第12話 探索者になるには?⑧ 卒検=ダンジョン攻略?
「では、四日後に卒業検定を行います。今まで習った事をしっかり復習して準備をして来て下さい。当日は私と近接戦闘専門の吉田先生が付き添いになります」
ついにこの日が近づいて来た。卒業検定、通称、卒検だ。あ、ハイ、知ってますね。ダンジョン学校の卒検は、ダンジョン攻略だ。と言っても深層の様な深い所までは潜らず、表層の浅い所での活動となる。基本的には、1〜2階層辺りを潜って、ちゃんと魔獣と戦えてるか、探索は上手く出来ているか等を付き添いの先生が確認して、全員の合格が出れば卒検合格となり、仮免許が発行される。
そして、通常は近くのダンジョンに潜るのだが、この学校は自前でダンジョンを所有している。普通はダンジョンを所有する事は禁止されているのだが、ここの場合は、学校を作った後にダンジョンが発生した事、発生したのがダンジョン学校の敷地内だった事、そしてダンジョン自体がそんなに深く無いことで所有を認められている。これは全国的にみても珍しいケースだ。
ここの学校が隠れた人気なのもこれが理由だからである。しかし、HPにも載せて無いのに何故みんな知っているのか、それはここの卒業生が方々で薦めているからだ。
例えば、“どこか良い学校無いですかね”と聞かれて、“だったらここの学校はがいいぞ。自前でダンジョンも持ってるしな”となり、更にまた聞かれて、といった具合に広まっていったのである。
でも、一部にしか広まってない理由は、探索者が自発的に広めていないからだ。何せ、聞かれないと答えない。当然、動画でも言ってない。なので、隠れた人気学校、知る人ぞ知る有名校、などと言われているのだ。何故言わないのか、それは永遠の謎である・・・。
実際は『学校自体がそんなに謳ってないんだから、俺たちが喋りまくるのもな?』て事なんだけどね。
ちなみに、神鳥の家の近くにあるダンジョン学校もここのケースと同じで、ダンジョンを所有している学校なのだ。ほんと、なんでこっちに来たんだろう?
「お、シュウ。卒検に向けての勉強か?」
資料室で本を読んでいたら、神鳥が声をかけて来た。神鳥も勉強をしに来たらしい。同じ様に資料室で勉強してる人が結構いる。みんな卒検に向けての勉強なので、資料の争奪戦が繰り広げられていた。
「うん、ここのダンジョンってどんな魔獣が出るんだろうなってな。知ってれば対策立てられるし」
「まあそうだな。んで? どんな魔獣出んの?」
「まず一階層は・・・」
一階層に出てくる魔獣は、ネズミの魔獣とコウモリの魔獣が主に出てくる。それぞれ名前が『Dマウス』『Dバット』である。ちなみに『D』はダンジョンの『D』だそうだ。なんとまあ簡単な名前だ。面倒だし覚えやすいと言う理由らしい。
二階層は、ゴブリンと狼の魔獣『Dウルフ』が出てくる。人型の魔獣という事で、ここが正念場となるらしい。人型、つまり見た目が人っぽいのだ。人殺しをしていると錯覚してしまって、精神的に参ってしまい、脱落する者も多いとか。Dウルフは素早いのと複数で出て来た時の連携が厄介と書いてある。
三階層は基本的に二階層と変わらないが、たまにウサギの魔獣『Dウサギ』が出てくると書かれていた。・・・ウサギなんだ・・・ラビットじゃ無いんだ。まあいいけど。
その他に、猫の魔獣や猪の魔獣、羊の魔獣なんかが出て来て、最下層の十階層にボスのオークが出現する。ボスを倒してもダンジョンが無くなる訳ではない。一定期間ボスが居ないだけで、期間が過ぎると復活する。
ちなみに、ここのダンジョンにはスライムは出てこない。スライムは最弱魔獣と思われているが、とんでも無い。あれが出て来たら、初心者はまず勝てない。中級者でもやっと勝てる位に強いのだ。
何故か。まず物理攻撃が効きにくい。そして魔法も効きにくい。体がゲル状なので、炎に耐性があり、水魔法は意味がない。いや無くはないんだけど、かなり高度な技術が必要になる。氷魔法もゲル状の体には耐性がある。ゲルはなかなか凍らないのだ。じゃあ雷は? となるが、水が電気を通すのは不純物が混ざってるからであって、純水は絶縁体である。よって雷魔法こそ意味がない。
そして攻撃する時は素早く動き、窒息させて来たり、強酸で攻撃して来たりと非常に厄介なのだ。有効打となり得る攻撃は、発勁の様な内部破壊出来る技位なのだ。
この様にスライムを倒すのはかなり大変だ。が、移動速度が遅いのと、実は結構温厚な魔獣だったりする。なので、怒らせなければ、なんの問題も無かったりする。
「なるほどね。こうやって見ると、確かにそこまで危険なダンジョンじゃ無いな」
「じゃ無かったら、所有許可なんか降りる訳無いしね」
「注意するべき点は、ネズミとゴブリンか」
「ゴブリンは分かるけど、なんでネズミ?」
「小さくて素早いからだよ。シュウの刀じゃ大変じゃ無いか?」
「確かに」
神鳥と二人で資料を見ながら、あーだこーだ言いながら魔獣の対策を考えていった。やっぱり注意するべき、と言うより面倒なのがネズミとコウモリ、そして注意では無く覚悟が必要なのがゴブリンだろう、と言う結論になった。
ネズミ対策としては魔法が一番楽だと言われている。飛びかかって来れば、手持ち武器でも何とかなるが、猫くらいの大きさのネズミが地面を走って来たら、手持ち武器では大変なのだ。ゴルフクラブだったらいけるかな? コウモリも素早いからな、小刀かナイフ辺りを準備した方がいいかもしれない。あとは・・・。
そんなことを話し合いながら、神鳥がふと時間を見る。
「あー、もうこんな時間か。そろそろ帰るか」
気がつけば夕方になっていた。午後一から始めて夕方五時。実に四時間は経っていた。流石に疲れたわー。
「そうだなぁー(ふぁ〜)。まだ四日あるし(あぁ〜)、続きは明日以降でいいかー。ふぅ〜」
「欠伸をしながら喋るんじゃ無いよ」
「あー、悪い悪い」
疲れると欠伸出るよねー。生理現象だもん、仕方ないよねー。んじゃ、そろそろ帰るかなー。
「じゃあな、神鳥。気をつけて帰れよ」
「おう、シュウもな。じゃあな」
校門で別れて、お互い帰路につく。もちろん自転車だ。家までは大体6kmはあるし、学校は麓にあるとっても、1km位は上りなのだ。だから学校に行くだけでも疲れる。が、俺は自転車も好きなので、それほど苦にはなら無い。むしろ楽しい位だ。んー、自転車の配信も良いかもな〜。配信内容は、『ダンジョン編』と『自転車編』か。良いかも。自己満だけど、良いかもなー。考えておこう。
ちなみに運転免許は、この前仮免が取れたけど、免許が交付される場所がダンジョン免許と一緒なので、二回行くのも面倒だし一緒に取ろうと思っているから、まだ運転はできない。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
〜 〜 〜 ♪
夜、部屋で寛いでいると携帯が鳴った。ん? 知らない番号だな。う〜ん、どうしようかな。まあ一応出てみるか。
「もしもし?」
「あ、小野寺と言いますけど、武内さんの携帯で合ってますか?」
「小野寺さん!? なんで番号知ってんの? って神鳥に決まってるか」
「アキくんで合ってた。良かった〜。間違ってたらどうしようって、緊張してたんだ〜。うんそう。智子経由で神鳥くんから。もしかしてダメだった?」
小野寺さんからだった。神取の奴め、オシエチャッタノカー。ショーガナイナー。は!? イカンイカン顔が緩んでしまった。
「いや、小野寺さん達なら知らない仲じゃ無いし、全然大丈夫。で? どうしたの?」
「いやぁ、うん、そのぉ、え〜とぉ・・・あ、あのね・・」
「?」
「ああ、明日さ! あ、あの・・遊びに行かないっ?」
遊びの誘いだった・・・え? マジで?
元々、同じ世界の同じ時間軸の中で、別の主人公を作って『自転車編』を書く予定でしたが、同じ登場人物で『自転車編』を書くことにしました。理由は、この六人、書いてて楽しいからです。
いつ書くかはまだ決まってませんが、そのうち別作品として投稿しますので、興味のある方はよろしくお願いします。




