9:想いを語る
それから私の話をある程度すると、話題の中心は他の子に移って、また他の子に移って……
という感じで、たっぷり恋バナをすることが出来た。
私がいた席は大きめのテーブルだったので、人が入れ替わったりして男子も混ざり始める。
初めはぎこちなかったりしたけれど、みんなでお酒を飲んで、一緒のものを食べて、笑い合っていくうちに、なかなかクラスの子たちと親睦を深められた気がする。
楽しいなぁ。
と思いながらお手洗いから帰ってくると、私が座っていた席は誰かに埋められていた。
「うーん……どこに座ろうかな」
キョロキョロ辺りを見回していると、同じような状況のセシル君と目が合った。
すると彼が、笑いながら冗談っぽく言う。
「モテすぎて困ってるから、隣に座っていい?」
よく話を聞くと、セシル君はさっきまで女子たちに囲まれていて、そこから逃げ出してきたようだった。
「フフッ。いいよ」
私は口元を緩めて笑った。
お酒が入っている分、いくらか柔和な表情を浮かべやすい気がする。
私たちは、人が少ない端にある席に座った。
ウェイターを呼んだセシル君が、飲み物の注文を私の分もしてくれる。
「ティアラは何か食べたいものある?」
「ううん。今はお腹いっぱいだから。ありがとう」
さすが女子にモテる人。
気配りが上手。
私は少し感心しながら、ウェイターと話すセシル君を眺めていた。
注文し終えた彼は、熱心に見ている私を不思議そうに見返した。
「何?」
「モテる人はやっぱり違うなーって」
「……だろ? でもティアラほどじゃないよ」
「??」
何を言っているのか分からなくて、私は眉をひそめた。
困惑した表情を浮かべ、セシル君に向ける目線で説明を求める。
それを受けたセシル君が楽しげに喋り始めた。
「さっきシド先輩と付き合ってないとか話してただろ? ティアラを気になってる奴らが、興味津々で聞き耳を立ててた」
セシル君がニッと歯を見せてイタズラっぽく笑った。
「…………」
「それで付き合っている人がいないって安心してからの、好きな人に告白した話で一気に落胆した様子……見てて心が痛んだね」
セシル君がわざとらしく悲しそうな表情をする。
「本当に? 大袈裟に言ってるだけで嘘っぽい……でも話が全部聞こえていたのは、恥ずかしいな」
私が照れてうつむいている時に、ちょうど注文した飲み物が届いた。
受け取ったセシル君が、私の分のグラスを差し出しながら聞いてきた。
「そんなティアラの好きな人ってどんな人? 今後の参考までに教えてよ」
セシル君が爽やかに笑う。
私はグラスを両手で受け取って、一口飲んでから答えた。
「……優しくって穏やかで、年上の素敵な人だよ」
素直に答えると、勝手に頬がポポポッと赤く染まる。
思わず両手で持つグラスの中を見つめた。
オレンジ色のお酒の、甘い香りが鼻をつく。
照れて顔を上げられない私の耳に、セシル君の声が届いた。
「返事待ちって聞いたけど、どうなりそう?」
「…………分からないの。実はその人には別に好きな人がいるんだ。私なんか眼中に無かったと思うし……」
私はそこまで言うと、顔を上げてセシル君を見た。
酔っているからか、リオさんへの気持ちがどんどん溢れてしまう。
だからかな。
普段ならわざわざ人に言わないことも、つい口に出してしまった。
「ただそばにいられれば、十分なんだけどな」
私は頬を上気させながら、ふにゃりと笑った。
その途端に、セシル君が顔を真っ赤にして、バッと勢いよく顔を背けた。
「う、初々し過ぎて、俺まで照れてしまう……」
そしてブツブツとなんか言っていた。
「え? 初々しい……子供っぽい?? もっとグイグイいった方がいいのかなぁ?」
セシル君の様子なんかお構いなしに、私は前に屈んで彼を覗き込んだ。
まだ赤い顔をしたセシル君が、目線だけを私に向ける。
「……例えば?」
「付き合って欲しいってせまるとか? ……リオさんが思いを寄せる女性より、絶対私の方がリオさんを幸せにするもん」
とうとう名前まで出してしまった。
なかなか酔っている私は不貞腐れながらも、またグラスのお酒を一口飲んだ。
「……せまる時は、抱きついて押し倒してしまえばいいと思う」
セシル君がちょっと真顔でアドバイスしてきた。
そこの話広げる?
って思っていると、突然背後から声がした。
「ちょっとそこ! うちのティアラに何教えてるの!?」
振り向くと、エルシーがグラス片手にセシル君を指差していた。
「エルシーも一緒に話そうよ。座って座って」
「別に俺は……ティアラの告白が上手くいくように、男目線でアドバイスをだな」
「ティアラはそのままで十分可愛いじゃない。私と同じような変なこと吹き込まないで!」
やいやい言いながらエルシーが私の隣に座った。
酔っている私は彼女の腕に抱きつく。
「可愛いとか、エルシーしか言ってくれないよ〜。いつもありがとう」
「うっわ。やば過ぎて鼻血出そう。ティアラがもし接待するお店のお姉さんなら、お金を湯水のように注ぎ込むわね。そんなに持ってないけど」
エルシーがいつもの調子で喋る。
けれどテンションが少し高めだから、彼女も酔っていそうだ。
そしてエルシーは、セシル君をキッと睨むように見た。
「ほら、見なさいよ! ティアラからこんなこと言われたら、男も骨抜きになるでしょ!? 色仕掛け系まで習得させたらヤバいって!」
「あ、うん……そうだな」
タジタジになっているセシル君が、何とか答えていた。
酔ってフワフワしてきた私は、思ったことをスルスル喋った。
「でも、リオさんにしかしないから大丈夫だよ〜」
「……本当に大好きだね、リオさんのことが」
エルシーが苦笑しながら、腕に抱きついている私の頭をヨシヨシッと撫でた。
前髪がちょっとだけふわりと持ち上げられた感触に、思わずリオさんが前髪をかきあげて、おでこにキスしてくれたことを思い出す。
私は自分のおでこにそっと手を当てた。
「……うん」
リオさんを想って頬を赤く染めながら、優しく柔らかく笑った。