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配信始めました 〜ダンジョン編〜  作者: ばっつ
第二章 配信者になりました
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第36話 九十九里ダンジョン ⑥ せまってくる狐

 第五エリアも、見た目は今までと同じ砂浜に海に原生林だ。出てくる魔獣も殆ど同じ。違うのは、やっぱりエリア固有の魔獣位だ。ここのエリア固有魔獣は、体長3mの海蛇である。しかもこの海蛇、陸に上がってくるのだ。

 とは言え、この海蛇はエリア固有の魔獣であり、レア魔獣でもあるが、ハッキリ言ってユキやセイカが居る俺たちのパーティの敵ではない。現れたら瞬殺だろう。なのでこのエリアは、二人に休んでもらっている。参戦するのは、危なくなった時だけだ。でないと俺たちの経験にならない。いつまで経っても初心者から抜け出せなくなる。そうなったら、探索者としては終わりだ。なので、経験を積むためには、このエリアだけじゃなく、ボスも俺たちが撃破したいところだ。


「と言う訳で、二人はちょっと休んでてくれるかな」

「うん、分かった。お兄ちゃん達も強くならなきゃ、だもんね。でも、危なくなったら助けるからね」

「そうだよ、兄さん。強くなるのも大事だけど、一番大事なのは命なんだからね。もし、もし兄さんが死んだら・・グスッ・・私・・グスッ・・どうしたらいいか・・グスッ・・・」

《セイカちゃん、まだ死んでないから泣かないで》

《なんてええ妹たちやー》

《主、こんな健気な妹達を不幸にしたらダメだぞ!》

「私達も付いてるから、大丈夫。アキに無茶な事はさせないよ」

「そうそう。シュウが無茶しそうになったら、力尽くで止めるしな」

「・・・・・・・・・・」


 なんで俺が無茶する前提なの? しないって。死にたくないもん。今まで無茶した事無いよね? それよりセイカ。死んでないから。俺、生きてるからね。まあいいや。とにかく先に進もう。

 俺たちは、出て来る魔獣を倒しながら、第六エリアを目指す。特に変わったことはなく、順調に進んでいった。

 が、前方の海の方から異質な魔力を感じる。ここは第五エリアなので、ボスでは無い。それに通常の魔獣の魔力とも違う。もしかして海蛇か? しかし、エリア固有と言っても他のダンジョンには現れるので、異質という訳では無い。一体何だ? 


「前方、魔獣接近1 正体不明 属性、え・・全部!?」


 移動スピードがかなり速い。一気に近づいて来る。俺たちは海から離れて、武器を構え迎撃体制を取る。これがもし海の魔獣だったら、水辺にいては危険だ。仮に海の魔獣じゃなくても、両生類の魔獣の可能性もある。その場合でも水辺から離れた方が間違いはない。それにしても、全ての属性持ちなんて聞いた事無い。一体どんな魔獣なんだ?


「来る」


 目の前に現れたものは見たことの無い魔獣だった。いや、厳密に言えば見た事はある。でもそれは本の中でだ。現実的に見たことも無ければ、その存在を聞いたこともない。そもそも魔獣と言ってもいいのかも分からない。目の前にいるもの、それは狐だった。ただの狐ではない、九尾の狐なのだ。

 東アジアのダンジョンは五行思想を元に構築されている。ただ、日本のダンジョンは他のアジアのダンジョンと違い、妖怪の思想も加わって、独自の様相を呈している。なので、妖怪らしい魔獣が現れることもある。

 九尾の狐とは瑞獣であると同時に、神と同格の妖狐、所謂『天狐』だ。天狐とは、人間に悪事を働かない善狐にしかなれず、千年以上生きて初めてなれる妖狐の最高位であり、天の使いとも言われている。

 そんな神とも神の使いとも言われる九尾の狐が、何故こんな所に居る? 何故俺たちの前に現れたんだ? 

 武器を構えて相対するも、ハッキリ言って、どう足掻いても勝てない。でも、何か違和感を感じるな・・・。


《な、なんで九尾の狐がこんな所に・・・》

《画面越しに見ても、体が震える。これって一体なんなの?》

「クッ・・こいつ、私は勿論だけど、ユキさんよりも強い」

「私たちが囮になってでも、お兄ちゃん達を逃さないと」

「ダメだ! お前達を囮になんて出来る訳ないだろう!」

「そうだよ! ユキちゃんとセイカちゃんが囮になって私達が助かったとしても、嬉しくもなんともない! むしろ一生悔いが残る! お願いだから私達を悲しませるような事はしないで」

「シュウとりんちゃんの言う通りだ。誰かが犠牲になる必要なんて無い」


 ユキとセイカが、俺たちの前出て盾になろうとするのを制し、下がらせる。こいつに勝てる自信は全く無いが、ユキとセイカだけを危険に晒すよりは、断然良い。それにさっきの俺たちのやり取り以降、目の前にいる狐からは、目に見えて魔力が小さくなり、敵意が徐々に薄れていってる。俺たちを襲うつもりは無くなった様だ。その点は安心だが、狐の目的が分からない。なので油断は出来ない。


[ほぅ、魔獣を使役しながらも、その魔獣を庇うか]

《喋った!! 何この九尾の狐。本当に魔獣なのか!?》

[何やら面白い魔力を感じたからな、地脈を通って来てみたのよ。ふむ、なるほど、お主がそうか]


 九尾の狐が俺の方に向き直り、何かを言って来た。それにしても、地脈を通ってきたと言ったな。そうか、瑞獣って地脈を利用して移動したり、魔力を感知していたのか。それは兎も角、俺たちよりはかなり格上なのは間違いないので、下手な対応は出来ない。が、言ってる意味もわからないので素っ気無い対応になってしまう。


「・・・言っている意味が分かりませんが」

[ふふ、知らぬふりをしても分かるぞ。お主とそこの魔獣二人が魔力で繋がってるのが見えるからな]

「・・何が目的なんですか」

[そう警戒せずとも良い。唯の興味本位だ。今まで魔獣を使役した人間の殆どは、魔獣をペットや奴隷の様に扱ってたものよ。お主の様に仲間だったり、魂レベルで魔力が繋がってる人間は稀だったのでな、どの様な人間か見に来たのだ]

「だったら、何故最初に敵意を露わにしたのですか?」

[危機的状況になれば、お主が使役している魔獣をどの様に扱うかが分かるだろう? そのためよ]

《なるほど、主を試してたのか》

[まあ、試したと言えば試した事になるか。すまぬな、人間]

「あ、いえ、別に構わないですから。頭を上げて下さい」

《九尾の狐が頭を下げた!! 何この状況。夢でも見てるの?》


 いきなり狐が謝罪してきた。いや、本当に構わないから。お願いだからやめて下さい。こっちが居た堪れない。

 なんか調子が狂うな。九尾の狐って言ったら、善悪はともかく、こうも簡単に人間に頭を下げないと思うのだが、この狐は簡単に頭を下げてきた。最初に見た時から思ってたんだが、本当に九尾の狐なのか? でも、あの時に見えた魔力は、俺たちよりもかなりの格上だったと思うんだが、あの違和感の正体はもしかして・・・。


[ところで、お主があの二人の主人なのだろう? 何でお主なんだ? そっちの男の方がよっぽど魅力的であろうに]

「うぐっ・・」

《主ー、お狐様にディスられてるぞー》

《やっぱりトシさんって、魔獣から見てもイケメン何だな。ある意味最強だな》

「大丈夫だよアキ。私はアキのことを一番愛してるから」

「ありがとう、りん」

《おーい、この状況を利用して何イチャラブしてんだ》

《全く、このバッカプルは本当にもー》

[お主ら、面白いな。そうだ、我も契約してやろうではないか]

「いえ、謹んでお断りさせて頂きます」


 丁重に断った。だってヤバいでしょ。この狐、多分、天狐である九尾の狐では無い。下の位である気狐もしくは地狐かもしれないが、どちらにしても格上なのは間違いない。そんな魔獣が探索者一年の俺と契約だなんて、たとえ善狐だとしても裏があるとしか思えない。


[な、何故だ!? この九尾の狐が契約してやろうと言ってるのだぞ!? 何故に断る!]

「いや、だってヤバいでしょ、神様を使役なんて」

[いやいや、我は役に立つぞ。どんな魔獣も一撃で葬ってやるし]

「それじゃ俺たちが強くなれないじゃ無いですか。強くなれない探索者なんて先が無いですもん」

[そ・・そうだ! 我は美人だぞ。何なら夜の相手・・・ヒェッ!!!]

「アキのそういう相手は、間に合ってるんで要らないです」

《ヒエェ、りんちゃんの後ろに死神が見える!》

《りんちゃん、いつの間か九尾の狐の首にナイフを当ててる》

「あー、懐かしいなー。初めてりんと会った時、うしろに般若と横に鎌を研いでる死神が居たなー」

《それ、どうやったらそんな状況になるの》

「まあ、色々あったんですよ。主にりん側に。という訳で、謹んでお断りしますね、『地狐』様」

[そんなこと言わずに、お願いだから私と契約してぇ!]


 妖狐が泣いて懇願してきた。益々持って意味が分からん。

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