第5話 ヒロイン(仮)登場?
初めまして、小野寺りんと言います。よろしくお願いします」
「・・・・・・か・・・・・・」
「・・・か?」
「あ、いや、武内秋次と言います。こちらこそ宜しくお願いします」
危なー、挨拶より前につい可愛いって言いそうになった。挨拶は基本ってさっき言ったばかりだろうに。
でも、肩あたりで切り揃えた髪にアーモンド型のクリクリっとした目、小ぶりな鼻と口で顔全体が小さく、背丈も155cm位かな。うん、美少女ってやつだね。
お互い挨拶を済ませて、少し離れて武器を構える。俺は刀であっち槍だ。槍の形状は2m位の鎌槍だった。俺が中段の構えを取るとあっちも中段の構えを取る。でも短めに構えてるようだ。お互い、相手の目を見て集中している。回避する訓練と言っても、気を抜いたら大怪我の元だからね。相手が可愛い女の子だって事を頭から消し去り、殺しに来ている敵と思って相手に対する。向こうもそう思っている様で、目付きや気配は真剣そのものだ。そのまましばらくして、
「それでは、回避実習を始める。片方が武器を振るい、もう片方がその攻撃を回避する。回避方法は、その時の攻撃を見て各々の判断で選択する。足の動きでかわしても良し、武器を使って弾いたり逸らしたりしても良し、そして普通の逃げても良し。生き残るための訓練だからな。格好悪いなんて事はない。見栄えを気にして回避出来ずに死んだら、意味が無いからな。但し回避側は、一切の攻撃を禁止する。そして、一定時間毎に笛を鳴らすから、それを合図に攻守交代をするように。先攻は番号の若い方からだ。怪我をしないよう、させないよう注意するように。それじゃ、始め!」
俺が後攻か。相手は槍だ。突いたり振り下ろしたりと色々考えられるな。まず何で来るか相手をよく見る。
「フッ!」
小さく、しかし力強く息を吐き、鋭い突きを放ってきた。鋭いと言ってもそこまで本気じゃなく、ある程度手加減しているようだ。しかし早いことは早い。俺は足運びで右後ろに反転して避けつつ、同時に刀で槍の穂先を逸らし、そのままさらに反転して相手を正面に捉える。注意すべき点は相手が鎌槍だという事。下手したら鎌の部分でこちらの武器を絡め取ってしまう。なので普通に弾くんじゃなく回転系で躱わした。ベテランになるともっとスマートに躱わすのかも知れないけど、今の俺にはこれで精一杯。
その後も突いたり振り下ろしたり横薙ぎして来たり、たまに石突で攻撃して来たりして来た。それらを全て逸らしたり交わしたり受け流したりして回避していく。
ピッ!!
攻守交代の合図だ。今度はこっちが攻める番だ。怪我させないように手加減しつつ、ある程度本気で打ち込む。まずは踏み込んでの真向斬り。これを柄の部分で弾きながら右後ろに避けつつ俺を正面に捉える。実戦だったらこのまま石突の攻撃が来るかも知れないので、心の中でそれの対処して行く。そしてこちらも、袈裟斬り、逆袈裟斬り、右薙ぎ、左薙ぎなどを繰り出し、向こうも武器を使いながら捌いて行く。
ピッ!!・・・・・・ピッ!!・・・・・・
何度か攻守を交代しているうちに少しだけ余裕が出て来たからか、周りを見ると会話をしている組が結構居る。そういう俺たちも結構お喋りをしていた。
「ヘ〜、小野寺さんって合宿を利用してこっちに来たんじゃ無いんだ。合宿で来たとばかり思ってた。って事は、高校三年生なの?」
「大学生だよ!大学一年。失礼だなー、高校生に見える?って言うか武内君はどうなの?」
小野寺さんが笑顔で話しながら槍で攻撃を繰り出してくる。俺もそれを避けながら喋っている。なんか楽しくなって来た。
「俺も大学1年」
「なんだ、同い年じゃん」
「ごめんごめん。ところで合宿じゃ無いなら地元こっちだと思うんだけど、小野寺さんってどこなの?」
「私の地元は東京なんだけどね、お母さんの生まれがこっちでさ。ここのダンジョン学校に来たかったから、ちょうど良かったよ。お母さんの実家に泊まれば、宿代タダだしね♪」
「なるほどねー。ところで、なんでここに来たかったの?あっちにも有名な学校があったと思ったけど」
(ん?なんか小野寺さんの雰囲気が変わったぞ!?)
今までと同じ笑顔だが、こめかみに青筋が現れた様な気がする。その瞬間、小野寺さんの攻撃に殺気と鋭さが増し、一瞬回避するタイミングがズレた。焦った俺は地面を転がりながら攻撃を回避する。危なかったー。刃を潰してるって言っても当たったら怪我するぞ。しかし容赦なく攻撃を繰り出す小野寺さん。な、なんだ!?なんか後ろに般若と横に鎌を研いでる死神が見えるぞ!?
「・・・ふふ・・・それはねぇ・・・小さい頃からこっちに遊びに来てたから馴染みがあったのとねぇ・・・彼氏と喧嘩したからよ!!」
「うわっ!!!」
「お金がなくて困ってるって言うからバイト代から出したのに・・・もう二度とやらないって言ってたのに・・・!!」
「な、なに言ってんだ!?お、おいコラ!ちょっと落ち着け!」
必死に避けまくる俺。
「ユウくんの嘘つきーーーー!!!!!!」
「俺はユウくんじゃねーーー!!!」
どっちかといえばシュウ君だ!!いやそんな事より教官!早くなんとか・・・・・・っておい!生暖かい目で微笑んでんじゃねー!!早く笛を!あ・・・ダメだこれ。攻撃しながら愚痴ってテンションが高まってるせいか、笛が鳴ってるのに全く気がついてない。ずっと彼女のターンだこれ。
俺は命の危機を感じ、必死に回避していた。偶に掠りながら。何度も地面を転がりながら。周りのみんなからは『なんだなんだ!?痴話喧嘩か?』と云った顔や声が聞こえて来た。決して違います!痴話喧嘩じゃありません!今さっき会ったばかりなんですけど!?
「うわあああぁぁぁん」
「この・・・っ!泣きたいのはこっちだっつうの!」
「グスッ・・・ユウくんのバカーーーー!!」
「だから!俺は!ユウくんじゃねーー!!」
▽ ▽ ▽
ピッ!!
「よーしそこまで。一旦その場で呼吸を整えるように。それと6番、なかなか良かったぞ。その回避レベルなら、直ぐ実戦に出ても大丈夫だぞ」
や・・・やっと終わった・・・。八つ当たり喰らわせやがって、途中からずっと逃げてたぞ・・・、はぁ・・・ふぅ・・・死ぬかと思った・・・。それと教官。そんな褒め言葉は要らんし、肩揺らしてるんじゃないよ・・。
地面に四つん這いになって息を整える。そしてその対面には綺麗に土下座を決めてる小野寺さんがいた。周りからの同情や好奇心やクズを見る様な視線が痛い。クズは俺じゃないから、そんな目でこっちを見るな。
それと!ユウくんとやら!キサマ一体彼女に何をやらかした!!