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夜空に咲いたひと夏の恋〜私の好きな人は片思いに悩むお客様  作者: 雪月花


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10/15

10: 返事


 夏季休暇中、私は暇さえあれば恋占いの店に入り浸っていた。

 エルシーとの約束や、お姉ちゃんと……そしてたまにシドとの予定がある時だけ、学園都市に帰ったり出かけたりする感じだった。


 他の学生は実家に帰ったりするんだけど……

 シャロフィの街が楽しすぎるし、一応働いているんだから。


 そんな言い訳をしながら、今日も訪れたお客様の恋占いをしていた。




「ありがとうございました」

 店の扉を開けて立ち、帰っていくお客様を見送った。

 

 今日のお客様も前向きになってくれて良かった。


 ネーネ姿の私はニッコリほほ笑み、お客様の小さくなっていく背中にエールを送る。


 どうか上手くいきますように……




 空を見ると太陽が沈み始めていた。

 茜色に染まるシャロフィの街を見つめながら、ボソッと呟く。

「そろそろお店は終わりにしようかな」

 

 するとそれに返事があった。

「じゃあ僕とどこか食べに行かない?」

 声の主を見ると、穏やかに笑うリオさんだった。

 私は途端に顔を綻ばせる。

「行きます! 支度するんでちょっとだけ待ってて下さい」


 私はいそいそと店内に舞い戻った。

 リオさんも招き入れて、いつものソファに座って待っててもらう。

 

 リオさんがお店に来たんじゃなくて、私に会いに来てくれた!

 すごく嬉しい!

 ……けれど、告白の返事をされるんだろうなぁ。


 そのことを考えると、どんよりした気分になった。

 でもすぐに、一緒にいられることの喜びが(まさ)る。


 私は2階に駆け上がって急いで準備をすると、トントンと軽やかに階段を降りた。

「お待たせしました」

「じゃあ行こっか」


 リオさんが立ち上がって、自然に手を差し出した。

 私はおずおずとその手に自分の手を重ねる。

 そして優しく握りながら、私はリオさんにお願いをした。


「ご飯屋さんにいく前に『ゲート』を通りたいです」

「……遠回りになるけどいい?」

「ネーネの姿だと、リオさんと兄妹だと思われるかもしれないじゃないですか? せっかく隣にいるなら恋人に見られたいです」

 私が顔を真っ赤にさせながらリオさんを見上げると、彼にも照れが移ったかのように頬に赤みがさしていた。


「そっか。じゃあまずは『ゲート』に……」

 照れたリオさんがフイッと顔を背ける仕草に続けて、私に背中を向けて動き出した。

 手を繋いでいる私も、そんなリオさんについていった。


 リオさんは案外照れ屋のようだった。

 普段落ち着いているのに、私の言動でよく一緒に照れている。


 ちょっと可愛いなって思いながら、見られていないこといいことに、私はニヤニヤしながら彼と食事にでかけた。




 ーーーーーー

 

 無事に『ゲート』をくぐりティアラになった私は、リオさんに連れられて、シャロフィの街の海沿いの地域まで足を運んでいた。

 階段上の斜面に白塗りの建物が並ぶ。

 その一角にある海鮮料理のお店に入ると、ちょうど景色の良い3階のテラス席が空いていた。


 その席にある椅子は、海が見えるように横並びに配置されており、私とリオさんは隣り合って座ることになった。

 太陽はすでに沈み、満点の星空が目の前に広がっている。

 その星の輝きに優しく照らされた海から、穏やかに寄せては返す波音がここまで届いていた。


 すっごく良い感じの所に連れてきてくれた!

 さすが年上の男性だ。

 こんな所でまさかの断りの返事なんてしないよね?

 海を見ながら泣く自信がある。


 私はお店の良い雰囲気に妙な期待をしながら、サラダをフォークに刺して口へ運んだ。


 メニューを2人で見ながら頼んだ料理は、1階の厨房で調理され、ウェイターが階段をのぼって運んでくれる。

 ちょうどパスタと貝の煮込み料理、それにパンもきたので「美味しそう!」とわいわい言いながら取り分けた。


 それが落ち着くと、リオさんが持っていたグラスを机に置いて、静かに喋り始めた。

「ティアラは……ネーネちゃんの姿が何で〝望む姿〟だったの?」

「……私、黙っていると冷たい印象を与えてしまう顔立ちなのに、おまけに上手く笑えなくて……」


 答えていると勝手に目線が下がっていく。

 本当のことを言うのは少し勇気がいるけれど、リオさんには全て知って欲しい。

 私は覚悟を決めて続きを喋った。


「だから気軽に喋りかけてもらえる、柔らかい顔立ちのネーネが望む姿だったんです。ネーネになれた時は嬉しかったなぁ。何故か変身すると自然とニコニコ笑えましたし」

 当時の嬉しさを思い出しながらニコリと笑った。


「ティアラの今も、自然に笑えてると思うけど」

 リオさんが穏やかな笑みを浮かべて、顔をかしげる。

 私の大好きな笑顔を受けて、照れっとしながら目の前に見える海の方を向いた。

 そしてグラスを口元に持っていきながら返す。

「友達いわく、リオさん関係では自然に笑えているそうです。リオさんは特別ですから」

「…………」

 リオさんも赤くなって、照れながら海の方を向く。


 私は海を眺めながらグラスの飲み物を飲んだ。

 リオさんも海を見たまま尋ねる。

「……それで、ネーネちゃんとしてお店をしてたのは?」

「恋愛の話が大好きなんです。誰かに恋をすると1度は思い悩みますよね。私はその気持ちを応援してあげたかったから……」

「そうだね。ネーネちゃんのお店はすごく評判で……お客の僕が1番よく分かっているけどね」


 彼は海から私に視線を移し、優しく見つめた。

 その視線を感じた私も、リオさんに向き直る。

「ずっと僕を励ましてくれてたよね。ありがとう。……その、いつから好きだったの?」

「……お店に来はじめて4回目ぐらいからです」

「「…………」」

 私たちは見つめ合ったまま赤くなった。


「ティアラ」

 仕切り直すように、リオさんが真剣な表情をして私を見た。

「ネーネちゃんの時も優しくて良い子だなって、ちょっと好意を持っていたんだ。……好きな女性がいるって相談していた僕だから、すぐに君をっていうのは不誠実な感じがするけど……」

「…………」

「僕は君の一途な想いに応えたいと思う。付き合おうか」

 言い切ったリオさんが、表情を緩めて優しく笑った。

「!! 嬉しい。ありがとうリオさん」

 感極まった私は、目に涙を浮かべた。

 みるみる内に涙が溢れ、頬を伝っていく。

 

 結局、返事がどっちでも泣いてしまった。


「っ!! 泣かせたかった訳じゃないんだけどな」

 オロオロし始めたリオさんが、私をふんわりと抱き寄せて頭をヨシヨシと撫でてくれた。

 私は彼の胸に顔を埋めながら、子供になったみたい……と泣きながらも嬉しくてクスリと笑った。


 優しい優しい素敵なリオさん。

 私の愛を受け止めてくれてありがとう。


「大好きです」


 私はいろんな想いを込めて、彼の背中に手を回した。




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