8:花火と告白
花火が打ち上がった音だったんだと分かると、私たちの体から力が抜けた。
2人して夜空に描かれた火の花たちに、夢中で見惚れる。
色とりどりの光の粒が、黒いキャンバスを埋め尽くす。
大きな花を咲かせたと思ったら、瞬いては儚く消えていく……
遠くの人だかりのある路地では、花火が打ち上がるたびに歓声が上がっていた。
私はふと隣のリオさんを見た。
綺麗な顔立ちをした彼の顔を、こんな至近距離で見るのは初めてだ。
私の大好きなその穏やかな瞳は、ずっと夜空に向けられている。
次に手がかけられてる肩をチラリと見た。
咄嗟に私を守ろうとしてくれた、大きな手。
心の中が好きで溢れた。
それと同時に花火祭りのジンクスが脳裏をよぎる。
〝打ち上がった花火を2人で見た後にキスをすると、その2人は永遠に結ばれる〟
ーー私はリオさんの頬にキスをした。
「え?」
驚いたリオさんが私を見る。
私は顔を真っ赤にしながら、意を決して告げた。
「大好きです。リオさんがずっとずっと好きでした」
「…………」
リオさんも顔を真っ赤にした。
「あの、リオさんに好きな人がいるのは分かっています。けど……私じゃダメですか?」
私は不安から、眉を下げて俯き加減でリオさんを見上げた。
リオさんから「う゛っ」というようなくぐもった声が聞こえたかと思うと、軽く項垂れた。
それから何故か深いため息をつくと、気を取り直したかのように顔を上げて私を見た。
「それって僕と付き合いたいってこと?」
リオさんが優しく笑いながら首をかしげた。
抱き寄せられている肩の手に、力が入った気がした。
「…………」
私はゆっくりと、だけど力強く頷いて、潤んだ瞳でリオさんを見つめた。
緊張と不安で、ジンワリ涙が浮かんでしまう。
そんな私の顔を夜空の花が照らしては、また消える。
「〜〜〜〜っ」
リオさんが頬を赤くしながら、歯痒そうな表情を浮かべた。
「??」
不思議そうに見上げる私の前に、リオさんが立つ。
「ちょっと考えさせてくれる?」
リオさんが切なげな表情を浮かべて、弱々しく笑いかけた。
…………
大抵の人は『ゲート』の存在なんて信じていない。
だからネーネが仮の姿だったことを、いきなりは受け止めきれないよね。
しかも、占いのために恋愛相談をしていた相手に告白されるなんて、そりゃあビックリするだろうなぁ。
心ではそう分かっていながらも、リオさんの返事を聞いた私は、シュンと俯いてしまった。
リオさんは、そんな私の前髪を撫でるように優しくかき上げると、おでこにキスを落としてくれた。
「え?」
今度は私が驚いて顔を上げる。
リオさんが慈愛に満ちた目でほほ笑みながら、私を見ていた。
「ティアラの気持ちは嬉しかったから、そのお返し」
私は耳まで真っ赤にして、照れて顔を伏せた。
私の幸せな気持ちを写したように、夜空にひときわ大きな赤い花が煌めいた。
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今日は以前、アイリスさんが誘ってくれた打ち上げの日だった。
こじんまりしたビアガーデンを、クラスのみんなで貸し切らせてもらっている。
ちょうど、各自が好きな飲み物を手に、乾杯が終わった所だった。
「お疲れー」
「試験結果どうだった〜?」
「やっと夏季休暇! 何してる?」
わいわいガヤガヤ、みんなで楽しんでいるところに、ひときわ大きな悲鳴のような歓声があがった。
「「「えぇ〜!?」」」
アイリスさんを中心とした、ちょっとした女子のかたまりだった。
その中に私とエルシーも混ぜてもらっている。
「付き合ってなかったの!?」
私の隣に座る、驚いた顔のマリーさんに聞かれた。
「シドとだよね? 付き合ってないよ」
私も目を見張りながら、首を横に振る。
「でも、よくシド先輩が呼び出しに来て、出かけるから……」
少し遠くの席から声が上がる。
私はその子の方をゆっくり見つめて答えた。
「シドは私のお姉ちゃんの恋人なの。それで、お姉ちゃんへのプレゼント選びとかに付き合わされてるだけなんだよね」
きつく見えないように、眉を下げて苦笑を浮かべる努力をした。
「「「!?」」」
今度は言葉にならない声が上がった。
隣のマリーさんが驚きすぎて、口をパクパクさせながら聞く。
「え? じゃあティアラは今フリー?」
彼女とは反対側の隣に座るエルシーが、身を乗り出して答えた。
「それがずっと好きな人がいて、最近告白したんだってー。でもその人の返事が、わたし的にあり得ないの……」
そこで言葉を切って、エルシーが私を見た。
マリーさんや他の女子も私を見つめる。
大勢に見られて流石に照れてしまった私は、頬を薄っすら赤くして答えた。
「……考えさせてだって」
「「「え゛ー!?」」」
盛大なブーイングがあがった。