第40話 九十九里ダンジョン ⑩ ボス亀はやっぱり強かった
「シュウ、りんちゃん、準備はいいな。ボスエリアに入るぞ」
「「了解」」
確認を終え、俺達はボスエリアに足を踏み入れる。入った瞬間さっきまでと違う感覚に襲われる。ボスエリア特有の感覚だ。
普通なら、踏み入れた瞬間にボスが現れるのだが、今回は既に出現していた。確かにこういうパターンもあるとは聞いてる。そして、その場合は特殊なボスになってる事が多いと聞く。
でも今回は何も変な所は見当たらないし、ボス自体も特別な何かには見えない普通のボスだ。まあ、考え過ぎかな。
「ボスの属性は無しだ。至って普通のボスだな。ユキ達三人はそこで見ていてくれ。何かやって欲しい時は、その時改めて言うから」
「分かった、お兄ちゃん。気を付けてね」
「ああ。よし、行くぞ」
更に近づくと、亀が動き出した。四肢を出して首を伸ばしてくる。体高三メートル、全長五メートル位のボス亀だった。思ったより大きいが動きはゆっくりだ。でもこの巨体だ。一つ一つの動きが大きい為ゆっくり動いてるようには見えない。そして、首の動きが思ったより素早い。一瞬で首を伸ばして、噛み付いてくる。このギャップにやられる探索者も多いと聞くから、油断はできない。なので、さっきと同じく先制でデバフを掛けてみる。
「属性はないけど、亀だからもしかしたら基本的に、水かもしれない。試しに土でデバフかけてみる」
「分かった」
「強めにかけてみるか。相乗、土乗水、強魔力展開のち収縮。どうだ?」
亀の周りに土属性の魔力を展開させて、内部に浸透させるように収縮していく。水属性だったら相乗効果で打ち消されて、能力が下がる。しかし、無属性には相剋も相乗も乗りにくい。打ち消す属性がないからだ。
でも、亀は五行思想の中の『五虫』で水属性扱いになっている。つまりは亀そのものは水属性という考えなのだ。
ちなみに他の五虫は
・火:羽(鳥)
・木:鱗(魚 爬虫類)
・土:裸(人)
・金:毛(獣)
・水:介(亀 甲殻類と貝類)
となっている。
だから、上手くいけば弱体化出来るんじゃないか、と思って掛けてみたんだが・・・、
「うーん、掛かったみたいだけど、思った程じゃ無いな」
「むー、やっぱり無属性には弱いな、俺は。本職の魔法使いには敵わないや」
やっぱり無理だったか。多少は掛かったみたいだけど、これじゃ弱体化とは言えないな。
《掛かるだけマシだろうに》
《普通だったら、無理なものは無理だからな。魔法使いだとしても》
まあ、思ったほどじゃ無いにしても、掛かるには掛かったんで、攻撃を仕掛ける。
甲羅は硬いからな、まずは柔らかい四肢や尻尾や首を狙う。三人で一斉攻撃だ。
「フッ! あ、あれ? 足、硬ぁー」
「首の動きも思った以上に早いぞ。これ本当にデバフ掛かってんのか?」
「ハッ!・・うーん、最初に見た魔力に比べると萎んでるから、間違い無く掛かってるんだけど」
「それにしては、速いし硬いぞ」
「内部破壊を試してみる。トウカ悪いけど、その間この亀を調べてくれないか?」
「分かった、兄ちゃん。調べてみる」
トウカに亀の解析を任せ、俺は亀に向かう。亀は俺を近づけまいと、尻尾の振り回して来た。それを必死に躱わし亀の側面に移動しようとすると、今度は頭突きや噛み付きをしてきた。それを何とか躱し、やっとの思いで甲羅に近付いた俺は、そのまま発勁を打つ。
「スゥ・・ハァ!・・・あ、また失敗した・・」
浸透勁を打つつもりが失敗して、またもや三〜四メートル位吹き飛ばしてしまった。むー、練習では上手く行くんだけどなぁ。実戦じゃ、中々思ったようにいかないな。
《だから、なんで失敗と言いつつ、あの巨体があんなに吹っ飛んでんの。おかしくないか?》
《側から見ると、何が失敗で何が成功か分からんな》
吹き飛ばされた亀は、仰向けになってもがいている。今がチャンスと思い、俺たち三人は亀の腹に攻撃を仕掛けた。
「硬ぁーー!」
腹も硬かった。何これ!? 攻めるとこないじゃん!?そんな時、トウカから連絡が来た。
「兄ちゃん、亀の解析が終わったよ。えっとね、普段のボス亀より二〜三割ほど強くなってる亀何だけどね、一点だけ違うところがあって、それがスピード特化なの。だから、速くて硬い亀って事だったよ」
「分かった。ありがとな、トウカ」
「何かあったらまた言ってね、兄ちゃん」
トウカから、解析結果が来た。結果は、一点を除いてなんの変哲もないが、普段のボス亀よりは強いボス亀だった。そして、その一点がスピード特化だった。
だからか。デバフが掛かっても、あんなに速かったのは。流石に無属性だからか、硬さにまでは行かなかったって事か。それにしても、普通のボス亀より強いって何だよ。意味分からん。でもまあ、逆に考えれば、特化した部分をキャンセルしたんだから、悪くない、のか?
《悪く無いどころか、とんでも無いぞ》
《特化した部分がキャンセルされたら、特別な魔獣が、ただの一般魔獣に成り下がるんだぞ。分かってんのか?》
「だから、なんで俺の考えてる事が分かるの!?」
《短い付き合いじゃないからな。顔を見りゃ分かる》
「おぅ、なんてこったい・・・」
それは兎も角、せっかくひっくり返ってるんだ。起き上がる前に攻撃しなきゃならない。
「体勢を立て直される前に、一気に決めてしまおう」
「「オッケー」」
亀は頭を地面につけて、そのまま首を伸ばして体勢を直そうとしている。けど、そうはさせない。
「シッ!」
「ハァッ!」
りんと神鳥は首を切りつけていった。足よりも首の方が攻撃が通るかも知れない、と判断したからだ。それに、甲羅ほどではなかったが、腹も硬かったというのもある。
「スッ・・フンッ!」
俺は亀の頭に発勁を打ち込む。内部に浸透すれば良し。しなくても頭が吹っ飛ぶから体勢を直すことは出来ない。実際、何度か浸透勁も成功している。
が・・・、
「クゥー、硬いなぁー、もう。手が痺れてきたぞ」
「細かい傷は入ってるんだけどなぁ・・」
「みんなどうやって倒してるの? アキ、発勁はどうなの?」
「うん、何度か浸透勁は成功して、衝撃が頭の中に入ってはいるんだけど、なぜか脳震盪位で脳破壊までは行ってないのよ」
「何だそりゃ。浸透勁が効かないんじゃどうやって倒すんだ? 魔法か?」
「でも、ここにいる人みんな魔法使えないよね。私含めて」
「仕方ない。兎に角、物理攻撃で行こう。やらないよりマシだ」
「「そうだね」」
三人で亀に攻撃を仕掛けて行く。しかし、皮膚が硬くて、中々致命傷を与えられない。そして体勢を立て直した亀を、俺が吹き飛ばす。その繰り返しだ。いい加減疲れてきた。タフ過ぎだろ、コイツ。こんなにタフだなんて聞いたことないぞ。兎に角、責め続けないと回復されてしまう。
〜 十分後 〜
「ハァ!・・・痛ったぁ。もうヤダー、この亀」
「フッ!・・皮膚の表面しか刃が通らないぞ。まいったな、もう」
全然攻撃が通らない。亀の攻撃は、速いと言っても、所詮は亀。落ち着いて対処すれば、そこまで速くないから何とかなるが、攻撃が通らないんじゃ、倒す事ができない。千日手だ。いや、下手したらこっちが先に力尽きてしまう。何か攻略方法は無いものか・・・。
(お兄ちゃん。この亀さん、なんか変だよ)
ユキから念話が来た。何だ? 何が変なんだ?
(どうした? ユキ。何が変なんだ?)
(さっき、この亀さんと話せるか試したんだけど、さっきから同じことばかり言ってるの)
(同じ事? なんて言ってるんだ?)
(えっとね・・・『我は覚醒者の試練なり』だって)
(覚醒者? 何だそれ? 聞いた事ないな)
(あー、そういう事か。あのね、覚醒者って多分、兄ちゃんの事だよ)
「はぁ?」
何それ? 俺が覚醒者? そんなの知らないんだけど?




