14:ありのままを、あるがままに
次の日の朝。
ティアラ姿の私は、店の2階にあるベッドの上で目が覚めた。
上半身を起こして窓から差し込む朝の日差しを浴びながら、ぼんやりと空をながめた。
すると、うろこ雲が遠くに見えた。
秋の訪れを感じさせる空だ。
…………
昨日はいろんなことが分かって、濃い1日だったなぁ。
まさかリオさんがセシル君だったなんて……
そんなことを思いながら、私はベッドに視線を移した。
そこにはスヤスヤと幸せそうに眠るセシル君がいた。
見慣れない彼の寝顔を見つめながら、私は物思いにふける。
ーー結局、あのあと1人にはなれなかったんだよね。
セシル君が『ごめん。余裕のある大人のフリしてたからお金なくて……乗り合い馬車も、もう無い時間だから泊まらせて?』って言うものだから……
私は眠るセシル君に向けて、慈愛に満ちた苦笑を浮かべた。
リオさんでもセシル君でも、やっぱり大好きな人なんだよね。
私はセシル君の横に寝転び直して、彼のあどけない寝顔を見つめた。
*ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー*
あのあと、私たちは沢山おしゃべりをした。
セシル君は授業でたまたま隣に座った私が、他の女子に席を譲るものだから、逆に気になり始めたらしい。
その時その時のセシル君に好意を抱いている女子のアシストをするものだから、よく周りを見てる人だなぁって。
それが彼の恋の入り口だったそうだ。
ある日セシル君は、シャロフィの街に私がよく行っているという噂を聞いた。
それで話のネタにと訪れた時に、たまたま『ゲート』を見つけた。
それをくぐってみたセシル君は、リオさんの姿に変身出来ることが分かったようだ。
彼の望みの姿は……
〝私から好かれる姿になりたい〟
なんとリオさんは、私の好みの男性の姿だそうだ。
『リオの容姿はティアラの好みの顔だよ。セシルと1ミリもかすってないけど……』と言って、セシル君が達観した目を遠くに向けていた。
私はというと、複雑に思いながらもすごく愛されていることを感じてしまっていた。
…………
姿を変えたセシル君は、引き続きシャロフィの街を散策した。
ばったり私に会って、一目惚れとかされないかな? とか何とか考えながら。
その時、偶然にもネーネのお店の前を通ったそうだ。
以前から〝リスみたいな女の子が恋愛相談に乗ってくれると成就する〟という噂を知っていた彼は、好奇心から確かめたくなったらしい。
意外にも悩みを聞いてもらって心が軽くなったセシル君は、カウンセリングみたいな気持ちで通い始めることにした。
それからは私もネーネとして知っている通り、辛い片思いの毎日。
……シドと付き合ってるっていう勘違いからもあるんだけどね。
でも私は、セシル君がずっと切ない想いを抱えていたのを知っている。
誰のことも恨まず、ただただ純粋な想いを……人知れず相手に向けて。
その相手が私だと知って、とても嬉しかった。
付き合い始めていきなり愛のこもった眼差しで見られていたのは、ずっと片思いしている相手がまさしく私だったから。
リオさんがずっと他の誰かと重ねていると感じていたのは、私の勘違いだった。
強いて言うなら、ずっと想いを募らせていた過去の私に嫉妬してた??
なんか理由が分かるとただただ恥ずかしい。
だってリオさんが、セシル君が、それだけ好きだってことだから……
セシル君と話を交わしていく内に、極度の恥ずかしさが過ぎ去ると素直にそう思えた。
*ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー*
私は眠っているセシル君に優しくキスをした。
「起きて。もう朝だよ」
リオさんにしてた時と変わらずに、愛情をたっぷり込めて彼を起こす。
「……ふわぁぁ……おはようティアラ」
穏やかに笑って私を抱き寄せるセシル君も、リオさんの時と一緒だった。
まだ現実と夢の間にいる彼が、目を閉じたまま私の頭を撫でる。
私は目を細めて幸せな笑みを浮かべ、セシル君の腕の中に収まっていた。
花火祭りの夜に、ネーネに正体を明かされて告白された時、セシル君はとても嬉しくて内心舞い上がっていたらしい。
昨夜ここで、それはそれは熱心に伝えられた。
『ずっと好きだったティアラが突然目の前に現れて、俺が好きだと告白されたんだ。可愛すぎて目眩がしたね。けど、シド先輩と付き合ってるはずなのにって思いがよぎって……』
そう切なげに胸の内を告げるセシル君に、沢山たくさんキスをされながら改めて愛を伝えられた。
私もいつものように彼に応えた。
リオさんの時とのように、私の心は幸せに溢れているのを感じながら。
ーーーーーー
……その時のことを思い出して、セシル君の腕の中にいる私は、人知れず赤面する。
「?? どうしたの、ティアラ? 大丈夫?」
寝ぼけたままのセシル君が、いきなり真っ赤になった私を心配してか、おでこ同士をくっつけて必死に頭をヨシヨシした。
これは……
リオさんのフリをしてる??
セシル君が可愛くっておかしくって、私はクスクス肩を揺らして笑った。
私の告白にきちんと返事をし、無事に付き合うことになったセシル君は、彼なりに必死に大人の男性を演じてくれていたらしい。
私の好みから外れないように……私に嫌われないように。
恋愛相談の時から感じてたけど、セシル君は案外繊細なようだ。
『あ゛ー、もうティアラが可愛すぎて無理。落ち着いているなんて、もう無理無理』
そして素はこんな感じらしい。
もう落ち着いた大人の男性を演じることは、私のせいで無理なんだそう。
『リオの喋り方? なんか変身すると喋り方まで変わる仕様だったよ』
……喋り方は別に無理していなかったようだ。
『ゲート』で変身する作用は、人それぞれなのかな?
セシル君は、リオさんとは違う部分も多いけれど、優しくて私を大事にしてくれる所は変わらない。
愛情表現が穏やかではないけれど……そんな所も受け止められる。
セシル君も必死にリオさんを演じてくれていたように、私の面倒な部分を受け止めてくれていた。
相手の全てを引っくるめて好きって言える。
それが本当に愛してるってことだと思う。
私はリオさんの正体を知ってからそう感じていた。
頭を必死にヨシヨシしてくれるセシル君に向かって、私は自然に柔らかい笑みを浮かべた。
「うん大丈夫。セシル君、大好きだよ」
私は優しくって一途で素敵な……大好きな彼を抱きしめて、愛を込めてキスを交わした。




