第62話 東京タワーダンジョン⑫ アキのダンジョン探索
お狐流柔術。トウカが作った、合気道と柔術を合わせた様な格闘術だった。
相手の力を利用して時には投げ、時には関節を決める。そうやって敵の身体を破壊したかと思えば、隙をついて発勁を打ち込んでいた。発勁は俺と違い、魔力を利用していたが。
それにしても、なんか格好いいな。俺も習得したい! なんて思ってたら、目の前に亀真丸が浮いていた。なんか怒ってるっぽい。ん? 頭の中に声が聞こえる!?
(おいコラ! お前の戦闘スタイルは刀だろうが! 浮気するんじゃないよ!)
(あ、いや、スマン。って言うか、浮気じゃないし! お前がいない時の保険でしょうが、格闘術は)
(格好いいとか、習得したいとか思ってたじゃないか)
(そりゃ思うでしょ。厨二心がくすぐられるもん)
(確かに・・!)
「兄ちゃん! 亀真丸! 漫才は後でやって!」
「(すみません)」
《武器と漫才やるとは、なかなか斬新だな。主よ》
《なんか、出来る妹に怒られるダメ兄貴みたいだな》
《マンガだと、そういう妹ってツンデレブラコンなんだよな》
《まんまトウカちゃんじゃん》
「ぐはっ!」
トウカに怒られてしまった。シュンとする俺と亀真丸を視聴者さんがイジってくる。ついでにトウカにも流れ弾が当たってしまった。なんかスマン。
改めてトウカ達の戦いを見てみると、魔法は殆ど使わず、トウカとユキは体術で、セイカは刀術で戦ってる。これはアレか。俺が刀がない時の場合のために体術をやるのと同じで、魔法が効かない、魔法が使えない時の場合を想定しての戦いか。
ユキやトウカは速さを活かして戦ってるな。パンチは威力の大きい大振りはせずに速さを重視して、急所や関節を狙ってる。一撃必殺よりも、正確さを重視してるんだろう。それに急所や間接なら、少ない力で大きな効果を得られる。蹴りに関しても同様に、威力のある大振りはしてないし、ハイキックもしていない。しても胴に入れるくらいだ。基本は足を狙っている。機動力を落としたり、バランスを崩したりしてるんだろう。それだけでも十分、こちら側に有利に働くからな。
そしてセイカも速さを活かした戦い方をしていた。一方の刀で攻撃を弾いたり逸らしたりして、もう一方の刀で斬り付けていた。時には二点同時攻撃なんかも繰り出している。セイカも基本的には一撃必殺では無く、急所や敵の動きを阻害する様な部位に、正確無比な攻撃を心掛けている様だ。
一撃必殺はどうしても動きが大きくなり易いから、避けられ易い。なので、こういう戦法なんだろう。
《すごいな。魔獣の姿でも強かったのに、人の姿でもすごく強い》
《投げては頭から落とすし、関節決めては容赦なくへし折ってるし。トドメは発勁だし》
《そしてセイカちゃんは、舞いながらスパスパ切り刻んでるし。この三姉妹、強くて可愛いなんて最強じゃないか》
《それにしてもお狐流柔術か。習いたいって人が増えるんじゃないか?》
《正直、俺も習いたい》
視聴者さん達も習いたいって言ってるな。気持ちはよく分かる。けど、こればっかりはトウカ次第だからなぁ。俺にはなんとも言えない。
視聴者さんがそんなコメントをしてる間に、マネキンロボットの集団を殲滅したようだ。大体二十体くらい居たかな。そんな大集団を簡単に殲滅していた。
マネキンロボットって、見た目はただのマネキンの様な人形だけど、しっかり武装してるし、ほぼ人間と同じ動きをしてくる。人間を相手にしてる様で、戦い辛いのだ。
しかし、流石は魔獣と言ったところか。こういう言い方は悪いが、人間の様な相手でも躊躇が無い。これが普通の人だったら、ダンジョン内で人と敵対する事などあまり無いので、攻撃するのに躊躇してしまう可能性がある。しかい、これは間違いだ。明確に敵対する意思があった場合は、躊躇していたらこっちがやられる。なので、トウカ達の様に躊躇せずに、攻撃しなければならない。
とは言っても、無闇矢鱈に戦う事もない。避けられる戦闘は避けた方がいいに決まってる。魔獣にもよるけど、意思を持って生きてるんだから。
「ふぅ。殲滅終了ー。兄ちゃん、一先ず終わったよ」
「おー、お疲れ。大丈夫か? 三人とも」
「うん、大丈夫だよ。兄ちゃん」
「まだまだ行けますね」
「私もまだ行けるよー」
《元気だなぁ、この娘達》
《俺なんか、四人パーティでゴブリン二十匹相手にした時、終わった後はヘロヘロだったぞ》
《安心しろ。それが普通だ》
「よーし! まだまだ行くよー!」
「「りょーかーい!」」
コメントでも言ってるけど、ほんと元気だよね、この娘達。これは俺も付いて行けないな。これが若さってやつか? 見るとりん達女子四人組も苦笑いしてる。りん達も、アレには付いて行けないって感じか。俺は女子四人組の側に移動し、三姉妹の戦いを見ていた。なんだろう、この感じ。自分の子供の発表会を見るのって、こんな感じなんだろうか。ハラハラする様な、一生懸命な姿にほっこりする様な。見ていて微笑ましい。女子四人組も最初こそ苦笑いしていたが、徐々に微笑んできていた。
《こらー! そこに人間ども! 魔獣が蹂躙されてるとこ見て、ほっこりしてんじゃないよー》
《全くもう、シスコン共なんだからー》
『すんません(ごめん)』
視聴者さんに突っ込まれてしまった。だって仕方ないじゃん。可愛いんだもん。見てて微笑ましいんだもん。
それは兎も角、四階層も終わりの様だ。目の前に五階層への階段がある。早速五階層へ降りる準備をするが、ここで聞いておきたい事がある。まあそんな重要な事じゃないんだけど、聞きたいのは、五階層は誰が攻略するかって事だ。
「五階層、誰か攻略したい人いる? いないなら、俺が行くけど」
「私達はパスね。今やったばかりだから。疲れてはいないけど、連続で行ってもみんなの経験値が上がらないからね」
うん、その通り。だからモン娘は外そうと思ってたんだけど。トウカが先に言って良かった。女子四人組も手を挙げてない。むぅ、あげると思ったんだけど、何か考えがあるのかな。
「じゃあ、五階層は俺が行くね」
「ごめんね、アキ。私達、ボスとやりたくて、だから六階層とボスは私達四人で行くから。あ、でもでも、何かあったらすぐに参戦するから、遠慮なく言ってね」
「うん、分かった。よし! んじゃ、五階層へ降りるぞ!」
『りょーかい』
五階層への階段を降りて行き、入り口から覗いてみる。五階層はパラレルワールドだったはず。どんな平行世界かと言うと、確か、東京が首都じゃなく、ただの一地方都市の世界って聞いたけど、見てみると今の東京と全く違っている。発展はしている。しているが、どちらかと言うと、ベッドタウンとして発展していた。
どこに対してのベッドタウンかと言うと、横浜と東京港湾区という架空の区だった。そう、首都じゃない東京は港湾都市となっていたのだ。首都じゃなくとも、重要拠点なのは変わりなく、港がすごく発展していた。
そもそも、風水的に見ても東京は地脈のエネルギーが強いのだ。なので、並行世界では一地方都市と言えど、首都並みに発展する様だ。東京、恐るべし。
「これが並行世界の東京かー。現実の東京よりスモッグが少ないな。空が青いし、遠くまで見渡せる。暮らしやすそうだ。なんか仙台みたいだな。東北人だからそう思うのかな?」
「現実の東京も良いけどー、こういう東京もなんか良いねー。発展してるけど、至る所に自然があって空気が澄んでる」
「私もそう思う。子供がいたらこういう所で育てたいね」
一瞬ドキッとした。夢の件もあるから、なんか将来の話をしてる様な気がした。まあでも、大学を卒業したら、一緒に山形に着いて行くって言ってるし、将来的にはそうなるんだろうな。全然良いけどね。
この階層の敵はアニメに出てくるようなロボットらしいが、どんなロボットなんだろうな。結構楽しみだ。
そんなことを思っていたら、前方から敵が来た。人型のロボット? 武装してる? 手にはライフル銃の様なものを装備し、腰のホルスターには拳銃が納められてる様だ。魔獣が装備してるだけに、普通の銃じゃ無いんだろうな。そんな映画に出て来る様な、近未来的な武装をしたロボットが近付いてきた。
「ふむ。属性は無し、か。魔力で動いてるのか。永久機関ってやつかな。現実じゃ実現してないのに、すごい技術だな。でもまあ、ダンジョンの中だから出来るんだろうけど」
ダンジョンの中は、はっきり言って何でも有りだ。空飛ぶ車があったりもするし、目の前に居るロボットの様な物もいたりする。完全なオーバーテクノロジーだ。それに転送陣なんかもそうだ。ダンジョンそのものがエネルギーを供給してるかららしいが、はっきり言って原理が分からない。ほんと魔力、延いてはダンジョンって何だろね。違うかな? ダンジョン、延いては魔力かな? どっちでもいいか。
それにしても、目の前の敵から殺気が感じられない。さっきの雪だるまロボットからは明確な殺意を感じたんだけど、このロボットからは殺意を感じられない。ロボットなのに殺気ってのも考えてみれば変だが、魔力で動いてるってことは、多少の意思を持ってるって事なのかな。試してみるか。
俺は武器を納めて、ロボットに近づいて行った。殺気はまだ感じられない。それどころか敵意も無い。完全に目の前まで移動した。
「初めまして。アキと言います。あなたは?」
「・・・・・・レイニー」
(喋るの苦手なんだ。念話でもいいかな?)
「あ、全然構いませんよ」
(ところで、アキさんはここで何やってんの?)
「ダンジョン探索のライブ配信してるんですよ。ほら、あそこに飛んでるカメラで撮してるんですよ」
(へえ、外じゃ面白そうな事やってるんだね。でもあのカメラ、強度不足じゃ無いかな。ちょっとした事で壊れそうだけど)
「あー、まあ一番安いやつですからね。それでも高級品なんですけどね」
(僕が凄いの作ってあげようか?)
「え? そりゃあ出来たら嬉しいですけど、良いんですか? 対価、何も持ってないですよ?」
(全然良いよ。友達になってくれたお礼にね)
「ありがとうございます。あ、でも時間掛かります?」
(二十分位かな)
「じゃあ、そこら辺回ってきますんで、大体時間が来たら戻って来ます」
(うん。分かった。それじゃ、また後でね)
なんか、とんでも無い事になった気がするけど、まあ良いか。どんなドローンが出来るのかな。楽しみだなー。




