第23話 執行そしてemergency ④
足を狙ってるのか、白狼は低い体勢で勢いよく迫って来た。多分、足に噛みついて引き摺り回す気なんだろう。そう思った俺は、白狼の噛みつきを躱し、そのまま白狼を目掛けて斬り掛かった。しかし、白狼はそれを躱し、お互い向かい合い睨み合う。距離にして2m位、そこから俺の喉を目掛けて、白狼が跳躍してくる。その白狼の横顔を右手で殴りながら白狼の攻撃を躱わす。
Dウルフの上位種であり変異種ではあるが、Dウルフの能力を全体的に底上げしただけな感じなので、何とかなりそうだ。俺は攻撃を躱しつつ、反撃の機会を窺っていた。
その時、俺の上の方に空間の濃度が濃くなってくる感じがして見上げると、空間が歪んでいる。嫌な予感がしたので、咄嗟にその場から逃げると、白狼の遠吠えが聞こえた瞬間、その場に雷が落ちた。そのまま白狼は立て続けに雷を落としてくる。あれに当たる訳にはいかない。俺は必死に逃げまくった。いくらタイミングが分かると言っても、雷なのだ。近くに居るだけで感電してしまう。なので、逃げる様に離れないといけないのだ。しかし、闇雲に逃げて味方への直撃はダメだ。なので、逃げる方向にも気を付けないといけない。
しかし、俺は逃げながらある事を考えていた。あの空間の歪みから魔法が発動している。という事は、あの歪みは魔力の圧縮現象なんじゃないか、と。もしそうなら、魔法の発動タイミングや発動位置が分かる。分かれば、躱わすのは何とかなる。みんなの援護もあるし、これならいけるかもしれない。よし! 反撃開始だ!
「金魔法『ニードル』! 行けぇー!!」
折井さんが反撃の口火を切った。流石は魔法使い。全ての属性を使いこなしている。しかし、白狼はこれを躱わし、召喚の準備をしている。
「召喚来る! 俺の周り五」
召喚陣が現れる前にその場から離れ、迎撃の体制を取る。Dウルフが召喚されるが、召喚された個体は白に近い灰色だった。その色は普通のDウルフよりも強い個体だったはず。その五頭全てが俺に向かってくる。それを神鳥達が迎え撃つが、その隙を狙って白狼が俺に向かって来た。召喚は囮か! ずいぶん頭のいい個体だ。今まで普通のDウルフ四頭だったのが、強化されたDウルフ五頭なのも各人の足止めなのだろう。
俺は中段の構えから、迫って来た白狼に突きを入れる。白狼が躱し、俺の腕に噛みついてきた。籠手に金属性の強化魔法を付与しなかったらヤバかった。噛み付かせたまま俺は左手で白狼の顔を殴打する。そのまま地面に叩きつけ、その隙に下段から斬り上げる。逆袈裟だ。白狼も流石に躱しきれ無い様で、胴体の一部が斬られた。傷を負ったからなのか、白狼の動きが鈍っている。今がチャンスだ! 奴に攻勢をかける!
白狼もここが正念場と踏んだんだろう、雷を落としながら攻撃してくる。だが、俺は発動のタイミングが分かる為、全ての魔法を避けながら白狼に斬りつけていった。流石の白狼も全ては避けきれず、少しずつ傷が増えていったが、白狼も魔法だけじゃ無く、噛みつきや爪での攻撃を繰り出してくる。俺も、全ては躱わせず、段々と傷が増えていった。
白狼も俺も満身創痍だ。お互い次の一撃が最後だろう。そう思い、油断なく構えを取る。白狼が俺の喉を狙って飛び込んで来た。
「もらった!」
俺は仰け反りながらそれを躱し、腰の後ろに装備していた短刀を抜き、白狼の腹に突き入れた。
「手応えあり! 俺の勝ちだ!!」
白狼は飛び込んで来た勢いのまま、地面を転がった。俺は残心を取り白狼に近付いて行く。腹から血を流して、息も絶え絶えだ。トドメを刺そうとさらに近づくと、白狼がゆっくりと起き上がり、俺の目の前に座り込む。
ガゥ・・・
白狼は一鳴きした後、伏せの体制を取り顔を地面に投げ出す。白狼の目にも全身の雰囲気からも、すでに殺気は無く、まるで首を差し出している様だった。
お前は武士か。そう思いつつ、俺はある事を思いついた。過去に例が無い訳ではない。多くはないが成功例はある。それに、コイツは人並みに頭が良い。試す価値はある。ダメだったら仕方がない、トドメを刺すまでだ。
俺は白狼に近づき、提案する。
「お前、俺の仲間にならないか?」
ーside-白狼ー
ここは? なるほど、ダンジョンの中か。という事は、私は今ここで発生したんだな。色々な知識が頭にあるのもダンジョンの仕業なんだろうな。まあ良いか。それよりも目の前にいる人間だ。私は知ってるんだ、人間は私たちを殺しに来るって。だったら、やられる前にやってやる!
まずはあの死体を処理しないとね。眷属たち、お願い。
よしよし、ちゃんと処理できたね。次はあの六人だよ。でも後ろの背の高い人間はダメ。あれは無理。それじゃ眷属たち、行けー!
あ、あれ。何で倒せないの?眷属達がやられた!? くっ、次の眷属、出て来て。よし! やっちゃえー!
ま、また全滅!? 何でー? ん? あの人間、眷属の出現位置がわかってる? やっぱり分かってるー! あの人間はヤバい。何とかしないとこっちがやられる。さっきも言ったけど、やられる前にやってやるー!
足を狙って・・避けられた? あ、斬りかかって来た。避けないと! 人間の弱点は確か喉だったはず、よし!喰らえー! 痛ー! 顔を殴るなんてヒドイ。くっ、噛みつきも爪も躱される。だったら・・・雷だー! って避けるなー。くそー!喰らえ喰らえ喰らえー!・・・・当たんない。何でー?
アイツの仲間が魔法で針を打って来た。でも当たらないよ!もーアイツら邪魔。ちょっと強い眷属達、アイツらの足止めして! ふふふ、これで一対一だ。行くぞー!・・ヤバ! 突きしてきた。フン、でも避けるもんね。このまま腕に噛みついてやる。んー、防具に強化魔法がかかってて噛み切れない。痛! また顔を殴ったー。あ、ヤバい下から斬りかかって来た。グッ、斬られた! でも傷が浅い。動きが鈍くなるけど、致命傷じゃない! このまま押し切る! 魔法が・・・全っ然当たらない! 何なのホント! あの人間、化け物なの!? でも魔法は躱されても、噛みつきや爪は効いてる。もう少し・・。
・・もう、次の一撃で限界・・。あの人間もそうみたいだ。次の一撃に全てを賭ける! 喰らえ! 喉元くらい着き! あ、後ろにのけぞって躱された!? ヤバイ。お腹が無防備だ。 あ・・・手に武器・・。キャアァァァー・・・。
やられちゃった。これはダメ、致命傷だ。お腹からの血が止まらない。負けちゃった。あの人間、すごく強かった。生まれたばかりの幼体と言っても、この私『シルバー』を倒すくらい、強かった。起きて勝者を讃えないと。
人間が近づいて来た。よっと・・・起きるのも辛いな。おめでとう、人間。とても強かったよ。さあ、私の首を刎ねなさい。悔いはない。無いけど、でも、一度でいいからお日様の下を駆け回りたかったなぁ。でも負けちゃったから、仕方ない。私は覚悟を決めたんだ。
・・・なかなか刎ねないな。何で何だろう。なんかこっちを見てる。なんか考えてるっぽい。何を考えてるんだろう。 ん? 何か言って来たぞ。え? 仲間にならないか、だって?
・・・・え? 私、助かるの? 有難うございます! ご主人様ぁ! このシルバー、一生付いて行きます!
〜 〜 〜 〜 〜
「俺のいうことを聞いて、周りに迷惑をかけないってんなら、回復する様に頼んでやる。その条件での契約でどうだ? もし了解するなら、俺の手にお前の手を乗せろ」
所謂、お手、だ。多分乗ってくるだろう。仲間の提案をした時、耳と尻尾が反応したし。大丈夫だと思う。
手を差し出した瞬間、速攻で載せて来た。やっぱりコイツ、人の言葉を理解しているし、人並みに頭が良く、ハッキリとした人格・・狼格?を持っている。ホントは死にたくないんだろう。
「折井さん、悪いけど、コイツを回復してくれないかな」
「本当に大丈夫なの? 治った瞬間、襲いかかってくるとか」
「その時は、織田さんに対処してもらう。いいですか? 織田さん」
「うん、良いよ。任せて」
「それじゃ折井さん、お願い」
折井さんが白狼を回復させていく。白狼の傷が目に見えて治っていく。やっぱり折井さんの魔法の才能はすごいな。まだ探索者になってないのに、全属性を使いこなすんだもんな。
そうこうしてるうちに、白狼が全快した。白狼が俺に駆けて来て飛びついた。一瞬焦ったが、いきなり顔を舐めまくってきた。なんかくすぐったい。
「コラ、やめろって。くすぐったいから」
「懐かれまくってるー。何? 武内くんってタラシなの?」
「ついに、りんだけじゃ無く魔獣をもタラシ込んだのね。もしかして、ハーレムを作るの? 私もハーレムに入っちゃうの?」
「アキがそんな事する訳無いでしょうが!このエロ女騎士」(スパーン!!)
「この子すごいモフモフ! 気持ちいい・・・あれ?この子、女の子だ」
「やっぱりハーレム・・いえ、何でもありません」
「ん? 体毛の根本の色が、ってちょっと!この子白狼じゃ無い! 銀狼だよ!」
「「「「「 え? マジで? 」」」」」
「がうっ」
ぎ、銀狼って確か、上から三番目のランクだったはず・・・。しかも変異種って・・・。そ、そんな凄いやつ、ペットにしちゃったけど、良いのかな。ま、まあ、あっちも望んでたし、良いかぁ。
戦闘シーンの描写って難しいですね。何度も書き直しました。




