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配信始めました 〜ダンジョン編〜  作者: ばっつ
第一章 そうだ 探索者になろう
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第22話 執行そしてemergency ③

「・・・!・・キ!・・・・しっかりして! アキ!!」


 目を覚ますとりんに抱き抱えられていた。りんの顔が涙でグシャグシャだ。周りを見ると、みんな俺が目を覚ましてホッとした顔をしている。かなり心配かけたみたいだ。でも、


「りん、離れて。俺、今汚いから、汚れる・・」

「そんなのどうでもいい! グスッ・・そんな事より心配したんだから! いきなり嘔吐して、その場に倒れ込んで・・・私、心配したんだから!! ううぅ・・。死んじゃうって、アキが居なくなっちゃうって・・そうなったら、私は」


 体を起こし、改めてりんを抱きしめる。そして、りんも腕を俺の後ろに回してくる。


「心配かけてごめん」

「いい。無事で居てくれたら、それだけでいい」


「あの時、りんと神鳥に声を掛けられて我に返った時、自分の手を見ても実感が湧かなかった。でもアレを見たら、急に現実に引き戻された感じになって。そして、耐えられなかった。覚悟してたつもりだったけど、全然ダメだった。急に恐怖や嫌悪感が押し寄せて来て」


 今でも思い出すと手や体が震える。それどころか、呼吸も乱れ、息苦しくなる。怖い・・無性に怖い。そんな俺をりんは強く抱きしめ、


「大丈夫、大丈夫だよ、アキ。アキの辛さ、苦しみ全部、私も背負う。ずっと側にいて、アキの全てを私も一緒に背負う。二人で背負えば、半分で済むでしょ・・だから、大丈夫だよ、アキ、ね」


 それを聞き、俺はりんの胸に顔を埋め泣いた。声を出して泣いた。涙が止まらなかった。りんはそんな俺の頭を撫でていた。まるで子供を安心させるかの様に、優しく撫でていた。

 暫くして落ち着いた俺は、急に気恥ずかしくなり離れた。


「ご、ごめん。いきなり、りんちゃんに抱きついて泣いちゃって。はは、何やってんだろうな俺は」

「ふふ、呼び捨てでいいし抱き合うのも今更でしょ。私もアキって呼び捨てだし」

「あー、まー、そうですね」


 お互い見つめ合って、そしてお互い笑ってしまった。


「イチャつき終わったー? ほんとバカップルっていつでも何処でも、イチャつきまくるよねー。何? 彼氏のいないわたしへの当てつけー?」

「あーあ、智子茶化しちゃったのね。黙ってればもしかしたらキスをして、そのあと子作りを」

「やるわけないでしょー。そのエロ発想はやめなー、紫乃ー」(スパーン!)


「あの漫才コンビは置いといて、どうだ落ち着いたか、シュウ」

「ああ。りんのお陰で大分な。今の所は」


 一人になった時は分からないが、実際りんのお陰で、今はかなり落ち着くことが出来た。本当にりんには感謝している。りんが居なかったら、多分俺は心が病んでたかもしれない。そうなったら、探索者どころか、普通の生活すら送れなかっただろう。俺の人生、詰みだ。でも、りんが俺を引き上げてくれた。ずっと側にいて、一緒に背負ってくれるって言ってくれた。感謝しても仕切れない・・・? ずっと? 一緒に? あれ? これって・・。


「りんさん! プロポーズした感想はどうですかー?」

「武内くんの夢が、正夢になりつつあるよねぇ。ハネムーンベイビー宜しくね。出来れば詳しく!」

「落ち着けエロ女騎士。兎も角、あとは冬紀くんと美涼ちゃんだね」

「「「楽しみー」」」

「あうあう・・・」


 案の定、りんはいじられまくっていた。


「シュウ、助けに行かなくていいのか?」

「行けると思うか? 助けるどころか、新たなネタを提供しに行くだけだろ」

「まあそうだわな・・・? なんだ・・?」

「神鳥、どうし・・! 四人とも! ここから動くな!!」

「「「「 !! 」」」」


 坂井悠太の死体の周りの空間が歪みが大きくなり、そこから魔獣が発生した。発生した魔獣はDウルフだった。これなら対応できるな。そう思っていたが、いつものDウルフとは違う。よく見ると毛の色が違う。普通はグレーなのだが、このDウルフは白だ。そして一回り大きく、背中の一部が青い。これはまさか、属性持ちの白狼か?


「Dウルフホワイト。通称『白狼』ですねぇ。ここのダンジョンだと八階層辺りの魔獣ですか。でも、普通の白狼とも、ちょっと違う様ですね」

「上位種、いや突然変異って奴か」

「多分ですけどね、山形さん」


 魔獣の突然変異は、ごく稀に起こる現象で、どんな能力かは実際見てみないとわからない。力が上がったり、素早くなったり、見た目だけで何も変わらなかったりと、様々なのだ。


「織田さん、あの白狼、もしかして木属性の白狼じゃありませんか?」

「よく見てますね、武内くん。その通りですよ」


 ウォォォォーーン・・・


 遠吠えすると白狼の周りが輝き、Dウルフが四頭召喚された。この個体は召喚タイプで、所謂リーダー種と呼ばれる知能が発達しているタイプだった様だ。

 召喚されたDウルフは、坂井悠太の死体に喰らいついていった。


 「見るな!!」


 咄嗟にりんの目と耳を塞ぐ様に、頭を抱き抱える。魔獣に人が喰われてる所を見せないためだ。堀田さん達は神鳥にしがみ付いて、見ない様にしていた。その中で、織田さんだけは冷静に眺めていた。多分、見慣れた光景なのだろう。

 Dウルフ達は死体の肉を引きちぎり、骨を噛み砕き、内臓を引っ張り出して、貪り食っていった。これはかなりエグい光景だ。人のことを言えないが、トラウマ案件だ、確実に。

 死体を粗方食い尽くしたDウルフは、俺たちの方に向き直した。今度は俺たちを獲物と認定したらしい。Dウルフだけなら、俺たちでも対処できる。でも、白狼もとなるとどうだろう。


「織田さん。織田さんならあの白狼を倒せますか?」

「ええ。あの程度なら一人で十分ですね」


 やっぱり織田さんは高レベルの探索者でもある様だ。こんな飄々として、20代半ば位なのに、どれだけの修羅場を潜って来たのか、想像に難くない。

 Dウルフの雰囲気が変わった。来る。


「来るぞ! 迎撃態勢をとれ! 智子ちゃん! 木属性なら弱点は金属性だけど、土魔法と水魔法はダメだ! まずは火魔法で牽制だ!」

「はい!」


 走り迫ってくるDウルフに火魔法を打ち込む。しかし、Dウルフ達は素早さ特化らしく、ギリギリ躱してくる。

 襲いかかってくるDウルフをタンク役の堀田さんが受け止めて、その隙にりんが槍で攻撃していた。折井さんは魔法を打ち込み、攻撃だけじゃ無く、相手の進路を制限したり邪魔をしたりして、戦いやすい状況を作っていた。宮藤さんは両手にナイフを持って戦場を駆け回っている。と言っても、適当に動くのでは無く、折井さんの魔法のサポート的な感じだ。


「紫乃! 右盾! りん! 正面槍! 火魔法『炎の壁』!! 亜香里は、弱ってる個体にトドメ!」

「「「 了解!! 」」」

 

 このパーティは折井さんがリーダー兼指揮官だったみたいだ。後方にいるから、全体が見えやすいのと、判断力も高いんだろう。そして、かなり連携の練習をしたと見えて、連携に澱みが無い。信頼し合ってるんだと見て取れる。まだ探索者じゃ無いから、ダンジョンには入ったことは無いはずなので、これはすごい事だと思う。

 俺たちの方にも、2体のDウルフが向かってきた。それの攻撃を躱しつつ体をDウルフに向き直り、そのまま胴体を真っ二つにする。神鳥も同様に倒していた。

 白狼がまた召喚するために遠吠えをしようとしていた。その時、空間が濃くなる様に感じ、その方向を見ると空間が歪んで見える。遠吠えが来た。その直後歪みが大きくなり、召喚陣が現れDウルフが出現した。これはもしかして・・。

 第二陣を倒し、白狼が三回目の召喚をしようとして、


「神鳥、お前の前に召喚される! そしてりん達の左右と後ろに召喚されるぞ!!」


 直後、俺が言った所に魔法陣が展開されて、Dウルフが召喚された。しかし、召喚場所を事前に知ってれば、対処は楽だ。現れた直後に倒している。


「次は神鳥の右! そしてりんの前! 堀田さんの右! 宮藤さんの後ろ!」

「「「「 は、はい!? 」」」」

「これは・・・武内くん、魔力の流れが見えてるんですかね。さっきから的確に出現場所を言い当ててる。召喚陣が現れてからなら兎も角、現れる前にとはね。覚醒したのかな? 美桜さんに報告ですねぇ」


 数度、召喚されただったDウルフを倒すと、白狼は召喚をやめた。そして、俺の方に向き直り、唸り声を上げる。この中で一番厄介な敵と認定された様だ。俺も中段の構えで対応する。基本の構えだが、相手のどんな攻撃でも対応しやすい。初見の相手には最も理にかなった構えだ。

 

 暫く睨み合ってから、白狼の方から動いた。

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