第41話 九十九里ダンジョン ⑪ 黒いアキ
「トウカ。俺が覚醒者ってどういう事だ? そもそも、覚醒者ってなんだ?」
「んとね、兄ちゃんって真眼持ってるでしょ」
「あ、ああ。確か何でも見通せるんだっけか」
「そう、それ。覚醒者ってね、他の人と比べて、どっか一部の能力が飛び抜けて高いの。例えば、スピードだったり、魔力だったり、力だったり、体力だったり、普通じゃ説明できない能力を発揮するの」
「・・・・・・・・・」
「兄ちゃんの真眼もそれに該当するのよ。それどころか、レア中のレアでね、人間でこれ持ってる人って今まで居なかったのよ。持ってるのは、それこそ精霊だったり、神だったり。・・・よくよく考えると、兄ちゃんって何者?」
「俺が知りたいわ! って事は何や。この現状ってよ、俺の所為なのが? 俺が居っからこだな事になてんのが!? はぁぁぁ、みんなさ迷惑かげでよー、やんだぐなるわぁ、もう・・・」
《主・・・》
《そりゃ、この現状が自分の所為なんて言われたら、ショックだわな・・・》
俺は一気に力が抜けた。何だよ試練って。知らんわ、そんなもん。覚醒者になりたいだの、試練を受けたいだの、言った事ないぞ! 知らない内に! 覚醒者になっただけで! 勝手に試練を受けさせられる!
「ほだなごど・・・納得行ぐわげ、ねえべよ!!」
こうなったら、この亀だけは倒す、絶対に! でないと、知らない内にとは言え、巻き込んでしまったりんと神鳥に申し訳ない。俺は両手で自分の頬を叩き、気合を入れ直す。しかし、妙に頭は冷静だ。何の感情も湧いてこない。
「取り敢えず、こいづだげは倒す・・」
《主!? どうした!? 大丈夫か!? なんか主が変だ!!》
「に、兄ちゃんの魂が・・暗く冷たくなってく・・! 兄ちゃん! ダメ! 闇に飲み込まれないで!」
《闇堕ち一歩手前ってか!》
みんなの声が聞こえる。なぜか、視聴者の声も聞こえた気がした。でも、それを無視して戦闘に加わる。
「りん、トシ、悪いげど、時間稼いで。弱点探すがら」
「「う、うん。分かった」」
りんとトシが亀に攻撃をしてる間、俺は亀を見ていた。それこそ、穴が開くくらい見た。絶対に弱点を見つける。しかし、早々、弱点なんて見つかるはずも無い。それでも、探し続けた。足、尻尾、頭、首、甲羅から腹までくまなく探した。
そこで、ある事に気付いた。魔力がない部分があるのだ。もしかして、そこが弱点か? 試してみる事にした。
「りん。奴の顎の下、顎と喉の境目辺りさ攻撃してみで」
「え? は、はい。了解」
りんが奴の攻撃を躱し、顎の下に入り込んで、俺が言った所を攻撃した。
「シッ! え!? すんなり攻撃が通った!?」
《え!? 今まで全然だったのに、何で攻撃が通ったの!?》
《主が言ったところが弱点だったのか?》
やっぱりか。多分、この試練は真眼の能力を部分的に解放させる試練だったんだろう。今回は弱点看破だったって事か。他に数カ所、魔力がない所があったから、そこを攻めれば勝てるな。
「トシ、甲羅の真上の丁度天辺あたりの窪みさ、短刀ば突ぎ入れで」
「お、おう、分かった」
トシが甲羅に飛び乗り、言われた所に短刀を突き入れた。
「な!? 何の抵抗もなく突き刺さったぞ!?」
攻撃がすんなり通った事に、神鳥が驚いている。そりゃそうだ。甲羅が弱点なんて誰も思わないからな。真眼で弱点を看破したからこそ、分かったことだ。
そして、鉄壁の防御を誇っていた亀だったが、俺たちの攻撃がいきなりが通る様になって、悶え苦しんでいる。その原因を作ったのが俺だと気が付いたんだろう。亀が俺に向き直り、突進してきた。しかし・・
「ふん、お前、俺の試練なんだべ。んだったら攻撃が通った事ば喜べや。怒るのは、筋違いだべよ。聞いっだのが?」
《主が・・キレてる・・・》
亀の攻撃を躱し、亀が突進を止めたタイミングで甲羅に飛び乗る。
「フッ!」
さっき神鳥が攻撃した所に浸透勁を撃った。内部の奥深くまで浸透した様で、亀が血を吐き出した。内臓にダメージを負ったのだろう。
そして、動きが鈍くなった亀の、首の付け根にある魔力が無い所に、腰に挿してあるサブウェポンの短刀を突き入れる。そして、ここから頭に移動して、脳天の位置まで来た。脳天のピンポイントに弱点があるのだ。ここは位置的に最大の急所だと思う。決まれば、確実に終わるはずだ。
「コレでサヨナラだ。んだらな、亀。スゥ・・ハァッ!!」
渾身の力を込めて浸透勁を撃つ。今度は脳震盪じゃ済ませない。完全に脳を破壊する。そのつもりで撃った。
亀が一瞬痙攣して、全身の力が抜けた。脳が完全に破壊されて絶命したようだ。
「ふん、手擦らせやがって」
《主が怖い・・闇堕ちしたかの様で怖い・・・》
《主! まだ間に合う! 戻ってこい! いつも俺たちと冗談を言い合ってる主に戻ってこい!》
《そうだぞ! 闇堕ちなんかしたら、りんちゃんが泣くぞ! 良いのか? それで!》
「・・・りん・・」
そうだ、りんは無事なのか? 神鳥は? 亀の頭から降りて、りんと神鳥に目をやると、二人が駆けて来た。りんがそのまま止まらずに抱きついて来る。震えてるし泣いている・・。泣いている? 泣かせてしまったのか? 俺が怖かったのか? それとも・・・
「アキ! 戻って来て! 向こうに行ったら戻って来れなくなる。お願い、アキ。行っちゃダメ・・・」
「りん、何を言って・・」
「私、ユキちゃんとトウカちゃんに聞いた。あの亀は覚醒者であるアキの試練だったって。そして、本当の試練は亀を倒すことじゃなく、能力を解放した後の精神状態だって」
「精神状態・・・」
「強すぎる能力を手に入れると、精神に異常をきたし易くなるから、そうならない様にするのが本当の試練なんだって。そして、もし精神状態に異常があったら、元に戻るのは難しいって・・」
「シュウ、さっき言ったよな。無茶する様なら力尽くでも止めるって。闇落ちなんかしたら、ぶん殴ってでも目を覚まさせるからな!」
智子:《アキくん! わたし、まだまだ教えて欲しいことが一杯あるんだよ。だから、何処にも行っちゃダメ! ちゃんと戻って来て! わたしのファーストキスあげるから》
紫乃:《そこは処・・》
智子:《なんか言った?》
紫乃:《いえ、何も》
「紫乃は兎も角、みんなアキの事、心配してるよ。だから・・・一人で抱え込まずに、みんなを頼って・・」
みんなが心配しているのが伝わってくる。そしてコメントにも心配の声が多い。俺は深呼吸をした。りんの匂いを感じる。りんはダンジョンに潜る時、香水の類はつけない。匂いが魔獣を誘き寄せるからだ。そうするとこの匂いは・・ああ、そうか。りんの不安を匂いとして感じ取ったのか。真眼って見るだけじゃないんだな。全てを見通すって、そういう事か。
抱きついてるりんを離す。
「心配かけてごめん。もう、大丈夫」
「・・うん・・・」
《良かった。戻って来て、本当に良かった》
ユキとトウカも胸を撫で下ろしている。セイカに至っては泣き崩れていた。あの三人にも謝らないとな。
りんが腕にしがみついたまま、ユキ達のところに行った。謝ろうとした瞬間、セイカが抱き付いて来た。セイカも震えている。俺が居なくなるのが、そんなに怖かったんだな。俺はセイカの頭を撫でながら謝った。
「ごめんな、セイカ。心配かけて。ちゃんと戻って来たよ」
「兄さん・・グス・・良かった。元に戻って・・グス・・本当に良かった・・うわあぁぁぁ・・」
セイカが声を上げて泣いている。本当に悪い事をしたな。
「みんなも心配かけて、ごめん」
「本当に焦ったよ。あんなに温かかった兄ちゃんの魂が、どんどん暗く冷たくなっていくんだもん」
「本当だよ。私も気が気じゃなかったよ。お兄ちゃんが変わっていくって」
「もう、大丈夫だから。本当にごめんな」
「今は元の魂に戻ってるから、もう良いよ。それより、今度から闇堕ちしそうになったら、周りを頼ってよね。頼られたら、それはそれで嬉しいんだからね」
「ああ、気を付けるよ」
トウカはツンデレ気質があるみたいだな。それはそれで、なんか心地いい。しかし、みんなには感謝しかないな。視聴者さんも含めて。後で正式に謝罪しないとな。
「そういえば、ドロップ品はあるのかな?」
「ああ、そういえばどうなんだろうな」
りんに聞かれ、そういえばと思い、亀がいた所を見ると、一振りの刀が刺さっていた。隣には鞘らしき物も置いてある。あれがドロップ品かな。それと周りにはポーションや、マジックリカバリーも転がっていた。本当にちゃんと立ってる物は一本も無く、全部が横に倒れて転がっていた。あの亀・・・刀以外は雑すぎだろう。
「刀ならアキのものだね。手に取ってみて」
刀に近づき手に取ってみると、すごく馴染む。まるで体の一部の様だった。見た目よりも重く無い。かと言って軽いわけでも無く、適度な重さを感じる。それよりも・・・
「鞘に、亀甲文様かよ・・・ふふふ」
コレは間違いなく、亀のドロップ品だ。完全に自己主張してやがる。思わず笑ってしまった。そして、振ってみて分かった。手に持った時にも適度な重さを感じたが、重量配分のバランスが良いのだ。振り回される事が無い。しかも、俺に合わせたかの様なバランスだ。
(コンコン・・)
刀身を軽く叩いてみる。金属の様な陶器の様な、不思議な素材だ。甲羅が素材なのかな? でも切れ味は良さそうだ。
それに、すでに無属性魔力を纏っている。コレは魔獣の属性の有無に関わらず、どんな局面でも対応出来る刀だ。ふん、亀のやつ。試練クリアの報酬って訳か。まあ、有り難く使わせて貰うさ。
ちなみに、よく見たら柄頭と鍔にも亀甲紋があった。どれだけ自己主張してるんだ、あの亀は。あんなに苦戦させられた亀だけど、なんか可愛く思えて来たな。
「よし、りんちゃん、シュウ、戻るか」
「「そうだね」」
俺たちは帰る準備を始めた。指差し確認をして、忘れ物が無いか確かめる。うん、無いな。OK。
そして今回はドロップ品が多かった。裏技を使わなければ、苦労しただろうな。もしくは、大半を置いて行ったかだ。
「OK、大丈夫だ」
「じゃあ、帰るか。みんなで無事に出口に辿り着くぞ」
「「「「「おっけー」」」」」
出口までは五エリアを通らなくてはならないが、いつもの通りだったら、何事もなく帰れるだろう。
しかし、今回も大変だったなぁ。
 




