魔法少女は、魔族から人々を救います! ~一人でも不幸な人が減って、世界が幸せになりますように~
この世界の裏側。
そこは、誰も知らない世界。
裏世界と呼ばれるその場所で、魔法少女と魔物の戦いは行われていた。
魔物は、幸せな人が不幸になる際に生じるアンハッピーエネルギーを求め、裏世界に現れる。
そして、彼らが持つスキルによって、人々を不幸にするのだ。
そうやって集めたアンハッピーパワーで、より強力な魔物へと進化し、さらに人々を不幸にする。
そんな魔物を倒すのが、魔法少女達の使命。
赤の魔法少女、日野宮 灯
魔法少女名:ハッピーレッド
緑の魔法少女、土浦 黄緑
魔法少女名:ハッピーグリーン
二人は小さい頃からの幼馴染みで親友。
どちらも小学五年生で、同じ学校のクラスメイト。
彼女達の前に現れた精霊の力で、二人は魔法少女になったのだ。
ちなみに、魔法少女は他人に素顔がばれないように認識疎外の魔法が掛かっているが、魔法少女には通じない。
つまり、魔法少女同士なら正体バレバレだ。
そして、互いに同じ使命を受けた事を知った二人の魔法少女は、力を合わせて今日も戦っている。
「レッド、大丈夫?」
「大丈夫!!絶対に負けないんだから!」
レッドは、グリーンに笑顔でそう返した。
いつも明るく前向きなのがレッドの良いところだ。
グリーンはそんな彼女に、いつも助けられてきた。
そう、今みたいな大ピンチの時も。
「「私達は、負けない!!」」
二人の想いが一つになり、合体魔法が魔物に向かって放たれた。
しかし……。
「そんな……」
魔物は大きく傷ついたものの、まだ戦える状態だった。
しかも悪い事に、二人の攻撃に怒り狂い、狂暴化してしまった!!
「グオォー!!」
魔物が、二人を攻撃しようとしたその時。
「ウォータープレッシャー!」
遅れてやってきたのは、青の魔法少女。
魔法少女名:ハッピーブルー
彼女の水魔法により、魔物は壁に激突し、そのまま息絶えた。
「「ブルー!」」
ブルーの元に駆け寄った二人は、彼女の手を掴んた。
「ブルーの魔法って、本当に凄いよね!さっすが最強の魔法少女!!」
ブルーの普段の姿を、二人は知らない。
さらに言うなら、連絡先も知らない。
以前レッドが聞いた事があったが、教えてくれなかったのだ。
だから、魔物と戦う前に集合する事が出来ず、二人が先に戦う、もしくはブルーが先に戦うのがほとんどで、三人一緒に戦い始める事は滅多に無い。
「ねぇ、ブルー。前にも聞いたけど、連絡先教えてくれない?LIMEでもSNSアカウントでもいいんだけど」
「嫌」
「どうして?せっかく同じ魔法少女なんだから、もっと仲良くなりたい。放課後一緒に遊んだりしたいし、家で一緒に遊びたいもん」
「嫌」
レッドの誘いにも、いつもこんな感じだ。
「レッド、駄目だよ。嫌がってるんだからさ」
「うん、わかった……」
グリーンの言葉に、レッドは残念そうに引き下がった。
「でも、もし街中であったら気軽に声を掛けてね。じゃあ、改めて。私は暁小学校五年二組の日野宮 灯」
「灯ちゃんと同じクラスの、土浦 黄緑。気軽に声を掛けていいからね」
立ち去ろうとするブルーに、二人は声をかけた。
だが、ブルーは一瞬だけ二人を見ると、そのままどこかへ去って言った。
「あーあ、行っちゃった」
「大丈夫だよ。きっとまた会えるから」
「そうだよね!よーし、次に会った時はもっと仲良くなってやるんだから!」
「そうだね。私も仲良くなりたい」
二人はそう言って笑った。
魔法少女ハッピーレッドには、夢がある。
一人でも不幸な人がいなくなって欲しい。
そうしていけば、いつか皆が幸せになるから
魔法少女ハッピーグリーンも、そんなレッドを応援している。
幼馴染として、親友として、彼女の夢をかなえるのを手伝いたいと思っているのだった。
もし、この物語がアニメなら、主人公はレッドだろう。
レッドが仲間と戦いながら、世界を平和にしていく。
そんな物語。
だけど……二人は気づいていない。
さっき一瞬だけ二人を見たブルーの目が、憎悪に満ちていた事を。
裏世界から戻ったブルーは、変身を解いていた。
彼女の名前は水成 青葉。
他の二人の魔法少女と同じ、小学五年生。
彼女は、大急ぎで自宅へ向かった。
彼女の家は、オンボロアパートの一室だ。
「ただいま」
家に入ると、
「遅いぞ!」
その声と共に、ビール瓶が投げられた。
その瓶が頭に当たり、青葉は倒れてしまう。
額から血が流れる。
「今まで何してやがった!とっとと飯を作れ!!」
そう言ったのは彼女の義父。
いつも飲んだくれて、青葉に暴力を振るう、最低の男だ。
「ごめんなさい、お義父様」
「本っ当に駄目な奴だなお前は。そんなお前でも家にいてやってるんだから、とっとと飯作れ!!」
そう言って、義父は青葉を殴った。
グーで、それも全力で。
しかも顔を。
青葉は殴られた勢いで体が壁にぶつかり、再び地面に倒れた。
「ふん、ゴミが。これ以上殴られたくなかったら、せいぜい役に立つんだな」
「はい……申し訳ありません」
青葉は夕飯を作り始めた。
「お前の娘、本当に使えねぇな」
「しょうがないでしょ。父親の種が悪いんだから」
「確かに」
「ってかさ、あまり殴らないでよ。商品価値が落ちるでしょ」
「悪い悪い。あんまり役立たずだから殴っちまったよ」
「まぁ、気持ちはわかるけどね」
義父は青葉の母親と談笑している。
母親は、前の夫、つまり青葉の実父とは彼女の不倫で離婚している。
父親は青葉を引き取りたかったものの、彼女が養育費欲しさに青葉を欲したため、青葉は母親と住むことになった。
ちなみに、義父も母親も働いていない。
朝から晩までギャンブルをし、ただ金を使っているだけだ。
ちなみに、二人の朝食と、昼食の弁当も青葉が作っている。
つまり、本当の役立たずはこの二人なのだ。
「出来ました」
「おせーよ」
「まったくよ。父親が愚図だと娘も愚図ね」
夕飯が出来ると、文句を一通り言われた後、二人は食事を始める。
青葉の分は無い。
食費がもったいないからと言って食わせないのだ。
給食費を払ってやってるんだから、家で食わせる必要が無い。
それが両親の考えだ。
もちろん長期休暇の時は食わせてくれるが、給食よりはるかに量が少ない。
作るのは青葉だが、ほとんどが両親の分で、自分の分は雀の涙ほどしかない。
自分の分を作りすぎると殴られるから、作らない。
だから、青葉はいつもお腹を空かせていた。
「いつまで突っ立ってるんだ。とっとと仕事に行ってこい!」
「目障りね。とっとと働いてきなさい」
「……わかりました」
青葉は家を出ると、働く場所に出かけた。
もちろん小学生の彼女に、普通の働き口は無い。
場所はいつも同じ一軒家。
その家に入ると、客の男性が待っていた。
「待っていたよ、青葉」
「はい、お父さん」
客は、青葉の実の父親だ。
つまり、正真正銘、血の繋がった父親。
「さぁ、今日も楽しませてくれ」
「分かりました」
そう言って、青葉はスカートをたくし上げた。
青葉の父親はロリコンの変態だ。
青葉はそんな父親の獣欲の捌け口になる事で、お金をもらっている。
今までも、何度も辱められた。
今日も、そして明日も辱められるのだ。
青葉はそうしてお金を稼いでいる。
深夜。
お金を手に入れた青葉は、家に向かって歩いていた。
「うぅ……」
青葉は涙を流した。
家で泣くと殴られるから、誰もいない場所で泣く。
家では義父に殴られ、母には助けてもらえず働かせられる。
実の父には只々辱められる。
そんな日々。
魔法少女になってからは、魔物との戦いに時間を取られ、そのせいでまた殴られる。
とは言え、魔法少女は辞められない。
なぜなら、魔物が出た時に魔法少女にならないと、猛烈な痛みに襲われるからだ。
それが、使命に従わない魔法少女へのペナルティだからだ。
ちなみに、他の魔法少女達はすぐ変身するからこのペナルティを知らない。
そして、家に帰って来た青葉は、お金を全て両親に奪われると、家の端で丸まって寝た。
枕も布団も無い。
そんな環境で寝るのも、もう慣れてしまっていた。
翌日、学校。
青葉は自分の教室に入った。
「おはよう」
そんな彼女の声に、誰も答えない。
青葉は虐められていた。
とは言え、殴られたり、暴言を受けるわけじゃない。
青葉は無視されていた。
もう、ずっとクラスメイトと話していない。
教師も助けてくれない。
青葉はそんな孤独な日々を送っていた。
自分の机の上にランドセルを置くと、教室の前の方で楽しく話しているクラスメイトが目に入った。
皆の中心になっている女の子と、その親友の女の子が、他のクラスメイトと楽しそうに話している。
輪の中心にいる女の子は、皆に好かれていて友達も多い。
他のクラスや学年にも友達がいっぱいいるくらいだ。
彼女の親友の女の子も、皆の人気者だ。
大金持ちの彼女は高そうな物を持っているが、それを鼻にかける事も無く、皆に好かれていた。
もっとも、そんな二人も青葉を無視しているが。
とは言え、彼女達に悪気はない。
もはや、青葉を無視しているのは、クラスの、いや、この学校の常識だからだ。
皆、自然に、当たり前のように青葉を無視していた。
「授業するから、皆席についてー」
「はーい」
先生が来て、授業が始まる。
青葉の右隣の席は、クラスの中心になっている女の子。
彼女の名前は、日野宮 灯。
その正体は、魔法少女ハッピーレッド。
青葉の前の席は、大金持ちの女の子。
彼女の名前は、土浦 黄緑。
その正体は、魔法少女ハッピーグリーン。
青葉と二人は、一年生から同じクラスだ。
でも、二人の目に、青葉は入って来ない。
話した事も無い。
魔法少女としては何度も話しているのに、学校にいる時は話した事も無い。
というか、魔法少女ハッピーブルーがクラスメイトだという事にすら気付いていない。
ちゃんと顔を見れば一目瞭然なのに。
青葉は二人が嫌いだ。
彼女は、いつも思っていた。
普段から無視しているくせに、魔法少女になったら急に話しかけて来た。
ずっとクラスメイトなのに、私の事を覚えてもいなかった。
もっと仲良くなりたい?放課後一緒に遊びたい?家で一緒に遊びたい?
ふざけるな!
二人が憎い。
魔法少女の時だけ、都合よく笑顔を向け、仲間だと言ってくる二人が憎くて憎くてたまらない。
魔法少女の使命もクソ食らえ、だ。
幸せな人を不幸にする魔物を倒す事が使命?
なんで……なんで私が顔も知らない奴らの幸せの為に戦わなくっちゃいけないんだ!
魔法少女なんて、幸せな奴がなればいい!
だけど、魔法少女の使命からは逃げられない。
……
…………
でも、どんなに誰かを憎んでも、世界は変わらない。
それが、青葉の現実。
今日も、青葉はハッピーブルーに変身して、魔物と戦う。
魔物が誰かの幸せを奪わない為に、戦う。
戦えば、家に帰るのが遅くなって義父に殴られるけど、戦う。
誰かの幸せの為に。
会った事も無い人の幸せの為に。
自分の事を助けてくれない人の幸せの為に。
そして、家に帰れば義父に殴られる。
母親にいいように使われる。
父親には辱められる。
そんな日々が、続いて行く。
魔法少女は、今日も人々を救う。
誰も彼女たちの存在には気付かない。
でも、彼女達のおかげで、大勢の人が救われている。
戦いが終わり、青葉は家に向かう。
雨の中、傘もささず。
もっとも、はなから傘なんて持ってないが。
だから、雨が降るといつもびしょ濡れ。
でも、誰も気にしない。
風邪をひいても同じこと。
誰も彼女を助けない。
早く帰らないと。
ただでさえ遅いのに、これ以上遅くなればもっと殴られる。
「帰りたくない」
思わすそう呟いた。
ずっと閉ざしていた、彼女の本音が溢れた。
「もうやだ。誰か、助けて」
彼女は涙を流しながら、そう呟いた。
「なんで、なんで誰も助けてくれないの?私、魔物から皆を守ってるよ。なんで私の事誰も守ってくれないの?」
誰もいない路地裏。
だからこそ、本音が出たのかも知れない。
「誰か、誰か助けてよ。もうやだよ。殴られるのも、裸になって触られるのも、魔族と戦うのも、もう嫌ー!」
その願いが叶う事は、決してない。
青葉は、なにも悪くない。
だけど、誰も青葉を救わない。
家族は救わない
魔法少女も救わない。
世間も人々を救わない。
公的機関だって、救わない。
だって、家族は青葉を都合のいい道具、金づるとしか思っていないから。
魔法少女が救うのは魔物からであって、魔物が関わらない事は関係ないから。
世間だって、面倒ごとには関わりたくないから、救わない。
公的機関も、青葉の両親が問題ないと言ったら口を出せないから救わない。
こうして、青葉は無視される。
殴られる。
辱められる。
でも、世界は平和だ。
魔法少女が魔物から世界を守っているから。
皆が笑顔で暮らしている。
たかだか一人の少女が不幸だろうと、そんな事は誤差にすぎない。
青葉は、涙を流しながら、家に向かって歩き出す。
その時だった。
彼女は後ろから何者かに羽交い締めにされた。
「へへっ、ついてるぜ。まさかこんな人通りが少ない場所に女がやってくるなんてよ」
「!!」
青葉は暴れる。
しかし、もともと食べていないから体力もなく、魔物との戦いで体力も尽きていた彼女に、抗うすべはない。
そして……彼女は…………
誰もいない場所に連れていかれた。
彼女が発見されたのは、何日も経ってから。
放置された彼女の遺体は、何も着ておらず、また体の状態から大勢の人から暴行を受けたものとみられた。
しかし、何日も放置された為、犯人の特定は不可能と判断された。
こうして彼女は死んだ。
だけど、誰も気にしなかった。
いつまでも帰ってこず、学校にすら来ていなかった彼女を誰も心配も通報もしなかった。
だって、彼女がいてもいなくても問題ないから。
彼女の代わりなんていくらでもいるから。
母親と義父からすれば、新しく産んだ子供に働かせてもいいし、生活保護で暮らしてもいい。
父親は、別の少女を毒牙にかければいいだけだ。
精霊だって、魔法少女が一人減れば、別の少女を次の魔法少女にすればいい。
レッドもグリーンも、新しい魔法少女との方が仲良くなれるのは間違いない。
それに、彼女の死はとても素晴らしい事だ。
だってそうでしょ?
不幸な少女が一人死ぬ。
それが意味する事、それは不幸な人が減る、という事なのだから。
こうして、【世界中の人が皆幸せになる】というレッドの夢に、また一歩近づいた。
素晴らしきかな、皆が幸せな世界。
皆で目指そう、不幸な人がいない、幸せな世界。
……
…………
そして、今日も魔法少女と魔物との戦いが始まっていた。
赤の魔法少女、日野宮 灯
魔法少女名:ハッピーレッド
緑の魔法少女、土浦 黄緑
魔法少女名:ハッピーグリーン
青の魔法少女、清水 葵
魔法少女名:ハッピーブルー
三人はとっても仲良し。
この三人の友情があれば、どんな魔物にも決して負ける事はない!
頑張れ三人の魔法少女。
負けるな魔法少女。
「世界中の人が幸せになりますように♡」
お楽しみいただけましたでしょうか?
まぁ、「楽しい」という内容ではないですが。
この内容、なんで思いついたか覚えてないです。
最近、こんな暗い話ばっかり思いつきます。
どう主人公をひどい目に合わせよう、とか。
……やっぱり疲れているのかも。
よろしければ、ご意見ご感想、レビュー以外にも、誤字脱字やおかしい箇所を指摘していただけると幸いです。
いいねや星での評価もお願いいたします。
……こういった話の場合、「よろしければ☆をお願いします」じゃなくって、「胸糞悪くなったら☆をお願いします」とでも言うべきなんですかね?