怖がりな、神な妻
僕の妻は、神だ。僕は、人間だけど。妻の力で、年は取らない。妻は、結婚して二年後、部屋に引きこもるようになってしまった。
僕は、びっくりした。神が、引きこもるなんて、この世界、大丈夫か?なんて、思うけど。それなりに、発展しているから、驚きだ。
では、神なんて、この世界に必要ないのではと、僕は、複雑な思いにとらわれるのだが。引きこもっていても、何か、出しているのかもしれない。
僕は、昭和後半に、神な妻と結婚をした。
友だちに、ちょっと無理やりこさせられた、クラブになっている若者たちのたまり場。ダンスホール。楕円の部屋が器のような縦のカーブで階段がついた客席になっている。スポーツでも、使うのかな?そこの、あまり使われない階段に座っていたのが、妻だ。
その時、妻は、具合が悪そうにしていた。
「世を知ろうと思ったのじゃ」と、その時の妻が言った。
「思ったのじゃ?やけに、古風な言い方ですね。親御さんの、影響ですか?」
「ワレに、親はおらぬ。なぜなら、ワレは生まれた時から、この姿。
神、じゃからな。鶏が先か。卵が先かの、鶏なのじゃから」
まあ、変な人だと思ったよね。普通なら、そのまま、『そうですか』って逃げるんだけど、その彼女に抱きつかれた。
「お主は、ワレにとって大地か?ワレは、お主に会うために、生まれたのかのぅ?」
普通なら、完全に、変な女だよね。逃げるよ。
けど、僕は「そうだよ。僕は、君の手を引き、住めるようにしよう」なんて、受け入れて。一年後に、結婚までしてしまった。
でも、それから二年後、急に、部屋に引きこもって。そして、年号が令和になった今でも、引きこもっている。
元々、怖がりだった妻だけど、二年までは、ビクついてでも出ていたのに。それも、ないし。
「ねぇ、出てきなよ」僕は、今日も扉の前で、語りかける。
妻は、「うっ。そっ、そんなのは、むっ、無理っ、むっ、無理。無理ーっ。うっうーっ。
フハーッ。んっ、うぅっ。ハアハアハアッ」
「大丈夫だよ」と、僕が言う。
妻は、苦しみながら「うっあーーっ。ハアハアッ。駄目」
「なら、理由言ってよ」と、いつものように聞く。神だから、少しきつめでも、大丈夫だろうと思っている。
「○◑◦♝♕♠♙◁▥◥♀♖◻◦」と妻。
ああっ、分からない。理解出来ない。
そして、仕方がないから、僕が年を取らないのを神の力で、誰も、気にしない会社へ行き、そこそこ頑張って、仕事をする。
でも、僕は、分かっていた。人間の理解力じゃ、神の苦しい声を聞き取るのは、すぐには無理だということを。
そろそろだ。
ついになんだ。
時は、来た!!
きっと、今日は理解出来る。
「○◑◦♝♕♠♙◁▥◥♀♖◻◦」
ああ、無理か…。
今日は…。
「っコラしてっ、◁◯♙◉▪なのじゃ」
んっ、ちょっとだけ聞き取れている。まだ、分からないけど。もう、少し…。
「◐●◾▷▫なのでな。◇◉◽☆□►なのじゃ」
あれっ、昨日より分からなくなった。でも、もう分かる感じがするんだ。僕は、妻に呼びかける。「花代。もっと、ゆっくり…」花代は、妻の名だ。
「▧▶◇▶□◦で、コーラなのじゃゲッピーんじゃ」
駄目だ。難しい。よく分からない。
「もっ、もういっがい。…ンフンッ。もう、一回」
「愛していると⚀◌♗◦▷じゃ」
「えっ…?」
『愛していると…』どういう意味だ。
もう、僕は、よく分からないが不安になって、声を出すのも難しくなって。心の中で、念じた。〈ど、どういう意味なの?〉
「早く、笑わせてくれ…」
んっ、やっと聞こえた?『笑わせてくれ』だって?どういうこと?
〈分からないよ~!!!〉と、僕は、心の声を響かせた。
「真剣に、聞け」と、妻。
「うん」
「○○○○○○なのじゃ」
僕「えーっ???」
「この世が嫌いじゃ。愛していると、言ってくれ」あーっ、やっと分かった。でも、なんか、あと少し、意味が分からないな。
「この、世界が信じられない。君だけは、信じているから。それを、分かりやすく。愛していると言ってほしい」
やっと、分かった。だけど…。
「花代。世の中、もっと、知った方がいい…。世の中、意外と悪くないよ」
花代が扉を開けた。
「フンッ」と、ソッポを向く。何十年振りかで出てきて、良くない態度だ。まあ、だけど、出す顔がないのかもしれない。
「もっと、愛していると、言ってくれ。ワレは、苦しかったのじゃ」
「えっ、言ってたでしょ?」
「まあ、お主が成長してくれて嬉しい。ワレは、お主の言うことが、あんまり、分からなくなっていたのじゃ」
「ええっ!?」そりゃあ、愛する人の言うことが分からなければ、引きこもるかもしれない。
「この世は、ワレの尻尾のようなもの。この世を愛する心がなければ、ワレとお主の心は切り離されたも同然じゃ。ワレは、お主の心の世界を見ておったのじゃ」
怖がりなのは、僕だった。神である妻に、すがっていたのだ。
「たくさん、愛してくれ」と、妻は言った。
僕は、「うっ、うん…」と頷くしか、出来なかった。
けど、僕は、決めた。
今度は、僕は、花代と一緒に、ダンスホールの中央で、踊ってみせようって。
終
愛するには、時間が必要ってことなのかな?
でも、キツ過ぎるのはどうかと思うけど、アタックは絶対、必要だよね。




