ってもサブメンバーも居ないけどね。強いて言うなら、トシくんがメイン寄りのサブメンバーって感じかな」
「神鳥は距離の問題で、毎回出れないもんな」
「じゃあ、私達が探索者になって、出たいって言えば出れるの?」
「実力次第だけど、そうだよ。まあそう言う俺も、そんなに強いって訳じゃないけどね。あははははは」
『そ、そうだったんだ』
実はそうなんだよね。便宜上パーティって言ってるけど、別に組んでるわけじゃない。智子も言ってるけど、単なるCHのレギュラーメンバーってだけなのだ。だから俺以外は、出たり出なかったりしてるのだ。CHの登録者数が少ないから、まだ無いけど、コラボのオファーが来たら受けるしね。
でも、そうか。パーティ組んでると思われてたのか。まあ、別に訂正するつもりはないけど。
「で、相談ってCHに出たいって事かな?」
「いや、それじゃ無くてですね、誰か遠距離職がいないかなぁって思って」
「なるほどー。ところで、二人とも得物は何?」
「俺は剣と盾ですね。紫乃さんと同じです」
「わたしは、棒です」
「近距離と中距離か。確かに遠距離が欲しいね。でも、それこそダンジョン学校で探したら良いんじゃないかな。俺も今のメンバーは、ダンジョン学校で知り合ったんだよ。神鳥は高校からだけど」
メンバーなんて、今焦って探さなくても、必要な時は自然と見つかるものだ。だから、じっくり探せば良いと思うんだけど、高校生くらいの時って、急ぎがちなんだよな。卒業すれば、結構落ち着くんだけど、体力が余ってるからな。仕方ないか。
「そう言えば、どこの学校に行きたいの? 近くの学校かな」
「山形です。アキさんと一緒のとこ」
「今、すごく人気なんですよ!」
「へぇ。俺が行ってた時は、知る人ぞ知るって感じだったけど。方針が変わったのかな?」
「違いますよ。アキさんの今回に配信で人気になったんですよ。アキさんがどこの学校に行ってたか、調べたんでしょうね」
「俺のCH、そんなに登録者は多くないし、どこの学校に行ったかなんて、言った記憶がないんだけど・・・個人情報ダダ漏れ・・」
なんか、怖いんだけど。なんでそんな情報流れてんの?もしかして、高校とか大学もバレてるの?
・・・アパートがバレてなきゃ良いや・・。しかし、どこから流れてるんだろうな。おんなじ学校だった奴か?『あいつ知ってる! おんなじ学校だった奴だ!』とかって。それなら仕方ないけど。いずれ、俺が何をやってきたかもバレるのかなぁ。まあ、バレたとしても気にしないけど。ただのゴミ掃除だし。
「卒検でダンジョンに潜ったら、白狼を四頭連れて戻って来たって話は有名だよ。アキ兄ちゃん」
「雪を仲間にした時の話ね。アレ、そんなに有名なんだ!?」
「だって、卒検って事は仮免じゃないですか! それで白狼を四頭使役してきたなんて、普通じゃないよ!」
「実際は、雪は銀狼だったけど」
『余計に、普通じゃないです!』
二人同時にツッコまれてしまった。でも、あの時は雪も生まれたばかりで、戦いの経験が無かったし、俺も今思えば真眼が発現して、魔力が視えたから勝てたけど、そうじゃ無かったら、間違いなく負けてたね。
「俺の友達も、『あそこの学校に行けば、雪さんみたいな魔獣を使役出来るかも』とか言ってるし」
「・・・裕人くん。その友達に言っといて。召喚される眷属を相手にしつつ、雷の魔法を躱せる様になってからにしろって」
「雪ちゃんの攻撃って、そんなに激しかったんですか!?」
「雷が連続して落ちてきてたなー。そして、眷属を仲間の足止めに使って、援護されない状況で一騎打ちだったよ」
「無理! 絶対勝てない! 裕人くん、挑んじゃダメだからね。じゃないと、裕人くんが死んじゃう。私、耐えられない」
「挑まないよ!? 今の話聞いただけでも、間違いなく死ぬ。香織ちゃんを悲しませたくないし、もう逃げの一択だよ」
「隙あらばイチャつくのは、折井家と小野寺家の血筋なのかな?」
『そんな訳で無いでしょが!』
またもや二人同時ツッコミだ。しかも、脳天チョップのおまけ付きで。
それにしても、香織ちゃんと裕人くんは今回が初顔合わせの筈だけど、もう付き合ってるのか? 今時の高校生ってこんな感じなの? 三歳しか違わないけど、よく分からん。
それはそれとして、
「二人とも、ダンジョン学校に通うまで、自分の武器をちゃんと扱える様に練習しておいた方がいいぞ。幸い近くに教えてくれそうな人がいるし」
「はい。今度の夏休みに通う予定なので、それまで練習しておきます」
ん? 今なんて言った? 今度の夏休み? あれ? 十八歳からじゃ無かったっけ? 聞き間違い?
頭にはてなマークを浮かべてると、香織ちゃんが補足した。ダンジョン法が改正されて、今年の四月から施行されるらしい。細かい変更点は多々あるけど、一番の変更点は、探索者免許の取得年齢が、十八歳から十六歳に引き下げられた事だった。
理由は色々ある様だけど、一番は探索者の数を増やしたいかららしい。なぜ増やしたいかと言うと、ダンジョン産の素材の確保だ。素材はいくらあっても良いが、中々思う様には集まらない素材もある。なので、探査機者を増やせば集まりやすいのでは、との事だ。
そして、これが多分一番の理由だと思うのが、探索者の割合が外国と比べて少ないらしいのだ。それで数合わせの為に引き下げたと言うのだが、もっと早くに下げるべきだったと思う。今の日本は高レベル探索者は外国と比べても遜色無いくらい居る。少数精鋭なのだ。でもその人達が居なくなったら、日本の探索者界は一気に衰退しかねない。なので数を増やして、才能がある人を発掘しておきたいんだと思う。
「まあ、頑張ってね」
「はい」
そろそろ良い時間だな。締めに入るか。
「そろそろ時間なんで締めまーす。未成年組は帰宅ね。あとは解散なんで、帰る人は帰る、三次会する人は場所移動お願いね。ではお疲れ様でした〜」
『お疲れ〜』
裕人くんと香織ちゃんには、魔獣の護衛をつけて帰ってもらい、神鳥達三人は一緒に帰って、どこかで飲むらしい。三姉妹と覚狸姉妹はそれぞれ自分に部屋に帰って行った。
「秋次、部屋に泊めてな」
「良いよ。飲み直す?」
『私たちも行く!』
「アパートなんだから、騒がない様にな」
『おっけー』
俺に部屋で三次会が決定した。りんと智子は泊まる気だ。そこまで狭い部屋じゃ無いから四人寝ても大丈夫だろう。お酒とおつまみを買って帰るかー。
そろそろ夏休みだなー。地元で配信かな、今度は。
この話で、二章は終了です。
次回から三章に入ります。
四神集めや、夏休みの事を書こうと思いますので、お付き合いよろしくお願いします。




