第二話 理由なんです。
「たまぁ~、あんま深いとこいったあかんでぇ~!!」
「わかっとるわそれくらい!!!」
八月、夏。
太陽がカンカンと空に照り渡り、白い白い砂浜はその日光を反射して、眩しくキラキラと輝いている。
夏の暑さにかこつけて、家族三人そろって大好きな海水浴にいそしむ。
人はほとんどおらず、家族のプライベートビーチのようだ。
海外の、日本とはまた違った南国な風景が少女の心を解放させていた。
「おっ!!綺麗な巻き貝はっけ~ん!!・・・・・・やっぱ海の中の方が楽しいかも。ぎりぎり足つくとこで遊んどこ!」
浮き輪を抱え、彼女は親から少し離れた場所で一人、海に入りだした。
しばらく美しいエメラルドグリーンの水と戯れていたが、彼女はある異変に気づいた。
「あれ?うそ!!急に足つかんようになってもうた!しかも流されてる!?」
海は地形の関係で、浅い場所でも急に深くなっている部分があるのだ。
しかも潮の流れによって、彼女はどんどん沖へながされていた。
「いや・・・・・・いやや、怖いよぉ・・・ママーーーー助けてぇー!!!いややーーー怖いよーー助けてーーうわぁ~ん!!!」
言いようのない不安が少女を襲った。広い海の中ちっぽけな自分ただひとり。守ってくれる味方は誰もいない。このまま流されたら自分はどうなってしまうのだろう。
悪い考えしか思い浮かばない。美しい海が、一瞬にして恐ろしい地獄にかわり、遠くに見える白い砂浜が唯一の支えだ。
あそこにはパパとママがいる。きっと自分に気づいてくれるはず。
そう、自分自身に言い聞かせた。
「パパーー!ママーー!助けてーーーー!!!パパーママーーーうわっ!!!いや!いやあーーー!」
叫んでいる途中、ものすごい力で<何か>に足を引っ張られ、死に物狂いで浮き輪にしがみつく。だが十歳の力ではとてもかなわず、水の中に引き込まれてしまった。
「ううぅっっっっーーーーー!!!いや!はーなーせーやー!うわあぁーーーゴホッ!!」
(ゴボッ!!息が・・・苦し・・い・・・)
水の中でおいっきり暴れるが、口から空気がもれ、だんだん抵抗が弱まってくる。
薄れていく景色の中彼女が最後に見たのは、ヒトのような形をしたぶくぶくに膨れた何かだった。
ふと気がつくと、トンネルの中にいた。
とても長い長いトンネルだった。
暗いところはいつも怖かったが、不思議とそこは怖くなく、トンネルの先にある光がとてもここちよくて、早くそこへ行きたかった。
出口に近ずくと、そこに人が二人立っているのがみえる。二人の姿は逆光で、形しか見えない。
二人の前にたどり着くと、どちらか一人が話しかけてきた。
<この先、君はまだ通れないんだ。早くお帰り。>
女か男かわからない声だった。
「でも、うちそっちにめっちゃ行きたいんです。通してください。お願いします。」
<いつかまた、ここには来れるよ。今はその時期じゃないんだ。>
「なんでなん?なんで行ったらあかんの?それに、またこのトンネル一人でひきかえさなあかんとか嫌やわ。」
少しむっとしながら反抗的に言い返す。
<ここは境目なんだよ。君のいるべき現世と常世のね。ここから先は誰もが生を終わらせた後、必ず行かなければならない。だが、残念ながら君はまだここを通る資格がないんだ。まだ、現世とつながっているからね。・・・あぁ、そうか。君はどうやらあっちで怖い思いをしたみたいだね。戻るのが怖いというのなら特別に怖い思いをもうしないように、私たちの上の御方に話を通してみよう。少し待ちなさい。>
そういうと一人がさっさと光の方へ入って行ってしまった。
その人の話はどういう意味かはよくわからなかった。ただ、自分はここを通るのにはまだ早いということだけわかった。
後一人しかいないので、これなら走って通れるかとも思ったが、どうもそういう気はおこらなかった。
ただ二人っきりというのがなんだか気まずかったので、少し横にどいて、もう一人が帰ってくるまでしゃがんで待つことにした。
ちらりと隣を盗み見たがやっぱり、男か女か、どんな服を着ているのかなどはまったくわからなかった。わかるのは、人のような形をしているということだけだった。
<待たせたね。御上からの許しがでたから、これからは向こうに戻っても怖い思いをしなくて済むよ。最初は戸惑うだろうけど、慣れたら君を助ける力になるはずだ。それにほら・・・呼ばれてるよ。>
いつ戻ってきていたのかまったく気がつかなかった。
「呼ばれてる??誰に?なんも聞こえへんで。」
耳に手をあてて、耳を澄ますが何も聞こえない。
すると目の前の人が、目を細めて少女の後ろを見ているような気がした。
姿が逆光で黒くて見えないためそう思っただけだが、なんとなく雰囲気が遠くの方を見ているような気がしたのだ。
つられて後ろを振り向くと、急に体全体を引っ張られ、トンネルの出口から遠ざかる。それと共に意識も遠ざかって行った。
「うわあああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
し・・・・・か・・めを・・・・・・
(な・・に? 誰? 何・・・言ってんの?)
き・・・まき・・・・・・た・・・・・・・たま
(えっ? なんて?)
「たまき!!!」
八ッ!
「ゴホッ!!うぇ、ゴホッゴホッゴホッおぇ」
目を開けたと同時にむせこんだ。それに光が眩しすぎて周りが見えない。
しばらくして呼吸も整い、光に目がなれたころにあたりを見回すと、両親と日にしっかり焼けた、体格の良い外国人の男が心配そうにのぞきこんでいた。
「珠生!大丈夫?おかしいところはない?ママがわかる?」
ボーッとしている珠生に両親が話しかけるが、その声はどこか遠くに聞こえる。
(あぁ、戻ってきたんや。)
寝かされていた砂浜をボケっと見つめながら、珠生は確実に何かがかわってしまったのを感じていた。
以上、珠生の霊能力がついた原因のお話でした。