第31話 九十九里ダンジョン ①
「九十九里ダンジョン〜〜!」(パチパチパチ)
《お、始まったぞ》
《待ってたよー》
「どうも、探索者のアキです。今回やって来たのは、九十九里ダンジョンです。今日はここからの配信です。なぜここかと言うとですね、草原エリアでユキ達に思う存分楽しんでもらおうと思った訳です。それで、実は動画にして投稿しようと思ったんですけど、どうせならまたライブにしようってなってですね、ライブになっちゃいましたー。そして今日の同行者はこの方!」
「りんです! 宜しくね」
「初めまして、トシと言います。短刀の二刀流です」
「ユキです。今日は人の姿で行きます」
《おおおおおおお!!!! 人の格好のユキちゃんだ!》
《可愛過ぎる。もう死んでも良い!》
《きゃーーーー! 超イケメン!! カッコいいーー♡》
そう、今日は智子ちゃんたちは来てない。俺が教えたマジックキャンセルを習得する為に特訓しているのだ。頑張ってるね、智子ちゃん。紫乃ちゃんと亜香里ちゃんは、智子ちゃんの特訓に付き合っている。ホントはりんも特訓に付き合うつもりだったのだが、智子ちゃん達に配信の方に行けと言われて、こっちに来たとの事。
ところで、なぜ神鳥が居るかというと、休みを利用してこっちに来ていたんだそうだ。だったらと思って声をかけたら、承諾してくれたという訳なのだ。
そしてユキの格好は、ショートパンツに脛当て、軽量安全靴、半袖コンプレッションインナーに胸部アーマー、格闘用ガントレットだ。今日は格闘で戦ってもらう。色々なスタイルで戦って、一番馴染むスタイルを見つける為だ。
《ところで主、刀はどうしたの? こないだ折れたでしょ?》
「あー、刀は間に合いませんでしたので、今日は徒手空拳で行きます。これがその為のアームガードと、この脛当てです。そしてヘッドギア」
本当は刀を買いには行ったのだ。行ったんだけど、やっぱり高い。手持ちのお金か足りなかった。一年前はコレで買えたんだけどなぁ。なんか、値段が高くなってる気がする。一応、武器はサブの短刀を腰の後ろに装備している。体術は学校時代から欠かさず練習してるし、内部破壊の発勁位はできる様にはなっている。あとは実戦でどのくらい通用するかだが、やってみないと分からない。なので良い機会だから、今回は体術で行こうとなったのだ。
《そういえば、こないだ綺麗に鉄山靠決めてたよね。練習してたの?》
「してましたねー。と言うか、体術は学校時代から欠かさず練習してたんですよ。武器が使えなくなった時のためにね。まさか初っ端から使う事になるとは思ってなかったけど」
《そういう下地があってこその、だったんだね。苦し紛れにしては綺麗に決めてたから》
「半分は苦し紛れですがね。さて、そろそろ時間なんで、ダンジョンに入りますかね。では、スタートです!」
合図とともに、ダンジョンに入る。ここのダンジョンは前にも言った通り、草原と砂浜のダンジョンだ。第一エリア〜第三エリアまでが草原で、第四エリア〜第六エリアが砂浜なのだ。ボスは何処に居るかというと、第三と第六の奥に居る。それぞれライオンと亀がボスだそうだ。そしてこのダンジョンは、草原が初級で砂浜が中級となっている。
草原は初球だけあってか、それなりに潜ってる人も多い。何組かのパーティとすれ違っている。当然、その度に挨拶をしている。殆どの人は挨拶を返してくれるが、中には無視する人もいた。そういう人って、他人と関わり合いたくないのかな。
《挨拶も返さないなんて、マジでなんなんだろうね》
《こういうのが巡り巡って、自分に返って来るのにねー》
「まあまあ、ルールで決まってる訳じゃないし、怒っても仕方ないよ。もしかしてなんか事情があるのかもしれないしね」
《トシくんって、なんて良い人なんだ》
《中も外もイケメンだなんて、す・て・き♡》
なんか、ちょっとヤバめな人もいるが、気にしないでおこう。神鳥も苦笑いしてるしな。
《ところでトシくんって、何処の人? こう言ったら申し訳ないけど、発音がちょっと》
「ああ、山形だよ。産まれてからずっと山形」
「俺とトシは、高校からの友達なのよ」
《て事は、主も山形出身なのね。その割には訛りがないね》
「訛りなんて、二ヶ月も暮らせば取れますよ。でも実家に戻ったら、訛っちゃうね、やっぱり。まあ、訛りも山形弁も、別に嫌じゃないしね」
《りんちゃん、山形弁分かるの?》
「お母さんの実家が山形だから、小さい頃よく遊びに行ってたんだ。だから半分くらいは分かるかな」
《じゃあ、いつでもお嫁さんに行けるねー》
「ヤダー、もう。うふふ」
《やだって言いながら、全然満更じゃ無さそうだな。これが噂のバカップルか》
第一エリアは苦戦する事なく突破。そして第二エリアに入って、ちょっと休憩することにした。なぜかというと、当初の予定通り、ユキ達を思いっきり遊ばせる為だ。白狼ズも、と思ったが、白狼ズは智子ちゃんの特訓に付き合っているので、呼ぶ訳にはいかない。なので、ユキは眷属を召喚し、それに跨って楽しそうに走り回っている。
俺たち三人は、俺を中心に草原に腰を下ろしてその様子を眺めていた。もう、なんか子供を見守る親の気分だ。公園で遊んでる親子ってこんな気分なんだろうか。
「なんか平和だなぁ」
《主、何をほざいてる。ユキちゃんの周りの魔獣は阿鼻叫喚だぞ!》
《楽しそうに走り回ってるね。魔獣を殲滅しながら》
《まさに殲滅女児天使》
「あはは。楽しい〜。連れて来てくれてありがとう、お兄ちゃん!」
《主がご主人様じゃなくて、お兄ちゃん呼びさせてる!》
「いや、だって、銀狼の時ならまだしも、女児の時にご主人様はマズイでしょ」
「あはは、通報されてアキ逮捕されちゃうねー」
そう、銀狼の時はともかく、人化した時にご主人様呼びはマズ過ぎるので、お兄ちゃん呼びさせてるのだ。最初は拒否していたが、家族だからと言って納得させた。でも、元の姿の時はご主人様と呼びたいと言うので、それは許可した。
ユキがこっちに戻って来た。疲れたのかなと思ったら、銀狼の姿に戻ってまた走って行った。ただ単に服を脱ぎに来ただけだった様だ。子供の体力ってすごいなぁ。隣の神鳥も呆れながら微笑んでる。反対側のりんは、脱ぎ散らかしたユキの服を畳んでいた。下着もあったはずだが、カメラに映らない様に巧妙に隠して畳んでいた。女性のこう言うスキルって、素直にすごいと思う。
《なんか、りんちゃんがお母さんに見えて来た》
《「本当にこの子はもぅ、こんなに脱ぎ散らかして。一体誰に似たんだか、まったく」てな感じかな》
《あー、そんな感じだねー》
《そこだけ切り取ると、ホント平和だよなー》
《やってる事は、ただの蹂躙なんだけどな》
あー、なんか眠くなってきたなぁ。ダンジョンの中は基本的に天候は変わらない。なので、ずっとポカポカ陽気なのだ。眠くもなるってなもんですわ。でも、流石に寝たらマズイよな。警戒心がなさ過ぎるし。あ、そうだ。
「ユキ、悪いんだけど眷属を一匹召喚してくれないかな。眠くなっちゃってね、その間の護衛を頼みたいんだけど、良いかな」
「良いよ、お兄ちゃん。眷属出てきてー」
ユキの呼びかけに現れたのは、白狼でも黒狼でもなく、紅狼だった。なんか、すごいの呼んじゃってるな。まあ、安心感は半端ないけど。紅狼は俺の前に来て尻尾を振っている。可愛い奴だ。
「俺は眠くないから、そこら辺をちょっと索敵してくるわ」
「え? 一緒に横になれば良いのに」
「平気平気。だから俺を気にせずに、シュウは横になってて良いよ」
「なんか悪いな。んじゃ、紅狼。悪いけど周囲の警戒、頼むな」
「ガゥッ!」
「私も横になろうかな」
紅狼の頭を撫でると嬉しそうに吠えた。本当、可愛い奴だ。神鳥はもう行ったらしく、姿が見えなくなっていた。何処まで行ったんだ? まあ神鳥なら大丈夫だと思うけど。ふぁ〜。さて少し横になるかな。
俺たち二人は並んで横になった。




