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4:ティアラの学校生活


 暑い真夏の日差しが降り注ぐ初夏。

 私はヨリスモア学校のとある教室で席についていた。

 もう少しすると、次の授業が始まる。

 


 私はここの1年生。

 今から始まる授業を受ければ、前期のカリキュラムが終わる。

 試験が控えてはいるけど、それが終われば夏季休暇だ。


 魔法で教室内は涼しくなっているけれど、ちょっと暑くて白いワンピースのスカートが足にまとわりつく。

 暑いだろうと思って、長い髪を高い位置で1つにまとめていて良かった。


 そんなことを思っていると、エルシーが教室に入ってきた。

「……ティアラおはよー」

「おはよう、エルシー」

 エルシーは、暑くて少しへばっている様子だった。

 私の隣に座ると「ふぅ」と一息ついている。


 彼女は私の数少ない友人の1人。

 ちょっと変わっているけれど、とっても良い子だ。


 しばらく涼んだエルシーが、いつもの元気を取り戻して話しかけてきた。

「ねぇねぇティアラ」

「なあに?」

「暑いからってそんな髪型したら、うなじが丸見えじゃん。色っぽ過ぎるっ!!」

「フフッ。エルシーもお揃いにしてあげようか?」

 私は持っていたヘアゴムをエルシーに見せた。

「えぇー、ティアラと並ぶと負けてるのが丸分かりに? ……でもお揃いはしたいー」

 エルシーがニコニコと背中を向ける。


「エルシーも可愛いよ」

 私は少しだけ口元を緩めて言った。

 何故かティアラの顔では、ニコニコすることが出来ない。

 ちょっとほほ笑むだけが、いつもの笑い方だった。


 授業までまだ時間があるから、私はいそいそとヘアブラシを出してエルシーの髪を梳いた。

 教室の1番後ろに座っているから、他の人の迷惑にもあまりならないだろう。

 まだ生徒がそんなに来ていないし。


 大人しく髪を梳かれているエルシーが、背後の私に向かって聞いた。

「それで、この週末はティアラの好きな人に会えたの?」


 彼女にはリオさんのことを相談していた。

 けれどネーネとして会っていることは知らない。

 私がネーネに変身出来ることも秘密にしていた。

 私がノリノリで恋占いをしていることを知られるのが、恥ずかしかったからだ。


「会えたんだけど……リオさんは好きな人がいるから、やっぱり私なんか眼中にないよ」

「そのリオさんは目が悪いのかな? ティアラは美人なんだから、もう少しニコニコしてせまれば、男なら誰でもメロメロになるのに」

 背中を向けているエルシーが、プンプン怒っていることが手に取るように分かった。


「そう言ってくれるのはエルシーだけだよ。ありがとう」

 私は優しく彼女の髪をくくりながら答えた。

「ティアラは喋ってみると、とっても話しやすいのに。でも、この魅力をみんなに知られたくない。みんなのティアラになっちゃう」

 エルシーがブツブツうなる。

「そんなこと無いよ。……私って近寄りがたいから、エルシーの方がモテてるよね」


 エルシーはこの通り明るくて元気な女の子。

 周りにもその元気さと笑顔を振りまくから、男子からもよく喋りかけられる。


 そんな彼女には2年前から付き合っている彼氏がいた。

 エルシーは彼氏さんをとても大事に思っていて、他校に通う彼の話を私にもよくしてくれていた。




 髪をくくり終えた私は「出来たよ」と声をかけた。

 エルシーがくるりと振り返って、満面の笑みを私に向ける。

 束ねた髪がふわりと舞った。

「ありがとー」

「どういたしまして」

 私はまた口元だけでほほ笑んだ。


 本当はエルシーみたいに笑いたいのに、うまくいかない。

 ネーネの時はあんなにニコニコできるのに……


 私が落ち込んで暗い顔をすると、エルシーが騒ぎ出した。

「あぁ。憂いてるティアラも素敵なんだけど、よく知らない人から見たら機嫌悪そうに見えるかも……ほら、楽しいことを考えようよ。また好きな人に会える時のこととか!」

 

 そう励まされた私は、言われた通りリオさんに会える時のことを考えた。


 また週末に会えるかな?

 この前会ったばかりだからなぁ。

 けれど毎日でも会いたいな。


 ちょっと元気が出た私は、エルシーにお礼を言った。

「うん。ありがとうエルシー」

「……うぐっ! 好きな人を思う時だけの笑顔……可愛過ぎるっ!!」

 エルシーが大袈裟に机に突っ伏して倒れ込んだ。


「…………そろそろ授業、始まりそうだねー」

 私は頬を赤くして照れながらも、バッグにヘアブラシをしまって授業の準備を始めた。


 エルシーが言うには、リオさんのことを考えている時は自然に笑えているらしい。


 ちょっとでもマシに笑えて良かった。

 いつか、リオさんには本当の私を知って欲しいから……

 ネーネと比べると、こんなに表情が硬い私を見たら驚くかな?


 それとも、好きでも何でもない相手だから、なんとも思われない?


 …………


 リオさんにネーネの正体を打ち明けることを考える度に、私の胸はほんのり暖かくなる気持ちと、片想いだからって諦める冷めた気持ちに襲われるのだった。




 ーーーーーー


 聞くだけの眠気を誘う授業が終わると、私は隣のエルシーに声をかけた。

「やっと終わったねー」

「そうだね。あとは試験週間かぁ……ティアラさえよければ明日から一緒に勉強しようよ」

「いいね。しようしよう」


 前期の授業を無事に終えた私たちは、まったり帰るモードになりながら、机の上のノートや筆記用具を片付け始めた。


 素早い生徒なんかは扉を開けて教室から出ていっている。

 そんなガヤガヤした雰囲気の中、ひときわ目立つ金髪で長身の男性が教室を訪れた。


 部屋を見渡して私を見つけると「おーい」と手を振りながら近づいてくる。


「ティアラ! このあと時間ある?」

「……まぁあるけど」

「良かった。ちょっと買い物についてきてくれる?」

 3年生のシドだった。

 

 彼はいつも少し強引で、こうして1年生の教室に来ては私を連れ出して行く。


 今日も返事をろくに聞かずに私の腕を掴むと、引っ張り始めた。


「あ、ちょっと待ってよシド」

 そう言うと、彼は足を止めてくれた。

 私はエルシーの方を振り向く。

「また明日ね」

 そう言って口元だけに笑みを浮かべ、彼女に必死に手を振った。


「うん。またねー。シドさんもさようならー」

 この光景に慣れているエルシーが、私たちに手を振ってくれた。


 シドも手を振り返し、それが終わるとまた私を引っ張り始めた。

 私は慌てて聞いた。

「今日はどこ行くの?」

「街の美味しいケーキ屋!」

「えぇ? この暑いのに……」


 私とシドはそうやって喋りながら教室を去った。




 残されたエルシーがボソリと独り言をもらす。

「……ティアラがモテないのは、シドさんがいるからなんだよねー」


 エルシーは、人の良い友人を思ってため息をついた。

 


 

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