10: 返事
夏季休暇中、私は暇さえあれば恋占いの店に入り浸っていた。
エルシーとの約束や、お姉ちゃんと……そしてたまにシドとの予定がある時だけ、学園都市に帰ったり出かけたりする感じだった。
他の学生は実家に帰ったりするんだけど……
シャロフィの街が楽しすぎるし、一応働いているんだから。
そんな言い訳をしながら、今日も訪れたお客様の恋占いをしていた。
「ありがとうございました」
店の扉を開けて立ち、帰っていくお客様を見送った。
今日のお客様も前向きになってくれて良かった。
ネーネ姿の私はニッコリほほ笑み、お客様の小さくなっていく背中にエールを送る。
どうか上手くいきますように……
空を見ると太陽が沈み始めていた。
茜色に染まるシャロフィの街を見つめながら、ボソッと呟く。
「そろそろお店は終わりにしようかな」
するとそれに返事があった。
「じゃあ僕とどこか食べに行かない?」
声の主を見ると、穏やかに笑うリオさんだった。
私は途端に顔を綻ばせる。
「行きます! 支度するんでちょっとだけ待ってて下さい」
私はいそいそと店内に舞い戻った。
リオさんも招き入れて、いつものソファに座って待っててもらう。
リオさんがお店に来たんじゃなくて、私に会いに来てくれた!
すごく嬉しい!
……けれど、告白の返事をされるんだろうなぁ。
そのことを考えると、どんよりした気分になった。
でもすぐに、一緒にいられることの喜びが優る。
私は2階に駆け上がって急いで準備をすると、トントンと軽やかに階段を降りた。
「お待たせしました」
「じゃあ行こっか」
リオさんが立ち上がって、自然に手を差し出した。
私はおずおずとその手に自分の手を重ねる。
そして優しく握りながら、私はリオさんにお願いをした。
「ご飯屋さんにいく前に『ゲート』を通りたいです」
「……遠回りになるけどいい?」
「ネーネの姿だと、リオさんと兄妹だと思われるかもしれないじゃないですか? せっかく隣にいるなら恋人に見られたいです」
私が顔を真っ赤にさせながらリオさんを見上げると、彼にも照れが移ったかのように頬に赤みがさしていた。
「そっか。じゃあまずは『ゲート』に……」
照れたリオさんがフイッと顔を背ける仕草に続けて、私に背中を向けて動き出した。
手を繋いでいる私も、そんなリオさんについていった。
リオさんは案外照れ屋のようだった。
普段落ち着いているのに、私の言動でよく一緒に照れている。
ちょっと可愛いなって思いながら、見られていないこといいことに、私はニヤニヤしながら彼と食事にでかけた。
ーーーーーー
無事に『ゲート』をくぐりティアラになった私は、リオさんに連れられて、シャロフィの街の海沿いの地域まで足を運んでいた。
階段上の斜面に白塗りの建物が並ぶ。
その一角にある海鮮料理のお店に入ると、ちょうど景色の良い3階のテラス席が空いていた。
その席にある椅子は、海が見えるように横並びに配置されており、私とリオさんは隣り合って座ることになった。
太陽はすでに沈み、満点の星空が目の前に広がっている。
その星の輝きに優しく照らされた海から、穏やかに寄せては返す波音がここまで届いていた。
すっごく良い感じの所に連れてきてくれた!
さすが年上の男性だ。
こんな所でまさかの断りの返事なんてしないよね?
海を見ながら泣く自信がある。
私はお店の良い雰囲気に妙な期待をしながら、サラダをフォークに刺して口へ運んだ。
メニューを2人で見ながら頼んだ料理は、1階の厨房で調理され、ウェイターが階段をのぼって運んでくれる。
ちょうどパスタと貝の煮込み料理、それにパンもきたので「美味しそう!」とわいわい言いながら取り分けた。
それが落ち着くと、リオさんが持っていたグラスを机に置いて、静かに喋り始めた。
「ティアラは……ネーネちゃんの姿が何で〝望む姿〟だったの?」
「……私、黙っていると冷たい印象を与えてしまう顔立ちなのに、おまけに上手く笑えなくて……」
答えていると勝手に目線が下がっていく。
本当のことを言うのは少し勇気がいるけれど、リオさんには全て知って欲しい。
私は覚悟を決めて続きを喋った。
「だから気軽に喋りかけてもらえる、柔らかい顔立ちのネーネが望む姿だったんです。ネーネになれた時は嬉しかったなぁ。何故か変身すると自然とニコニコ笑えましたし」
当時の嬉しさを思い出しながらニコリと笑った。
「ティアラの今も、自然に笑えてると思うけど」
リオさんが穏やかな笑みを浮かべて、顔をかしげる。
私の大好きな笑顔を受けて、照れっとしながら目の前に見える海の方を向いた。
そしてグラスを口元に持っていきながら返す。
「友達いわく、リオさん関係では自然に笑えているそうです。リオさんは特別ですから」
「…………」
リオさんも赤くなって、照れながら海の方を向く。
私は海を眺めながらグラスの飲み物を飲んだ。
リオさんも海を見たまま尋ねる。
「……それで、ネーネちゃんとしてお店をしてたのは?」
「恋愛の話が大好きなんです。誰かに恋をすると1度は思い悩みますよね。私はその気持ちを応援してあげたかったから……」
「そうだね。ネーネちゃんのお店はすごく評判で……お客の僕が1番よく分かっているけどね」
彼は海から私に視線を移し、優しく見つめた。
その視線を感じた私も、リオさんに向き直る。
「ずっと僕を励ましてくれてたよね。ありがとう。……その、いつから好きだったの?」
「……お店に来はじめて4回目ぐらいからです」
「「…………」」
私たちは見つめ合ったまま赤くなった。
「ティアラ」
仕切り直すように、リオさんが真剣な表情をして私を見た。
「ネーネちゃんの時も優しくて良い子だなって、ちょっと好意を持っていたんだ。……好きな女性がいるって相談していた僕だから、すぐに君をっていうのは不誠実な感じがするけど……」
「…………」
「僕は君の一途な想いに応えたいと思う。付き合おうか」
言い切ったリオさんが、表情を緩めて優しく笑った。
「!! 嬉しい。ありがとうリオさん」
感極まった私は、目に涙を浮かべた。
みるみる内に涙が溢れ、頬を伝っていく。
結局、返事がどっちでも泣いてしまった。
「っ!! 泣かせたかった訳じゃないんだけどな」
オロオロし始めたリオさんが、私をふんわりと抱き寄せて頭をヨシヨシと撫でてくれた。
私は彼の胸に顔を埋めながら、子供になったみたい……と泣きながらも嬉しくてクスリと笑った。
優しい優しい素敵なリオさん。
私の愛を受け止めてくれてありがとう。
「大好きです」
私はいろんな想いを込めて、彼の背中に手を回した。




