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1-1

 「あっつ⋯⋯」


 今年の空はより一層青々として澄んでいた。

 海の音がする。いつもは鬱陶しく感じる潮風だが、なぜか今年は気持ちよく感じた。海は日の光を反射して宝石をばら撒いたようにキラキラと輝いている。

 俺は甲板の上で手すりを握りしめて身を乗り出し、海を覗き込んだ。海上に大きな切れ込みを入れるように俺達が乗っている船は真っ直ぐ目的地へと向かっている。

 すると突然、空から甲高い笛の音が聞こえた。


 いや、今のは鳥の鳴き声だろうか。


 腕を上げて日差しを遮り、空を見上げると鳥が一羽ゆっくりと飛んでいる。空高く飛んでいるそれは日の光をものともせず、ただ優雅に鳴いていた。




 「とーちゃーく!」


 遥香はるかがアスファルトの上に跳び降りて叫ぶ。そして、俺が船を降りた直後に駆け寄り、弾んだ声で言った。


 「ねぇ、ねぇ、真空まそら。私たちほんとにここで過ごせるんだよね!あ〜、楽しみ!」

 「あぁ、夏休みの間二人も自分家に泊まっていいって言ってくれたばあちゃんに感謝しろよな」

 「うんうん、わかってるよ。あっ、真空!あそこにいるの真空のおばあちゃんじゃない?」


 遥香は俺の話を聞き流し、バタバタと世話しなく走っていった。遥香が走っていった方向の先には俺たちを見つけて手を振っているばあちゃんがいる。

 俺も遥香に離されないようばあちゃんのもとへと走っていった。




 ここは村人が百人にも満たない小さな孤島である。

 俺は毎年ここでばあちゃんと二人で夏を過ごすのだが、今年はもう一人。現在両親が海外出張中の遥香もいる。俺と遥香は昔から親同士が仲が良かったこともあり、小さい時から家族のように暮らしてきた。しかし、遥香の両親が二人ともいないというのは今年が初めてのことだ。それを見かねた俺の母親が祖母に伝え、毎年俺がいくこの島に遥香も来てはどうかとばあちゃんが提案したのだ。


 「ばあちゃん、久しぶり。元気だったか?」

 「まだ孫に心配されるほど衰えておらんよ。久しぶりじゃな、真空」


 そう言って、ばあちゃんは会う度に愛の抱擁という名の手で俺をきついくらい抱きしめた後、頭を撫でまわす。今回も俺にしわくちゃの両手を近づけてきた。

 逃げようと画策したものの願いは叶わず、今回もされるがままだ。

 そして、俺を撫でまわして満足したのか、隣に目を向けて、


 「初めましてじゃね。遥香ちゃん」


 そう言って遥香の後頭部を撫でる。遥香には髪を梳くようにして優しく撫でていた。


 俺にもそういう風にやってくれたらいいのに。おかげで髪の毛がボサボサだ。いや、別にやって欲しくはないんだけど。


 「じゃあ行こうか。真空、遥香ちゃん」


 そう言って、自分の家へとゆっくり歩き出した。

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